キャットキューピット
突然ながら、猫を拾った。
「……にゃーん」
「どうしようかなあ、この猫」
猫を飼うのは問題ない。俺が住んでいるところはボロいアパートだが動物は飼ってもいいことになっているし、そこそこ収入もあるからどうせ一匹くらい動物が増えたってそんなものはどうだっていいのだ。
「にゃーん」
「はいはいいい子でなー」
そう言って俺は冷蔵庫を開けて牛乳を出した。キャットフードを飼うのはめんどくさいので牛乳で済ませることに、そう決断した。牛乳ならば忘れてしまう心配はない。
昨今牛乳は猫にあげちゃダメなのか? とか言われているがキャットフードをあげなければいい話でそんなことはまったくデタラメであることは、俺はネットの知識で充分手に入れていたのでどうでもよかった。
「さてと」
俺の夕食をどうにかせねばならない。
猫を拾ったのはバイト終わりすぐだったため、結局俺の食事を購入はしていない。すぐそばにあるコンビニまで走れば数分で着くがそれはそれでどうかと思う。
「でも猫を独りぼっちにはさせられねえな」
一匹ぼっちとでも言えばいいのだろうが、独りぼっちという表現が言い慣れているのでそんなことはあんまり気にしないでおく。
「にゃーん」
「なんだー、お腹いっぱいかー?」
「にゃにゃーん」
甘だるい鳴き声をして、俺の足に擦り寄った。これだから猫ってのは可愛いんだよなあ。
ねこさんごめんな、そう言って俺は玄関へと向かい扉を開けようとした――
――ぴんぽーん。
「ええっ」
相当猫の鳴き声がうるさかったのかな。もしそうだったら申し訳ない。
「……はい?」
出てみたら、そこに立っていたのは俺の肩ほどしか居なかった小さな女性だった。
「あの……お出かけですか?」
「えっ、あ、いや、その……」
「猫飼っていますよね?」
「あ、はい」
たどたどしい会話が続く。
「私も猫好きなんですよ……それで見せていただけませんか?」
「えっ、あ、いいですよ……」
こうして彼女は半ば強引に俺の部屋へと入っていった。ああ、まずったな。片付けもしてない。
というか出るわけにもいかない。仕方がない。今日の飯は抜きにするとしよう。そう考えて俺は玄関を閉めた。
――数年後。
俺と彼女は結婚した。
猫は、相変わらず可愛い。
「にゃーん」
「はいはいねこちゃんちょっと待ってねー」
相変わらずこいつは牛乳しか飲まない。相変わらずというか、俺が牛乳をあげたからだが。
もしかしたら、と考えたことがある。
もしかしたら――こいつはこれのために来てくれたのか……?
だが、それを知るのは猫だけだ。
猫は俺がそんなことを考えているのを知ってか知らずか大きな欠伸をした。
了