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第十八話 三枝美穂の行方

 そこはよく整理された、けれども狭く薄暗い部屋でした。夜の闇が窓枠の中を黒一色に染めています。

 毒島さんは一人の刑事さんと机を挟んで向かい合って座っていました。傍らには記録係が広げたノートを前に押し黙っています。

 警察署の取調室。その光景はまるでドラマのワンシーンのようで現実味が感じられません。


「それでは、事件についてあなたがが知っていることを話してください」

 刑事さんがまるで学校の先生みたいな口調で言いました。

 毒島さんは応えません。うつむいて小さく震えています。意図して黙秘していると言うよりは、言葉を話せるほど頭が回っていないと言う様子です。

 これから私はどうなるんだろう。ええとええと、この前に見たドラマではどうだった?

 そうだ、何の変哲もない幸せな主婦だったのに、ある日突然悪質な飲酒運転の車に轢き逃げされて夫と息子を失い不幸のどん底に沈んだ三枝美穂は、三年後に恋人として出会った男が実はその犯人だったことを知り、思いつめた挙句に殺してしまうんだ。その後被害者のもと恋人だった女性に罪をなすりつけることを思いつくんだけど……ええと……色々あって……、結局彼女は捕まってしまう。苦労して考えたアリバイ工作も凶器の隠し方も全て見破られてしまう。そして、刑事さんに自分があの男のせいでどんなに辛い思いをしたか、その男と恋をしていた事実がどれほど自分を苦しめたかなんてことを力説するけれど、『けれども殺してしまっては、あなたがしたこともあの男と同じになってしまう』なんて諭されて、結局手錠をかけられて、パトカーに乗せられて……。

 あれっ!? そこでスタッフロールが流れてくる! そこからが重要なのに終わりだなんてあんまりだ! あの後三枝美穂はどうなってしまったんだ!?

 彼女の罪は殺人罪。もしあの後死刑や終身刑になっていたら、刑事さんのやったことも人殺しじゃないの? 法律に反してなきゃ人殺してもいいの!? それじゃあ今目の前にいる刑事さんに私の生き死にを左右する権利があるってこと? そんなのないよ……そんなの……おかしい。


 毒島さんがいくら質問しても少しも反応しないので、刑事さんも少し困ってしまいました。そこで、隣の記録係さんと小声で一言二言相談して、なにやら小さく頷きあいます。

「――キミの部屋から、これが出てきたんだが」

 そう言って刑事さんが取り出したのは、先生を殺した毒薬の瓶でした。

 毒島さんは驚きました。一瞬で背骨が折れそうな勢いで伸びました。

 この人たち、私の部屋を調べたんだ! 秘密の薬棚は下着入れの奥にあるのになんてことを、いやそれどころじゃないぞ。どうしようどうしよう。そうだあの薬は毒劇法には指定されてないから持ってるだけじゃ犯罪にはならないんだいやそういう問題でもない。このままじゃ私本当にええとどうしようどうしようどうしよう。

「あっ、あの、あ、あっ」

 毒島さんの舌が言葉にならない言葉を発しました。刑事さんたちは冷たい目で毒島さんを見ています。とても冷たい目です。毒島さんを殺人犯だと思い込んでいるクラスメイトたちと同じ目――。


 ガチャ、と音がして、取調室の扉が開きました。そして入ってきたのは、五十歳前後の女性職員さんです。失礼します、と一言断ってから、刑事さんのそばに歩み寄り、そっと何か耳打ちしました。記録係さんも加わって、何か三人でこそこそと相談しあっています。

 なんだろう、と毒島さんは思いました。女性職員さんは何かを知らせに来たのです。それは果たして毒島さんにとっていい知らせなのでしょうか、悪い知らせなのでしょうか。

 しばらくして、刑事さんは言いました。

「……これから君の友達がここに来るそうだ。そしてその子は、自分が武田先生を殺した、と言っているらしい」

「えっ?」


 毒島さんは自分の耳を疑いました。扉に目をやると、覗き窓越しに外で待機している人影が二つ見えました。一人は大人の男の人らしき影ですから、おそらく女性職員さんと一緒にもう一人を連れてきた刑事さん、そして、そのもう一人の影は……。




 毎度「毒島さんと呼ばないで」をご覧頂いております皆様、ありがとうございます。

 なんと毒島さんは次回で堂々完結です。ここまでお付き合いくださって本当にありがとうございました。

 最終回だけあってとっても長くなりますが、最後までお楽しみいただけましたら幸いです。


 次回作プロットも同時進行中。近いうちに公開できると思うのでそちらもお楽しみにね。

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