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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第2章 自由都市ベイル
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第100話 見えざる怪物4

【縮地】の使用間隔が魔人化した後では確実に短くなっている。


 魔人化というのはステータスが向上する効果でもあるのかもしれない。


 人のステータスに表示される職業というものには、ステータス補正のような効果はない。


 魔人化というのはある意味進化のようなものなのか。


 ルークスの攻撃が一段と激しさを増す。


 それに反して俺の体力は目に見えて消耗し、やがてその影響が足に出始める。


 泥濘んだ地面に足をもつれさせ、体勢が崩れた。


「あっ、やべえ」


 眉間を狙う鋭い突き。突きと同時に【伸縮】の効果により刃が伸びる。俺は必死に首を逸らして、攻撃を回避する。


 頬が浅く切り裂かれた。


 あぶねえ!今のはやばかった。しかし体勢は崩れたままだ。ルークスの追撃が来る。


 汗が噴き出る。焦りが強くなり、体が強張る。


 次の瞬間、俺と魔人の間を掠めるように風が通り抜けた。



 リザだった。杖を突き出し、険しい顔で魔力を練る。


 杖先に魔力が集まり【風球】が撃ちだされる。


 空気を圧縮した無色透明の塊だ。


 それが100キロほどの速度を持って、3発4発と間を置かずに発射された。



 ルークスは【縮地】を使うまでもなく、バックステップで俺との距離をとる。


【風球】は俺とルークスの間を通りぬけ、その先にある木の幹に着弾した。


「ジン様から離れなさいッ!!」


 背筋を伸ばし、油断のない険しい表情で杖を構える。


 ルークスは無言のまま、リザへと顔を向ける。


 背筋に冷たいものが流れた。


 もう間もなくアルドラが【帰還】で駆けつける。であれば俺があと僅か時間を稼げば問題ないのだ。


 リザは身を隠して、自分が狙われないようにしているのがベストだったはずだ。彼女がそれを気づかないはずがない。


 彼女とてアルドラの実力も眷属のことも知っているはずなのだ。


 アルドラの真の実力がどの程度なのかは俺も測りかねてはいるが、あの巨人を容易く葬った手並みを見ればその実力も窺い知れる。


 ルークスがゆっくりとした足取りでリザの方へ向かう。


「リザ逃げろッ!!」


 俺は叫び声を上げながら魔人へ向かって走りだす。


 水飛沫が舞い、泥が撥ねる。


 リザは声が届いていないのか、杖を構えたまま再び【風球】を発射した。


 数発の【風球】が雨を撃ち抜き魔人へ向けて殺到する。


 しかし【縮地】がその攻撃を全て無力にしてしまう。掠りもしなかった【風球】は虚しく通り過ぎ、遙か先で着弾した。


 魔人がリザに迫る。その距離はあと僅かだ。


「うおおおおおあああああああーーーーーーーーーッッ!!」


 みっともなく叫び声を上げながら、俺はルークスの袖口を引き寄せるべく手を伸ばした。


 そして姿が掻き消える。【縮地】で移動した魔人は俺のすぐ脇に姿を現す。その手に持つ魔剣がギラリと光る。【警戒】が悲鳴を上げる。


 奴は赤黒い瞳と邪悪な笑みのまま、その狂刃を突き出した。



 ザクリという服を裂き肉に金属が食い込む音が聞こえた。



「ウッ……ぐぅぅううう……あれ?痛くない?」


 思わず刺されたと思ったが、間に合ったようだ。


「遅くなったようじゃな。すまん」


 時空魔術【帰還】で駆けつけたアルドラが俺と魔人の間に割って入った。


「……いや、助かった」


 思わず安堵の溜息が漏れる。


「アルドラ様ッ!」


 視線を落として見れば、アルドラの脇腹に深々と魔剣が突き刺さっていた。


 アルドラは魔剣を掴む魔人の手首を強く握りしめる。骨の軋む音が聞こえるほどの強い圧力だ。

 

 もう片方の手首も抑え、その動きを完全に封じる。その状態のまま、アルドラは魔人に頭突きを放った。硬いものがぶつかる鈍い音が聞こえた。


 頭部に強い衝撃を受け、魔人が蹌踉めく。


 動きを抑えられると【縮地】は使えないようだ。獣人は魔術の適性が低いかわりに、身体能力が高いのだという話を聞いたことがある。


【縮地】というのは魔術的な瞬間移動というより、技術的な高速移動みたいな感じなのだろう。


「……何じゃコイツは?」


 アルドラはすぐに異変に気がついたようだ。


「魔人だ。俺の目の前で獣狼族の男が変化したんだ」


「なんと……」


 アルドラも流石に驚きの表情が隠せないでいた。


「そいつは縮地という瞬間移動みたいなスキルを持ってる。絶対に逃がすなよ」


「あい、わかった」


 アルドラの握る握力が更に強まる。ルークスの手から魔剣が離れる。俺はそれをすぐさま拾い上げ、自身の鞄に収納した。……泥棒ではない。敵の武器を取り上げただけだ。武装解除だ。


「して此奴はどうする?」


 どうする?うーん、どうするか。リザの命も狙うような危険な奴は放置しておけない。何らかの事情はありそうだが、連れて帰るのも大変そうだ。まぁ、アルドラが拘束して、ギルドに連れて帰るしかないか……魔人の重要な情報源でもあるし、この場にマスターがいれば連れて帰って来いと言うだろう。目的の素材も手に入れたのだ、あとは帰還するだけだ。


「とりあえず縄か何かで簀巻にして、アルドラに担いで帰ってもらうか。武器は取り上げたし、武術系スキルは【剣術】しか持ってないから大丈夫だろう」


 念のためにと捉えている両手首をそのまま握り砕いた。更に両膝を蹴り抜き破壊する。命に別条はないが、これでしばらくは動けないだろう。【闘気】の回復力はそこまで高く無いだろうし、魔人化して強化されているとしても時間は稼げるはずだ。


「ぐうううううううぁああぁああああっッッッ!!」


 歯をむき出し、唾を飛ばし、獣の様に咆哮する。


 血のように禍々しい瞳が狂気を感じさせた。


 言葉を掛けるも、それに反応するような素振りはみせない。今ではルシーナのという人の名さえ忘れてしまったような印象を受けた。


 もとよりまともではなかったようだが、今の状態はまるで気が触れてしまったかのようだ。


 そんなやり取り中で再び【警戒】が危険を知らせる。


 ルークスの状態を見れば、もはや抵抗する術はないと見える。だとすれば――


「アルドラなにか来るぞ!」


 木が無理やり折れ砕かれる音、草や葉の擦れる音、土が抉れ泥の舞う音が暴力的に聞こえる。


 荒れ狂う何かが、猛烈な勢いで迫る音。


 アルドラは周囲を見渡す。彼の直感が働いていないようだった。


 それはリザも同様のようだ。


 俺は安全のために彼女を側に抱き寄せた。


「来たぞ!2時の方向、距離20メートル」


 大木を押しのけて現れたサイクロプスは、5メートルちかい大物だった。



 サイクロプス 妖魔Lv37



 現れた巨人は1体。その発達した太い腕を伸ばしながら、こちらへと迫ってくる。


「また姿を隠したやつか!見えぬ!」


 アルドラが吠える。


「目の前に迫ってる!近い!」

 

 状態:隠蔽


 魔術で姿を消しているのか。しかし隠蔽は音や魔力までは隠せない。ここまで接近してはエルフの直感を欺けないはずだが、コイツは俺の持つ【隠蔽】よりも強力らしい。魔力を遮断する隠密の能力も付与されているのだろう。


 アルドラはルークスを蹴り飛ばし自分から引き離した。そして【収納】から剣を取り出す。俺の指示を頼りに見えない魔物へ上段斬りを放った。


 巨人の大木のような腕に剣筋が走り、紅い血が空を舞った。


 人差し指と親指を切り飛ばし、腕に深い傷を負わせたのだ。


「グギぃガアアァァァァァァァァーーーーーーッッ!!?」


 巨人は絶叫と共にその姿を現した。


「ジン!リザを連れて下がるんじゃ!」


 アルドラの声に焦りの色が交じる。


 体の大きさ、肉付き、そこから放たれる雰囲気は、僅か前に見たあの6体を凌駕しているように思えた。


 これが大人のサイクロプスか。


 下半身よりも上半身が良く発達しているような体型。


 特に腕のあたりは筋肉が盛り上がり、全体のバランスとして人のそれより腕が長いように見えた。


 巨人の腕が地面を攫うように繰り出される。泥水や土石を巻き上げながら、手刀のような攻撃がアルドラに迫る。


 アルドラはそれを飛び退いて危なげなく回避する。


 だが空中に飛び上がったことを見越して、巨人は傷ついた腕でアルドラを地面に叩き落とした。


「ぐっッ!」


 地面へ叩きつけられ、思わず声が漏れる。


 俺は直ぐに行動を起こしていた。剣を抜いて巨人へと向かう。リザはその単眼へ向けて【風球】を1発放った。


 風の塊が巨人の顔を掠める。巨人はそれを鬱陶しそうに顔をしかめた。


 巨人の脇を通り過ぎるようにして走りこみ、すれ違いざまに脛を斬りつけた。


 ミスリル合金の剣は、分厚い巨人の皮膚も切り裂くことが可能のようだ。



 地面がぐらりと揺れた。


 巨人が倒れ、地面を揺らしたのだ。


 死んでいる。目を見開き喉を大きく切り裂かれて、水溜りに沈んでいた。アルドラの仕事だった。


「まだいる」


 アルドラへ向けて叫んだ。だが彼の直感は敵の存在を発見できないでいるようだった。彼は周囲を睨みつけ警戒している。



 俺はリザへと駆け寄った。


「ジン様!」


「悪い。魔力を分けてくれ」


「はい。勿論です」

 


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