第六話 恐ろしいもの
毒島さんは突然、川崎さんが怖くなりました。
絶対おかしいどうかしてる。私に、この私にあんな風に接してくる人間なんて今までいなかったもの。きっと川崎さんは病気の後遺症で頭が変になってしまったんだ。
学校で川崎さんが話しかけてきても、毒島さんは何も言わず、そそくさと逃げてしまいました。他の人には何を言われたって無視するばかりで逃げたりしない毒島さんですが、今の川崎さんだけは特別のようでした。
川崎さんの顔を見るだけでなんだか顔が熱くなって、胸がどきどきします。そして背筋が寒くなって喉が渇くのです。ああ怖い。怖くてしょうがない。
「キミちゃん、今日も一緒に帰ろう」
川崎さんがやってきました。
毒島さんは一緒に帰りたいと思いました。思ってしまいました。
でも駄目です。川崎さんが近づくとすぐにまたあの症状がやってきます。毒島さんはこの症状を治療する薬が作れないのです。
駄目、行っては駄目。嫌な予感がする。あの子に近づいちゃ駄目だ。
「ひ、ひとりで帰るから」
毒島さんはマスクの位置を正しつつ、素早くそこを離れました。
残された川崎さんに、すぐに他の女の子のグループが声をかけます。
「なにしてんのユウちゃん、帰ろうよー」
「う、うん」
ほおらね! と毒島さんは思いました。
ほーら! 川崎さんには他の友達が沢山いるんだもの、私なんかあそこには入って行けるわけないし、川崎さんも私よりあっちの方がいいに決まってるよ。私ともあろう者が一体何考えてたの、決まってるでしょ! 決まってる!
「キミちゃんも一緒においでよ!」
毒島さんは狼に吠えられたウサギのようにびくっと飛び跳ねました。
バカ何言ってるの川崎さん、そんなこと言ったら他の子たちが怒るでしょ。
「変なの。私達、他の人と帰るよ」
毒島さんの思った通り、何人かの女の子がそのグループを抜けて去っていきました。でも川崎さんを含めて三人、まだそこに残っています。川崎さんはまた毒島さんを呼びました。
「キミちゃん!」
な、何で呼ぶの!? 私が行ってもいいの? ほら、その横の二人、川崎さんになんとか言ってやりなよ。お前おかしいぞ! って。
ところが、その二人も別に嫌な顔もせずに黙っているのです。毒島さんは針金みたいな前髪の下で目を見開いていました。そのまま何も言わずに突っ立っていると、二人のうちの右側、ノッポのそばかす娘さんが毒島さんを見下ろしてこう言うのです。
「はやく来なよ」
……本当にいいの? 私、そこに入って行ってもいいの?
「……か、川崎さん」
毒島さんは震える声で呼びかけました。
「むっ、違うでしょ、キミちゃん」
「あ……ユウちゃん」
「よーし」
そう言って、川崎さんは毒島さんのタワシ頭をごしごしと撫でました。にっこり笑いながら撫でました。他の二人も、ふんまあしょうがないねって顔で笑っています。
そして、ああ、なんてことでしょう。
毒島さんもつられて笑っていました。
エヘヘ、エヘヘヘ。