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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第2章 自由都市ベイル
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閑話 リュカVS雷巨人

※リュカ視点 主人公と別れた後

 ジンとリザを送り出したリュカは、目の前の希少種に向き直り思案する。


 心情からすれば2人を街まで送り届けてあげたい所ではあるが、目の前のコイツを放っておく訳にはいかない。


 ゼストに様子を見てくるように言われたのは2人のことなのか、それともこの希少種のことなのか……


 どうもジンを気にかけている様子ではあったが、まぁ確かに普通の新人ではないようだし、あのアルドラの弟子なのだ。特別と言えば特別か。




 紫の肌を持つ巨人の希少種。


 巨人の希少種自体は前に森の奥地へ調査に出向いた時に、遺跡内部で見たことがある。これとは違う容姿ではあったが、相当な能力を秘めていることが見るだけでわかる代物だった。


 だがそういった巨人の実力者は総じて用心深く、自分の縄張りからまず出ることはない。


 このように強力な個体が縄張りを出て彷徨いてるなんて初めて聞く話だ。


「まぁ、ジンの話していた魔人のこともあるし、手早く片付けてしまいましょうか」


 リュカはそう呟くと、空中を探るように手を動かした。


 指に光る金属の輪。遺跡から回収した魔装具の1つで収納の指輪と呼ばれている。


 異空間に道具を収めておけるこの魔装具は非常に重宝している。


 冒険者の鞄も便利だが、戦闘中に咄嗟に取り出すのには不便な所がある。


 収納力は小さいが、鞄を探らなくても良いこちらのほうが若干ではあるが使い勝手が良かった。


 リュカは悩みながら、空中から二振りの剣を取り出す。


 S級の彼女には数多くの字名がある。多くは彼女も認めておらず、周囲が勝手に呼んでいる好ましいものではなかったが、その中の1つに自身も納得している字名があった。


 魔剣収集家


 双剣士という珍しい職業に着いている彼女は、得物に片手で扱える刀剣類を好んで使っている。


 冒険者の報酬で得た豊富な資金を元に、金に糸目を付けずに集めた魔剣の数々。いつしか巷では有名な魔剣収集家と呼ばれるようになった。


 

 首落とし  魔剣 B級 【切断】


 魔術師殺し 魔剣 B級 【魔術妨害】



 世界中を探してもB級の魔剣を作れる鍛冶師は片手も居ないだろう。


 それほどの貴重な品だ。


 剣士であれば1度は夢見る、だが手に入れるには莫大な金とコネと運が必要。それがB級である。リュカには金もコネも運もあった。そういうことだ。


 

 赤い髪が風に棚引くように揺れた。


 彼女の周囲に魔力が渦巻く。


 ちりちりと火花が舞った。


 ゆるい巻き毛の髪が、まるで焼けた金属のような輝きを放ちはじめる。


「我が剣に祝福を。我が精霊に勝利を捧げん」


 自分の剣に口吻をする行為は、彼女が本気で戦う前に行う恒例の儀式。


 魔獣から作られた赤葡萄色をした革製の衣。鈍い黒鉛色の手甲。焦茶色の革長靴。それらが細身でありながらも、靭やかな筋肉を備えた肢体を隙間なく包んでいる。


「ふぅー……」


 そう一息ついた瞬間、彼女は飛び出していた。


【疾走】を使っているが、それにしても速かった。速過ぎるほどだ。同じ【疾走】を使うものがいれば、その速さに驚いたであろう。


 50メートル以上は離れていた距離が一瞬で縮まる。


 それを可能にしている1つは、足元の装備だろう。


 黒飛蝗の跳靴 魔装具 C級


 南方の大陸に生息する虫系の魔物。その魔物から僅かに採取できる腱から作られた魔装具である。


 身に付ければ跳躍力を高めてくれる装備だが、使いづらい特異な効果もあって人気はなく冒険者でも愛用するものは少ない。


 

 地面を跳ねるように進む。1歩の幅がとてつもなく深い。


 足が地面に接地する瞬間に【闘気】を発動させ、地面を蹴る力を増大させているようだ。


 

 巨人に気づかれること無く、その弱点たる首元に一瞬のうちに辿り着く。


 そして1撃で太い首を断ち切った。


 樹齢数百年の大樹のような太さを持つ巨人の首をだ。


 刃の長さは精々80~90センチほど。片手で操る剣である。人の身を断ち切るのとは訳がちがう。だが容易くそれを熟すことができるのは、魔剣に付与された【切断】の力が大きい。


 この魔剣の刃は、何の抵抗もなく肉を裂き骨を断つ。まるで切り口を自らより広げる作用があるかのように、巨人の太い首をも容易に落とすことができる。


 無数の罪人の首を刎ね続けた結果、何時しか魔剣へと変化したと噂される曰く付きの1品である。



 雷巨人の周囲にいた従者ではリュカの相手は務まらなかった。


 何せ気付いた時には、既に首が落とされている。


 僅かな時間に6体の首が地面を転がった。



 従者の巨人を軽く葬った後、立て続けに雷巨人へ刃を向けた。相手も自分の存在を認識しているが、死角である背後を取った。自分の攻撃速度を持ってすれば、躱すことは不可能。


 そう思える攻撃であったが、雷巨人の体から直接弾けるように電撃が放出された。威力はさほどでもないが、不意の反撃に思わず距離を取ることにした。


「流石に簡単には行かせてくれないか」


 いくらか電撃を浴びたようだが、彼女にはさほど問題に成らなかったようだ。


「グアアアァァァァオオオオオオオォォォッッッ!!」


 巨人がこちらへと向き直り、咆哮を上げる。


 巨大な大腿骨を、そのまま棍棒にしたような武器だ。大きく構え威嚇の体勢を取る。野生の動物等が自分をより大きく見せようとする。そういったような動きにも見える。


 巨大化した筋肉の塊から、バチバチと音を起てて紫電が発生しているのが見えた。今にも大きな力が解き放たれようとしているようだ。


「やっぱりソレは邪魔かなー」


 左手に持つ黒い刃を天に掲げる。


 魔術師殺しの名を持つ魔剣。周囲に特殊な魔力の波を発生させ、魔術の正常な発動を妨害する能力がある。


 人族からの評価によると、獣人族の多くは身体能力に優れた種だとされている。


 単純な腕力や脚力等や、反射神経、各種知覚等などが人族を基準として優秀らしい。その反面、魔術の素養は低く魔術師に適正のあるものが極端に少ない種族だという。


 そんな獣人族の言わば鬼門といえる魔術師を無力化できるのがこの魔剣だ。


 長時間広範囲に発動させるには、それなりに魔力の食う代物ではあるがリュカもそれなりに対策は用意してある。



 腰に巻いた帯革には12個の星が等間隔に備えられ、それぞれに深い輝きを放っていた。


 この星というのは小型の魔晶石だ。リュカの長い冒険者生活で集めた品の多くを使って、特注で拵えた魔装具である。


 魔剣、魔術師殺しを発動させると星の3つが輝きを失い黒く変色した。溜め込んでいた魔力を消費したのだ。獣人族が体内に溜め込んで置ける魔力総量には限りがある。


 それを外部に貯めて置けるようにと開発したのが、この魔晶石帯革であった。


「グガッ!?」


 その身から異変を感じたのか、巨人は顔を歪ませる。


 リュカはそんな巨人の困惑をお構いなしに肉薄すると、その左右に握られた魔剣を縦横無尽に走らせる。


 

 武神の籠手 神器 S級 【闘気効果上昇】



 腕に備えられた鈍い黒鉛色の小手が、脈動するように反応した。魔力を喰らい力を生み出す。星の輝きが再び3つ消失した。


 魔術師殺しが正中線を通って、深く切り込みを入れる。


 首落としが右腕を左脚を切り落とす。


 そして僅かな時間も掛からずに、巨人の希少種は各部位に切り分けられ、その肉塊を地面に晒すことになったのであった。




>>>>>




 巨人の体内より魔石を回収し、ジンの報告にあった魔人の追跡を試みる。


 とは言うものの、リュカ自身はスキル構成を戦闘に特化させているため、探索系の仕事には自信がなかった。獲物の追跡は獣狼族の十八番ではあるものの、件の獲物は雨の中で姿を眩まし、かなり時間が経過している。


 現場は戦闘が行われたこともあり、残された情報は期待出来そうにない。


 何より瘴気のこともある。追跡の難しさは言うまでもなかった。



 

 何か当てがあるわけではなかった。


 しいて言えば勘だろうか。


 長年荒事に身を置いてきた感覚。獣狼族としての天性の資質。対象となる相手の立場になって考える。私が奴ならどう逃げるか……


 すこし思案を巡らせた後、リュカは歩き出した。特に気負いはしていない。見つからなかったら仕方がない。今回はそういう任務を受けている訳ではないし、ジンが偶然出会ってしまった魔人の捕縛をついでと頼まれただけだ。正式な任務ではないのだ。


 

 ただリュカの勘というのは、下手な斥候の追跡なんかよりも随分と頼りになるようだ。エルフの直感のように、肉体に備わった鋭敏な感覚がスキルの有無さえ凌駕してしまうのかもしれない。得てして達人と呼ばれる領域に立つものには、似たような能力を備えるものが多いのも事実だ。


 何気なく進む道の先にそれはいた。



 

 獣道か。そこは素人が見れば、道などとは思わない。草が無造作に密集して生えた地帯。緩やかな斜面でもあり、ここらを進むには骨が折れそうだ。この先へと向かうにしても、普通の人間なら別の道を探したほうが無難と思える。そんな場所である。


 そんな場所で、とある木の根元にうずくまる人影を見つけた。


 あたりに濃密な瘴気が漂って入るものの、隙間なく埋め尽くされている訳ではない。


 そんな瘴気の切れ目に存在している。


 こんな場所でだ。普通の人じゃないことは明らかである。普段から油断などしないリュカであったが、念の為に警戒のレベルを1段階引き上げた。 



「そこのアンタ!私の声が聴こえるか?」


 木を背もたれにして根本に座り込んでいる。顔を伏せているので、その表情は見えない。だが体付きから男のようだ。奴が件の人物だろうか。


 取り敢えず呼びかけて見るが、反応はない。だが死体ではないようだ。少し離れてはいるが、生命を感じる。よく見れば微かに動いているようだ。


 話によればかなりダメージを与えたとのことだし、半死半生なのかもしれない。魔術師殺しを何時でも発動出来るように手に備えて、緩やかに近づいた。


 

 周囲は静かだ。


 濃密な瘴気が風に流れている。


 目の前に座り込むアレ以外の生物の気配はない。



 そのはずなのに、なぜそこにいる?


 何時からいる?いや、何時からいた?


 私と座り込む奴を挟んで対面する人影があった。気配がない。というより、極端に存在感がないような感覚。妙な感覚だ。目の前にいるのに、一瞬でも気を抜けば見逃してしまいそうになる。何かのスキルか、魔術の類か。



 仕掛けるか?


 まともな相手ではない。勘だが、コイツは敵だ。まぁ傷めつけて、もし敵ではなかったら、後で謝ろう。先手必勝だ。


 魔剣を握る手に力が篭もる。


「おっと、ちょい待ってほしいっす。自分は怪しいもんじゃないっすよ。ベイルのリュカさんですよね?その物騒な獲物をしまってほしいっす」


 声色からして若い男だ。彼は両手を上げて叫んだ。


「……貴方何者?なぜ私の名前を知ってる?」


 鋭く睨みを効かせて問いただすと、男は驚いたように声を上げた。


「そりゃ知ってるでしょう。有名人っすからね。S級冒険者とまともにやり合おうなんて気は、これっぽっちもないっす」


 その言葉を言い終える間もなく、上げた両手を素早く振り下ろした。ただ振り下ろしたのではない。手首の動きに独特の変化があった。何かを投げた――



 ギャンィンッッ――金属の削れる音。摩擦からくる異臭が鼻をついた。鋭く回転して飛来する何かを、魔剣で逸らした。


 顔と脇腹を狙った同時投擲。


 魔剣が帯革の魔力を喰らい、星の輝きが消費される。【魔術妨害】が周囲に発動される。


「悪いけど無駄っすよ。もう仕事は終わったんで」


 その言葉と同時に、木に持たれた男の首がごろりと地面に転がった。


 最初に手を上げた時に、既に何かを投げていたのか。


 あまりに自然な動きだったので、見過ごしてしまったようだ。思わず小さく舌打ちし、唇を軽く噛んだ。


「……逃げられると思うの?」


「じゃなかったら目の前まで出てこないっすよ。これは忠告っす。余計な詮索はしないで欲しいっす。あまり深入りされると面倒なんす」


 ここは相手の間合い。


 自分の間合いに持ち込むには、もう数歩踏み込む必要がある。


「何が目的?何をしようとしてるの?」


「自分に言われても困るっす。あ、あんまり余計な話をすると姉さんに怒られるっす。マズイっす。姉さんがキレると半端ないっすから。じゃ僕はそろそろ、御暇するっす」


 そう言われて、ハイそうですかと逃がしてあげる訳にも行かないのよね。


 私が追う決意を見越してか、重心を移動させたのを感じたのか、絶妙な間で攻撃を放ってきた。


 先程から攻撃に使っていたのは、手首の動きで回転を加えた金属の輪のようだ。外縁の刃は鋭く研いであるようで、殺傷力は高そうだった。


 顔を狙って放たれたそれを紙一重で避け、もう1方を魔剣で弾いた。


 その僅かな間に、件の男は逃げてしまったようだ。


 それにしても奇妙な逃げ方をする。


「この瘴気と森のなかを、背面走りのまま逃走するとはやるわね」


 少々虚を突かれたことも否めないが、あの余裕からまだ奥の手は持っているように感じた。若干納得行かないところもあるが、仕方ない今は深追いはしないでおこう。


 どうやらこの森には私も知らない何かが住み着いているらしい。


 ゼストには次の世代が育つまで引退するのは待ってほしいと言われているので、仕方なく冒険者稼業を続けているのだけど……


「こうなると今すぐに引退と言うわけには行かないかな」


 リュカはフゥと溜め息を吐いた。


 気になる案件が出来てしまった。ここは自分の生まれ育った庭でもある。あんな得体のしれない輩を放っておく訳にも行かない。


 ともあれ今は非常事態だ。


 リュカは今成すべきことを成すために再び走りだした。

※残された死体は、リュカが自前の冒険者鞄に備えてあった麻袋に詰め込んで丁寧に持ち帰りました。

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