第八話 危ない薬
惚れ薬。人を好きになる薬。
意中の人に飲ませればその人の心を自分のものにできるという魔法の薬品。おとぎ話の登場人物でなくとも、年頃の娘でこれを欲しがらない者がありましょうか。
といっても、毒島さん自身はこんなもの全然欲しくなかったし今までなんの興味もありませんでしたが、とにかく彼女は大急ぎで研究を始めました。
いつもの毒島さんならこういうときは学校なんか行くのはやめて研究に専念していたわけですが、最近は学校に行きたくて仕方がないので学校もサボりません。でも授業そっちのけでなにやら分厚い本を読んでばかりいるので先生に怒られたりしました。
かつてない集中力が毒島さんに宿っていました。かれこれ3日ほどまともに寝ていませんがぜんぜん眠くなりません。まぁ、これはちょっとだけお薬の力に頼っていますけど。
そんな毒島さんの様子を、毒島さんの『お友達』は期待と不安の目で見守っていました。
そして
一週間ほどかけて毒島さんは一瓶の薬液を作り上げました。
薬液の中身は精力剤と強心剤それから濃縮したアルコールです。動物実験の結果が上手く反映されてくれるのなら、この薬は被験者の性的欲求を高めつつアルコールによって判断力を低下させ、強心剤による心拍数の増加を恋愛の高揚感と混同させてくれるはずでした。
ようするに、人が恋をしているときの状態を生理学的に再現しようと毒島さんが苦心の末に作り出した薬品ですが、
「……でも動物実験じゃ人間の恋心までは計れないしな……」
ということはさすがの毒島さんにも分かっていました。
でももう自分でやれることは全てやりました。あとは結果を待つのみです。
「やった! キミちゃん、すごいっ!」
薬を渡すと、川崎さんは文字通り躍り上がって喜びました。
「ちょっとアルコール臭がするけどさ、味は限りなく無味にしたから、それ一瓶何かに混ぜて食べさせれば一時間前後は効果が続くと思うよ」
「なんかこーいうのってドキドキするね」
川崎さんは瓶の蓋を取ってみました。その瞬間、ちょっとどころではないアルコール臭が部屋中に放たれました。柿ピーもヨヨちゃんも思わす「うわっ」と鼻をつまみます。
「大丈夫かー!? これ」
「……ま、クッキーの隠し味にお酒が入ってることにすれば……」
先行きが不安です。
「もし成功したら、アレ私達にも作ってよね」
「あーっ、私は実験台かぁー?」
兎にも角にも毒島さん特性惚れ薬は、無事に川崎さんの手に渡りました。
毒島さんはもうあとは祈るばかりでした。
頑張れ私の惚れ薬。ユウちゃんの役に立て。