第一話 白いマスクの女
昔々、というほどでもないわりかし最近のお話。あるところに一人の女の子がおりました。
彼女の名前は毒島君子。16歳の高校二年生です。
毒島さんはかわいい女の子ではありませんでした。それはもう全くかわいそうなぐらいかわいくありませんでした。
133センチという異常な低身長に加え、俯きがちなので背の高い人は毒島さんの髪の毛しか見えません。その髪はとんでもなくカタイ髪質で、頭に大きなタワシでも乗っけてるみたいです。比較的低い身長の人は毒島さんの顔を拝むことができますが、ひどいニキビ顔に生まれつきの非常にキツイ目つきをしていて、見るだけでなんだか気分が悪くなってきます。だから誰も彼女の顔を覗き込もうとはしません。
毒島さんは自分がかわいくないことを知っていました。そしてそれを大変コンプレックスに思っていました。そこで髪を伸ばして顔を隠したり、年中風邪を引いているみたいにマスクをして登校したりしているのですが、それはむしろさらに彼女の不気味さをパワーアップさせていました。
毒島さんには友達がいませんでした。毒島さんより不細工な子でもたくさん友達のいる子はいるけど、毒島さんは独りでした。それは多分毒島さんの性格に原因があるのでしょうが、本人は自分が可愛くないからだと信じて疑っていませんでした。そこで毒島さんはますます殻にこもった性格になり、それがさらに人を遠ざける結果に繋がりました。
見事な悪循環ができあがりました。
この悪循環はかれこれ10年近く(毒島さんが小学校に入学した頃から)続いていて、今では毒島さんは立派な一匹狼になってしまっていました。
そんな毒島さんの唯一の心の支えは、色々な種類の毒や薬物を調合することでした。
小さな頃から薬剤師のお父さんの仕事を教えてもらっていた毒島さんは、薬学方面において女子高生とは思えないほどの知識を持っていたのです。それはもう、明日にでも論文を書いて博士号を取れてもおかしくないほどの知識量でした。
その知識でもって毒島さんは、お父さんの薬品棚からお薬をこそっと頂戴したり、独自のルートから法律違反スレスレのお薬をちょちょっと手に入れたり、時には材料を自力で採取・栽培したりして、色々な薬品を自分の手で作りました。もはや人間よりもお薬のほうが心を開ける友達でした。
いつしか毒島さんの部屋の隠し薬品棚(洋服ダンスの下着の奥にあるよ!)には、蓋を開けるだけで周囲数百メートルの人を眠らせたり、痕跡なく人を絶命に至らせたり、精力を異常に増強させたりするような、ちょっとおまわりさんには見せられないお薬が山のように並んでいました。
毒島さんは部屋に一人でいるとき、その棚をこっそり開けて眺めるのが何よりの楽しみでした。