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白雪姫5

 僕らは、白雪姫と決着をつける為に、森を進む。

 とりあえず、先ほど僕らが戦っていた『拠点』まで戻ることにした。

「白雪姫は、受けた傷を瞬時に修復する魔法を使ってるみたい。それと同時にガラスで世界を閉じ、私たちの逃げ場を断った。完璧な、タイミングで発動されちゃったわね。ほんと、あの口調に騙されたわ」

「一撃で仕留めるしかないのか……、こっちは、毒で体力を削られるって言うのに、厳しい状況だよ」

「毒ね……、白雪姫を上手く中毒状態に持ち込めば、勝ち目が見えると思わない?」

「それは……、でも、どうやって?」

「傷が治ってしまうなら、それを利用してやるのよ」

 アリスは、何か思いついたようだ。

「アリス、それはいったい?」

 視界が開け、白雪姫の『拠点』に到達する。

「見てればわかるわよ。毒を食らわば皿までって言うけど、その先に待ってるのは破滅だって事を思い知らせてやるわ」

 アリスは、前方で待ち構える白雪姫を睨みつける。

「わぁ、アリスちゃん元気になったんだぁ☆ でも、可哀想……、また苦しむだけなのに……、シクシク」

「性悪なのが、セリフに見え隠れしてるわよ。……さっきはどうも、たっぷりお返ししてあげる」

「ぶぅ、ゆきりん悪い子じゃないもん! ただ、可愛い子を見ると虐めたくなっちゃうだけなのだ☆ ドュフフ♪」

「白雪……、ゆきりん、その辺にしとこうぜ。小人も一匹減らされちまったし。あんまり、遊んでていい相手じゃなさそうだ。さっさと片を付けちまおう」

 青年はそう言うと、小人たちをけしかけてきた。

 トウィードルダムが応戦するが、六人相手じゃ分が悪そうだ。

 そこで僕は、適当な小人を指差し、

「キミ、ゆきりんに耳掻きしてもらってただろ! キミは、マッサージしてもらってたな! うらやましいな~」

 適当な事実をでっち上げた。

 小人は自分を指差し、わざとらしく驚く。

 正直、さっきと同じ様な手が通用するとは思わなかったが、イチかバチかだ。

 しかし……、

「あーっ! なんでマスターさんがその事知ってるの!? あのねダーリン、違うの、よっちん、いつも私にお菓子くれるから、お礼に……、てへぺろ☆」

「はぁ……、俺はかまわないが、アイツらを見てみろ。お前が肯定するから、仲間割れを起こしてるぞ」

 白雪姫のマスターの指さした先は、小人たちのバトルロイヤル会場になっていた。

 ちなみに、『よっちん』は真っ先に狙われて、目を回していた。

「にゃーっ!? やめてー、ゆきりんの為に争わないでー」

 白雪姫は、にやにやしながら、棒読みで小人たちを制止しようとする。

 心の中では、もっと争えと言っているに違いない。

 もちろん、そんな声など彼らの耳には入らない。

「あは☆ まぁいっかー♪ そんな事より、ゆきりんはアリスちゃんと遊んじゃうもんね~」

 そういって、白雪姫はアリスに向き直る。

「茶番は終わった? ちゃんと待っててあげたんだから、感謝しなさいよね」

 アリスは腕を組み、余裕の表情だ。

「くぅ~、アリスちゃん、まじツンデレ! そ、そういう子ほど、弱気になった時の顔が、たまらないのぉ~☆」

 瞳をハートの形にさせて、白雪姫はアリスに迫る。

 その表情とは、裏腹に殺意を込めた打撃をアリスに放つ。

 アリスは、口を真一文字に結び、それをヴォーパルソードで受ける。

 毒霧が舞い、アリスは、顔をしかめる。

「痛ッ! なに? アリスちゃん嫌がらせ?」

 白雪姫が眉根を寄せ、頬を膨らませる。

 白雪姫が大剣を殴った際、そこから、棘のようなものが飛び出し、白雪姫の手首の辺りを傷つけたのだ。

 だが、その傷口はすぐにふさがる。

「えへへ……、実は治るとき、ちょっぴり気持ちいいんだよね……、アリスちゃんのえっち☆」

 アリスは何も言わずに大剣を構える。

「ゆきりんの事、無視するんだ? そういうの、可愛く……、ないっ!」

 白雪姫は、乱打し、アリスに反撃の隙を与えない。

 だが、その度に大剣から棘が飛び出し、白雪姫の白い肌に、一時的に傷をつける

 剣撃の音が響く度に、毒霧と白雪姫の血煙が舞う。

 だが、白雪姫はそれを意に介さず、ひたすらアリスを打ち続ける。

 僅かながらも吸ってしまう毒霧に、アリスはせき込むようになる。

「あはは☆ アリスちゃんも、ゆきりんの魅力にクラッときちゃった? そろそろ苦しいんじゃない?」

 アリスだけじゃない、大剣も度重なる打撃に軋みをあげ始める。

「そうね、そろそろ苦しいかもね」

 アリスは、大剣を大きく振るい、白雪姫と距離を開けた。

「アナタが……、ね?」

 アリスはニヤリと笑い、白雪姫を挑発的な瞳で見つめる。

「あは、は……。少し疲れちゃったけど、まだまだ、あれれ……? なんだろ、きもちわる……」

 白雪姫の視点は定まらず、なんども頭を振る。

 全身が汗で濡れているのは、激しい攻撃のせいだけじゃなさそうだ。

「アリスちゃん、私に、何を……、したの……?」

 白雪姫は、苦しそうな表情を浮かべ、よろよろと後退する。

「言ったでしょ? お・か・え・しっ♪ いくら毒に耐性があるからって、限度ってものを知っておくべきだったわね。……アナタ、傷口を再生する時に、傷口から毒を取り込んだまま再生してたのよ。血で流れる訳でもなく、毒を血管から、直接取り込み続ければ、どうなるか……。まぁ、身を持って理解したでしょ?」

 アリスが、冷たい瞳で白雪姫に解説する。

 小人たちの姿は既になく、赤黒い染みだけが、あたりに散らばっている。

 そこには、トゥイードルダムだけが悠然と立ちすくんでいた。

「あは……、アリスちゃん、これくらいで……、いい気にならないでくれるかなぁ……? ゆきりん、まだ、ぜんぜんよゆーだし……」

 強がってはいるものの、白雪姫は既に立っているのがやっとだ。

「アナタ、すごく良いわ。私、アナタの事、好きよ」

 アリスは、心からの笑顔で笑う。

「あは……は、ゆきりんも、……アリスちゃん、の事……、好き……、だよ。だから……、最後の切り札、見せてあげる」

 白雪姫は、虚空に手を伸ばし、何かをもぎ取る仕草をする。

 すると、その手には金色に輝くリンゴが握られていた。

 白雪姫は、シャクリと音を立て、リンゴをかじる。

「甘酸っぱい……。普通のリンゴと、味は変わらないみたいだね」

 そう言って、金色のリンゴを放り投げた白雪姫は、先ほどまでの苦しげな表情から一転して、涼しげな顔をしていた。

「毒消しのリンゴ……、かしら? 切り札にしては、控えめね」

「アリスちゃんは、冗談が上手いなぁ。そんなのが切り札の訳ないじゃん。……不老不死だよ、アリスちゃん」

 白雪姫は、真面目な顔で、冗談であってほしい事を言う。

「嘘よ、そんなのがあったら最初から使うはずだもの」

 アリスは、動じない。だが……、

「一夜限りの不老不死、なら信じるかな? 一回こっきり、自分の世界でのみ、使用可能。だから、離脱されない状況でしか意味がない。ほら、納得した? じゃあ、殺し合い……、しましょ」

 白雪姫は、ニコリともせず、アリスに襲いかかる。

 無茶苦茶だ、そんなの勝てる訳がない。

 殺せない相手に、どうやって殺し合いなんてできる?

「アリス! ガラスの棺を破壊できないか!?」

「わからないっ! でも、私の火力じゃたぶん無理よ。ってか、この状況じゃ、まず無理!」

 白雪姫は、体のリミッターが外れたかのように、力任せの攻撃を繰り広げる。

 一撃が重く、アリスは攻撃を受け流す度によろめく。

「あんなの、まともに喰らったら一撃でうごけなくなるぞ……」

 あまりの驚愕に僕は、言葉を漏らす。

 だが、同時に違和感も覚えていた。

 攻撃の重さに比例して、速さが格段に落ちている……?

 そして、カウンターで大剣から飛び出す棘に、何の反応も示さないのだ。

 白雪姫は口から血を吐き出しながらも、攻撃の手を緩めない。

 そうか……、そういうことなのか。

「アリス、もう……、勝負はついている。不老不死なんて、嘘だ。トドメを……、終わらせてあげよう」

 僕はアリスに、そう告げた。

「タツヤ……? それって、どういう……。まさか、白雪姫はもう……」

 距離を取ったアリスに、ふらふらと近づく白雪姫。

 目の焦点は、もはや合っておらず、半開きの口からは真っ赤な血がダラダラと流れている。

 白雪姫は、まだ死んではいない。

 だが、死んでいないだけだ。

 白雪姫はもう、生きてはいない。

 ただ、動き、拳を振るう、それだけの存在。

 金のリンゴを食べると不老不死になれるなんて嘘だった。

 実際は、あらゆる感覚を失い、闘争本能だけに突き動かされる——生きた屍に、姿を変える禁断の果実。

 アリスの一振りに、白雪姫の突き出した右手が、宙を舞う。

「ああ、雪子……、なんて美しいんだ」

 青年は、瞳を潤ませ呟く。

 こんな、物言わぬ人形のような顔が美しいだって……?

「白雪姫はもう死んでいる。理解してないのか?」

 僕は哀れみの目で青年をみる。

 だが……、

「そうか、やはり、そうなのか! 俺が初めて、アイツを愛しく思ったのは、病室で眠るアイツを見たときだったんだよ! 胸がときめいたんだ! それまでは正直鬱陶しいだけだったんだがな……。失ってから気付く愛しさってヤツと勘違いしてんだなぁ。ああ、ちくしょう、さっきアイツのハラワタ見た時に気付いてりゃあよかった。俺、ああいうのが好きなんだってな!」

 青年は、手を顔に当て、地面を踏み鳴らしている。

 肘から先がない右手で、アリスを殴打しようとする白雪姫。

「最後のは、蛇足だったわ。さようなら、白雪姫」

 アリスは、白雪姫の首を撥ね、その命を終わらせた。

 青年は、白雪姫の首に駆け寄り、涙を流す。

 その涙の意味など理解したくない。

 アリスは、それを嫌そうに顔を歪めて一瞥すると、踵を返した。

 空を覆うガラスは砕け散り、次いで、青空も砕け落ち、世界は消失した。


 現実世界に戻った僕らは、お互いを何ともいえない表情で見合う。

「まぁ、何はともあれ、残りは三冊よ。そろそろ、願い事考えておいたら?」

 アリスは、その手に持っていた純白のハードカバーの本を抱きしめる。

 それは、淡い光を放ってアリスの中に消えた。

「僕の願い事は……、アリスとずっと一緒にいることだ」

 僕は最初から変わらない——以前、赤ずきんの世界で否定された——その願いを、アリスに告げる。

「アリス……となら可能かもね。だけど、それは私じゃない、他のアリスになるけど」

 アリスは、辛そうな顔をして、僕を見ようとしない。

「なんでだよ!? ……僕のことが嫌いなのか?」

 心が軋みをあげ、思わず声を荒げる。

「そうじゃない! そうじゃないわ……。私ね、ずっと眠ってるの。いいえ、私だけじゃない。私たち、『童話少女』は意識が戻らないまま眠り続けている『眠り姫』なのよ。……『童話少女』が叶える事のできる願いは二つに一つ。『童話少女』としての記憶を全て失い、再び目を覚ますか、安らかな死を迎えるか、……よ」

「なんだよ、それ……。選ばせる気なんてないじゃないか。つまり、君たちは再び目覚める為に戦ってるって事か……? いや、待ってくれ。もう一つの選択肢はおかしくないか? 安らかな死って……、『童話少女』は敗北したらどうなるんだ……?」

「……肉体が滅びるまで、永遠に目覚める事はないわ。意識はある。でも、体を動かすことも、喋ることもできない。……私は十年間、その状態だった。気が狂いそうだった! いいえ、もう狂っているのかも。他の子たちが、恋をして、友達とケンカして、泣いて、笑って、怒って! それを繰り返して、大人になる貴重な十年間を奪われた! 覚えてないよね……? 私たち、一度負けているのよ。十年前の戦いで……」

 アリスは、悲痛な表情で真実を語る。

「嘘……だろ? なんで、僕は何も覚えていないんだ……?」

 僕の心臓は限界まで鼓動を刻み、耳鳴りが激しくなる。

 頭が割れるように痛い。

「十年前、アナタは戦いの最中に、敵の攻撃で記憶を封じられた。そしてそのまま、その世界を追い出されたのよ。結果、私たちの繋がりは切れ、戦う資格を失った。アナタは元の生活に戻り、私は動かない自分の肉体に閉じこめられた。それが、アナタが記憶を失った理由。言っておくけど……、アナタを恨んだりなんかしてないわよ? 全て、私のミスが原因で引き起こした事なんだから」

 僕は言葉を失った。

 呼吸が乱れ、いくら息を吸っても、酸素が入ってこない。

「タツヤ……? タ……! しっか……て! …………!!」

 天と地がその意味を失い、遠くは近くになる。

 強烈な吐き気に、胃の中身が逆流し、床が迫る。

 僕は、じぶんを、赦せない。

 その時、柔らかな感触に包まれて、僕の体は止まる。

 何度も自分の名を呼ぶ声を耳にしながら、僕の意識は白く染まった。



 折り返し地点です。

 なので、中書きでしょうか。

 プロットとは一体なんだったのか。

 予告なんてつけた日には、新劇版ヱヴァ並みの嘘予告になりますね。

 後で、修正かけなきゃ(使命感)

 一応、蛇行運転しながらもラストに向かってはいるので、途中で事故らない限り大丈夫なハズ!

 目を通してくださってる方、ありがとうございます。

 人目に触れた以上は必ず完成させますので、もう少しお付き合いいただけたら幸いです。

 完結したら、もう一度推敲して、最低限、矛盾点等を潰していきたいな。

 違うお話も書きたいな。

 また、目の下のクマが濃くなるな。

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