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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第1章 漂流者
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第9話 狩人と魔物

 しばらく夜の狩りを続けたが、進展は無かった。

 おそらくこれ以上粘っても、新たな収穫は無いだろう。

 で、あればそろそろ寝床に戻るとするか……


 俺がそんな事を考えてると、吹き抜ける風に嗅覚探知が反応する。


 血の匂い?


 いくらか魔物を狩っているので、血の匂いがしてもおかしくはない。

 しかし方向や距離を考えても、俺が狩った獲物からの匂いでないことがわかる。

 それにこの強い魔力。

 あきらかにワイルドドックでも、スティールバットでもない、強力な何かがそこにいる。

 その何かは、少しずつこちらに近づいてきている。

  

「アルドラさん、何か来てる。かなり強そうだけど、何かわかります?」


 昼間だと、そこそこ強い魔物も、たまに見かけた。

 たいがい特殊な能力などなく、パワーで押すタイプばかりだったので、楽と言えば楽だったのだが。

 だが今闇の中に潜むやつが、それらと同様のタイプかどうかはわからない。

 厄介な能力を持つ魔物であれば、知らずに相手するのはリスクがありすぎる。


 ふとアルドラを見ると、何時になく真剣な眼差しで、その方向を見ていた。

 

『まずい……ジン、すぐに大きく迂回して村まで逃げろ。いや教会だ、教会に立てこもって朝まで耐えろ』


 アルドラは焦った声で、捲し立てる。


 俺はアルドラの急な変貌に驚いていた。

 村の近くには強力な魔物は滅多に出ない、そう言っていた。

 出たとしても強力な威力をもつ雷魔術に敵は居ない。

 俺もうすうす思っていた。

 それはそうだろう、雷撃の威力は高く魔獣はほぼ一撃で沈む。

 大型の魔物であっても、ほぼ一撃だった。

 

 異世界って余裕だなと思った。


 順調に上がっていくレベル。

 魔物から手に入るスキル。

 まるでゲームの世界のようだ。


 俺はこの世界で命の危機を感じたことは、まだない。


 いままでは。


『……きたか』


 闇の中を、ゆっくりとこちらに向かってくるそれが姿を現す。

 月明かりに、魔眼の補正があるとはいえ、昼のように遠くまで見渡せるほどではなく、木の影に入ればほとんど見えない。

 木々の間を抜け、姿を見せたのは小柄な人だった。


 まだ距離があるため、はっきり確認できないが、少年のように見える。


 意外だ。


 魔力の強さ、アルドラの急変から見ても、かなりの大型魔獣を想像していたからだ。

 俺が思いつく森で出てきそうな大型魔獣といえば、熊かなと思っていたのだが違ったようだ。


 俺の身長は若返ってもほとんど変わってないと思うので、おそらく170センチくらい。

 その俺と比べても、だいぶ小柄で正確にはわからないが160センチくらいではないかと思う。


 動きやすそうなパンツルックの軽装で、武器のような物は持っておらず、肩くらいまで伸びた銀髪を靡かせている。

 

 村は既に廃村になっていて誰も住んでいないという。

 

 アルドラさんの反応を見ても、間違っても村人でない事は確かなようだ。


 ゾクッ


 鳥肌が立つというか、皮膚がざらつくような感覚を覚えた俺は、思わずその場から飛び退き距離を取った。

 気味が悪い。

 嫌な気配をビンビン感じる。


 これはアルドラさんの言うことを聞いて、逃げたほうがよさそうだ。

 と、思った次の瞬間。

 そいつは目の前にいた。

 

 薄気味悪い笑顔を浮かべて。


 白い肌に血走った様な紅い瞳。

 長い尖った耳に、長い銀髪。


『ジン!逃げろッ』


 アルドラさんの声が聞こえた。

 

 もちろん逃げますよ。

 

 でも確認だけはしておかないと。


 ウルバス 魔人Lv13

 

 魔眼でそいつを見た瞬間、魔人は俺の顔面を殴りつけてきた。

 

 振りぬかれる拳。

 口の中に感じる血の味。


 俺は一瞬で感じ取った。


 明確な殺意。


 こいつは友好的なやつじゃない。

 間違いなく敵だ。


 俺は咄嗟に体勢を整え距離をとる。


 めちゃくちゃ痛い。


 魔人。


 コイツも魔物の類か?


 俺はお返しにと杖に魔力を込める。

 雷付与からの最大威力の雷撃だ。


 雷付与は武器に雷の属性を与える魔術だ。

 これを使えばナマクラの剣も魔法の剣へと変わる、強力な魔術である。

 雷を付与された武器は、敵に接触するたび、雷でダメージを与えつつ、ショックを与え体を麻痺させる効果があるようだ。

 だがそれだけではない。

 雷付与された武器を触媒に、雷撃などの魔術を行うと、威力を底上げできることがわかっている。


 ウッドゴーレムも一撃で倒す威力の攻撃魔術だ。


「死んどけ」


 ズガアァァァァァーーーーーンッ


 杖から紫電が迸る。

 夜の闇を切り裂く閃光。


 至近距離からの雷を避けることは、いかなる生物でも不可能。

 直撃必至である。


 レベル的に見れば、かなり格上の相手。


 もしかしたら倒せていないかもしれないが、かなりのダメージは与えているはず。

 俺は確認の為に、白煙が上がる雷撃の到達点へと足を踏み入れる。


「……いない?」


 消し飛んだわけじゃないようだ。

 回避したのか?

 まさか、どうやって……


『後ろだッ』


 ザシュッ


 いつの間にか背後に回っていた、ウルバスの手刀が、肩口から腰へと振りぬかれる。


「ぐあっ」


 体から力が抜けていくような虚脱感。

 これはマズイ。

 なんだか理由はわからないけど、とにかくマズイ。

 

 額に冷や汗が流れる。

 

 俺は初めて自分より強い存在を肌で感じた。

 死ぬかもしれない。

 咄嗟にそう思った。


『おっと、お前の目的はわしだろう?』


 俺とウルバスの間にアルドラが割って入る。


 ウオォォォォォーーーーーッ


 ウルバスはアルドラを目の前にすると、歓喜とも思える表情で、雄叫びを上げて襲いかかる。

 

「アルドラさん!?」


 アルドラはその手で、ウルバスを捉え押さえ込んだ。


『まだ立って歩けるなら、さっさと行け!長いことは持たんぞ!』


 ウオォォォ


 ウルバスはアルバスの丸太のように太い腕に捉えられ、身動きが出来ないようだ。

 呻き声を上げるも、その動きは完全に封じられている。


『ぬうううぅぅぅん』


 ウルバスから黒い湯気の様なものが立ち上る。

 俺の魔力探知が危険を知らせる。


「ごめん、アルドラさん!」


『おおよ!』


 俺は村へと全力で駆け出した。

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