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短編集

〆切保険

作者: 巫 夏希

 保険代理店のカウンター。


「〆切保険があると聞いたのですが」


 メガネをかけた青年がスーツ姿の店員に必死の形相で語っている。


「ええ、御座いますよ」


 対してスーツ姿の店員は冷静を保っている。


「〆切保険は一生涯に致しますか、それとも定年制にしますか?」

「て、定年制?」

「ええ。〆切保険はその仕事を生業としている人と、趣味としている人とでタイプを分けております。生業としているならば、前者をお勧めします」

「時間が無い。前者でいいよ」

「一生涯ですね。かしこまりました。失礼ですが、小説・イラスト・漫画・その他からお選びください。その他に丸を付ける場合は、何を作っているかも併せてお書きください」


 書類を受け取り、青年は『小説』に丸をつける。


「小説ですね、因みに発行部数の方をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか?」

「デビュー十年になりますが、およそ三百万部です。本の数は二十一冊」

「ということは巻割り十四万部となりますね。小数点以下は切り捨てとなりますのでご容赦ください。……二十万部以下ですので、こちらの『スタンダードプラン』をお選びいただけます」

「スタンダードプラン?」

「〆切保険の制度について、簡単にご説明させていただきます。〆切保険は巻割りの部数によってタイプが分けられます。一年ごとに見直されていくので、チェックする必要はありません」

「解った、解ったからそれでいい」

「スタンダードプランの場合、年間で三回まで補償いたします。それ以降は保障の対象外となりますので、ご了承ください」

「解ったから、早く契約を」

「かしこまりました。ありがとうございます。それでは契約のほうに移らせていただきます」








 ――書店に行くとき、「あの作家が新境地に挑む!」というアオリ文を見たことはないだろうか?

 ――それは〆切保険によって『代理』で書かれたものなのだ。作者の絵柄或いは文の癖を徹底的に分析して書かれている。

 ――保険業界が行った新たなサービスに文筆業の人間は大いに喜んだ。お金を稼げば稼ぐほど、自分で書く量が減っていくのだから。

 ――しかし、〆切保険の代理原稿を書いているのもまた、人間だ。彼らはそれによって書かれた原稿を二束三文で買い取られ、そして有名作家の名前で売られていく。

 ――この事象が社会的に広く知られ、社会現象に発展するのだが、それはまた別の話。




おわり。

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