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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第2章 自由都市ベイル
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第99話 見えざる怪物3

 理不尽にもほどがある。言いがかりもいいとこだ。だが今はアレコレと問答をしている余裕はない。


 何かの事情があって怒りに震え、そのまま頭がイカれてしまったのかもしれないが、俺の最優先は家族の安全だ。


 そのためには幾らでも残酷になると決意した。


「許さんッ!!」


 怒りに燃える男の剣が鋭い突きとなって俺に襲いかかる。


 魔剣 鎧通しは通常時はショートソードのように短い刃だが、魔力を込めると自在に【伸縮】させる能力があるようだ。


 自在とはいっても2.5倍、いや3倍弱ってところか。


 剣の重心、バランスからいっても伸ばしたまま振るうのは難しいのだとわかる。直剣ということもあって、突きが主体の武器らしい。


【警戒】と【鋭敏】の効果なのか、一瞬早く攻撃を察知し今のところ回避は出来ている。【闘気】の身体強化も効いているのだろう。


 傷は塞がったわけではないが痛みはある程度誤魔化せている。【闘気】の回復効果だろう。どうにか動ける。


 もしかしたら【活性】の効果もあるのかもしれない。



「……くぅッ」


 雨粒が頬を濡らし魔剣が脇を掠める。なんとかギリギリに回避しているといった状況だ。


 しかし【貫通】がやばい。ランクにもよるがゲーム的にいうと防御無視といった能力だ。確実に俺の革鎧は貫ける。急所にはいれば即死である。


 いや【貫通】がなくとも守りの薄い頭部や首をやられたらアウトだ。 


 ギリギリと歯を食いしばり襲いかかる獣人の青年。


 見れば見るほど嫌々戦っているようにしか見えない。その顔には怒り、憎しみ、悲しみ、苛立ちといった様々な感情が渦巻いているようであった。


 フェンシングの突きのような攻撃が連続で繰り出される。


 それを曲剣の腹で側面を打ち据えいなしながら、バックステップで距離を取る。


「ルシーナってのは恋人か?家族か?」


 俺の言葉に男の動きが一瞬止まった。俺はそれを見逃さず肩口を目掛け、縦に剣筋を走らせた。


「ッ!」


 だが手応えから傷は浅いことがわかる。もう一歩踏み込んだ攻撃でなければ、相手を止めることはできないだろう。


 青年は防具らしい防具は身に付けていない。


 ミスリル合金製のムーンソードの切れ味を持ってすれば、人の肉や骨など容易く切り落とす。


 直剣の突きを躱し、払い、いなす。剣と剣が交差する。


 明確な殺意を持った相手との初めての斬り合い。


 腹の痛みは既に麻痺して、感じなくなっている。極度の緊張感が集中力を増大させる。


 意識が研ぎ澄まされ、感覚が鋭敏になっていくのを感じていた。


 不意に男の姿が掻き消える。


 その瞬間【警戒】が反応する。


 背後から殺気を感じる。


 俺は咄嗟に身をよじって回避するが、利き腕を直剣が掠めた。血がだくだくと流れる。体内の熱とエネルギーが失われていった。


「ルシーナ……」


 青年はその場に立ち止まり、僅かに顔を伏せ暗い顔を見せる。


 次の瞬間、その場の空気が一変する。


 どす黒いオーラがルークスに纏わり付くように立ち昇ったのだ。


「ああああああアアアアアアアアアーーーーーーーーーッッッ!!!」


 体の中に渦巻く何かを吐き出すように、青年は叫んだ。



 ルークス 魔人Lv1



 瞳が赤く染まる。濁ったような赤黒い瞳だ。


 この世界で紅い瞳というのは、さほど珍しくはない。リュカやロムも紅い瞳である。人族には殆どいないそうだが、獣人族などには稀にいるようだ。


 だがルビーのような輝きを持つ友人たちの瞳の色とは明らかに違う。魔人のそれは赤黒く濁った、腐った血のような不吉な色合いをしていた。それはどうしてか不気味で気味の悪い印象であった。


「……変化した?魔人化したのか?」


 変化した。とはいっても見た目の変化は瞳の色だけだ。元の青っぽい色合いから赤黒い色合いへ。


 俺には魔眼があるためにステータスが切り替わったという情報が得られたが、それがなければ変化と言ってもその程度。いや雰囲気は変わったか?


 などと思案を巡らせていた直後【縮地】による奇襲を仕掛けられた。突然目の前に現れた魔人は、俺の喉元を狙って鋭い突きを放つ。


 最大レベルの緊張状態にあった俺は【警戒】【鋭敏】もあってか集中力が非常に高まっている。


 攻撃を身を引いて躱すのではなく、一歩踏み込んで躱しそこへ反撃と斬撃を放つ。


【剣術】スキルが効いているのか、思った通りに剣が動く。まるで長年付き合ってきた自身の腕の延長といったように、自在に扱える感覚があった。


 踏み込んだ攻撃は確実に相手を捉えたと思ったのだが躱された。【縮地】か。まるで瞬間移動のように、気付いた時には視界から消え、別の場所に現れる。


「はははははッッ!!」


 ルークスの表情が嬉々としたものに変化している。


 怒りや憎しみ、焦燥といった感情はなくなり、戦いを楽しんでいる狂人の顔つきだった。


【縮地】を頻繁に繰り返し、攻撃が激しくなる。俺の体を幾度と無く刃が掠める。反撃はするものの致命傷には至らない攻撃。だがこのままではジリ貧だ。おそらく俺のほうが、体力も魔力も保たないだろう。


 アルドラはまだ来る気配はない。おそらくまだ戦闘中なのだろう。 


 かなり状況は良くない。1秒でもコイツをどうにかしなければいけないのに、体中に刀傷を付けられているのに、何故かこの状況にどこか愉楽を感じている俺もいるのだ。


【闘気】の効果で痛みが麻痺しているせいかもしれないが、もしかしたら俺の中にも闘争を好む性質があったのかもしれない。

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