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死ねないでいたら英雄になっていた──けど、それ僕じゃありません!!  作者: 青空のら


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第八話 ロバート「罠に掛かる」

 コンコン。扉をノックする。


「入りたまえ」


「失礼します。ロバート曹長、出頭いたしました」


 言った瞬間に、“参りました“が適切な言葉だと気づいたが、後の祭りだ。

 雲の上の存在に呼び出される、という現実逃避したい状態に脳がバグった模様。


「ふむ──」


 一度言葉を切ると、ピーター長官は上から下までロバートをくまなく観察した。


「君がなぜここに呼ばれたか、知っているかね?」

「いえ、存じあげません」


「なるほど。では、ここに書いてあることは間違いないかね」


 長官が机の上に置かれた書類を指でトントンと叩く。

 あいにく細かい文字までは読み取ることができない。

 返事をしないロバートの様子に状況を察した長官が助け舟を出した。


「ああ、こちらで読み上げよう。

 ロバート・コーナン、三十歳。両親ともにすでに他界しており、兄妹はいない。

 親戚縁者も先の戦争の混乱で音信不通。

 親しい──交流のあるものは婚約者とその父親。孤児院で育てられたのちに、進学せずに軍学校に入校。

 軍歴15年目の曹長。この内容について間違いはないかね?」


「ございません」


 即答する。

 他人に言われると落ち込むほど薄っぺらい経歴だ。他に付け加えることなど一切ない。


「──確かにうってつけの人材だ」


「何かおっしゃられましたか? うまく聞き取れませんでした」


 軍において、上官の話を聞き逃すことは、反抗も同じこと、すなわち懲戒処分ものである。

とっさに聞き返した。


「いや、独り言だ、気にしないでくれ。それでは、あらためて君に指令を下そう。

 レオナルド・フォン・サテン、君の新しい名前だ。覚えておいてくれたまえ。

 歳は二十八歳で子爵家を継いだばかり──うん? どうかしたのかね?」


 ドキン! 心臓が激しく脈打つ。


「いえ、いきなりの事で理解が追いついてません──」


 “捨てたはず”の名前が飛び出して来て、激しくなった心臓の鼓動が収まりそうにない。


(なぜ? 今まで誰も気にもしなかったのに──)


「ああ、少々話が先走ったようだね。

ここからは、機密事項にあたるので他言無用、身内──君の場合は婚約者にも秘密だ。いいかね?」


「了解しました!」


「うむ。実は最近、前線に配属予定の上級将校が亡くなる事故が続いている──」


 息を呑み、目が見開く。が、当の本人のロバートには自覚がない。


「短期間の連続性と、所属から考えて外部からの暗殺だと推測される。

 このまま野放しにしておけば、指揮系統に混乱が生じることが容易に予想される──そこでだ、こちらも手を打つことにした」


「──」


上官の発言に口を挟むことなどできない。


「次に誰が狙われるのか、先に分かれば対応が簡単だ。そうは思わないかね?」


 発案者は長官なのだろう、少し得意げな様子が手に取るように分かる。


「素晴らしいアイデアです」


 即答で答える。

 上官の覚えが悪いと地獄に飛ばされる。それは軍でも同じだ。他と違うのは二度と家族の元に帰れないこと──環境は人を変えるのだ。


「うむ。そこで君に白羽の矢が立った。サテン家は領地を失ったが、法服貴族としての地位は残っている──といっても子爵だがね。

 サテン家は相続人の届けがなされていない為に、現在その扱いが宙に浮いた状態で、今回の件には非常に都合がよい」


「──」


(調べた上で言っているのは間違いないが、なぜ自分が選ばれた?)


 ロバートは動揺を顔に出さないように必死で耐えていた。


「つまり、囮として架空の人物を作り上げるので、それを君にやって欲しい。

 高等教育を卒業後に士官学校に入校、優秀な成績で卒業した後に、軍務に就く。

 そして先日の極秘任務により3階級特進して、大佐に昇進。人も羨む大抜擢というやつだ」


「──」


 確かに囮としては恰好のターゲットだ。成功すれば大手柄。

 ただし、命の保障はない。というよくある話だ。


「もちろん、危険な任務なので辞退してもらっても結構。ただし、重要な機密を知ったので通常勤務には戻れないと思ってくれたまえ」


 長官は、過去に辞退した人間を見たことがないという顔で微笑んだ。


「──」


「何、取って食おうというわけではない。こちらも犯人を捕まえる為に網を張って対応する。万が一にも失敗はない!

 もし、失敗した場合、婚約者殿には遺族年金が届くから安心したまえ。

 もちろん、大佐から二階級特進、中将としての遺族年金だ。一生不自由しない生活ができるだろうさ」


「喜んで、引き受けさせてもらいます」


 手のひらの上で踊っていると分かっていても、断るという選択肢はなかった。


(行くも地獄、引くも地獄。それならば前に突き進むしか道はない)


 そもそも軍隊とはそういう場所だ。


「おお! やってくかね。君ならやってくれると信じていたよ」


(出自まで調べ上げて、弱点まで把握していながら、白々しい)


 せめて盛大に踊るしかない。


「婚約者殿には“極秘任務につくので詳細は話せない”とだけ伝えておきたまえ。

 後からだと揉める原因になりかねないぞ。これは老婆心からで、他意はない」


 長官は“含みのある”言葉を残すと部屋を出ていった。

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