第二十六章 マルゲリート「盛者必衰」
上官命令に反抗。この重大な規律違反について、お咎めなしというのは軍の存在意義を問う重大な問題になりかねない。
そういう意味もあり、すぐさま査問会が開かれた。
軍法会議ではなく、査問会で収まっているのはガリウス中将が伯爵家の権威を振りかざした結果だった。
査問会の開催を宣言すると同時に、長官が厳しく釘を刺した。
「この場にいる限り我々は軍人だ。家柄も家族のことも口に出してはいけない。全ては国のために存在する。
私情など挟む余地はない」
参加者全員の顔を見渡して、さらに話を続けた。
「上官の命令を無視、そして敗走。これは反逆行為であり、利敵行為。弁明の余地はないと思うが、何か反論があるかね?」
「記録を見てください」
「確認したよ。そして巧妙に改竄されている跡も発見した。復元した記録は貴様のいうこととは正反対だったが、反論はあるかね」
「──」
長官の射抜くような眼光にマルゲリートは固まってしまう。
「記録官に免責事項があることを知っているかね?」
「………何の話ですか?」
突然のことで、理解がついていかない。
「彼らは、圧力に屈して“改竄された記録”を残しても罪に問われない」
「──」
長官が語る内容は、誰も知らない秘密だった。
(知ってはいけない秘密を知らされている? いや、知ったところで何もできないと分かっているのだ。つまり──)
「ただし、条件がある。
それが“改竄された記録”であるとわかるように残す事だ」
「……」
「一字一句、その記録と同じ言葉を口にした貴殿の証言に、どれほどの価値があると思う?」
「──」
(今の自分に逃げ道はあるのだろうか? 誰でもいい、この地獄から救い出してくれ!)
「改竄した者まで突き止め、誰の指示かも確認している──君の父上だよ」
「父上、やっぱり、私を見捨てていなかったのですね──」
最後まで言い終える前に言葉を切られた。
「見捨てていた方がまだマシだったものを──」
「どういう意味ですか──?」
マルゲリートは、その意味を理解できず、ただ瞬きを繰り返した。
「君個人がしたことなら、責任は君一人が被ればいい。“無能が馬鹿なことをやった”それだけの話だ。大事にもならないさ」
「そ、それでは──」
「君の父上も関与した──つまり、君は父親の指示で国を売ったんだよ。一族郎党全員死刑だ。これは皇帝陛下の判断だ。何者にも覆す事はできぬよ」
査問会議室は静まり返っている。
誰も何も発言できない。
いや、何か発言した時点で“目をつけられる”
全員がそれを肌で感じ取っていた。
───
こうして、軍上層部に子弟を押し込もうと画策する者はいなくなった。
そして、レオナルドの副官には、意味不明な『安定のロバートさん』の指示を淡々とこなせる者、すなわち、マクガルド少尉が就任した。




