第十九章 ファンブラム少将「困惑」
──第二幕・開幕──
──物語開幕まで戻る。
ロバートが司令本部に呼び出され、架空の『レオナルド』役を引き受けていた頃。
───
シルヴァネア帝国、北方山岳地帯。
ヴェルザント帝国軍のファンブラム少将は目の前の砦を睨んでいた。
(まだ、落ちないのか)
要塞というにはあまりにも小さい。
砦といっても差し支えない規模だ。
さらに山岳地帯の侵攻ルートの一つでしかなく──
落とす手間を考え、迂回案すら出されていた。
しかし、小さくても脅威は排除しなくてはならない。
背後を固めるのは基本中の基本。
攻撃開始から──すでに三ヶ月経過していた。
(山岳地帯ゆえ、部隊は細長く展開する。
そこを狙われると、数の有利が働かない)
相手は完全に自分たちの庭として、地の利を活用していた。
倒木、落石、火攻め、水攻め、油攻め──
ありとあらゆる手法を罵声と共に繰り出してくる。
(貴族の姿など、一度も見ていない。
だが、この戦術は──只者ではない)
その時──
「少将!」
伝令が駆けてきた。
「目標、無事制圧完了しました!!」
「何?」
ファンブラム少将は思わず声を上げた。
「そんなはずが──ちゃんと確認したのか?」
「はい! 残存勢力も排除完了しました」
(三ヶ月も手こずった砦が、そう簡単に?)
少将の戸惑いは大きくなっていく。
「制圧したのなら──どのような部隊が守備をしていたのか、分かるものはなかったのか? 何でもいい」
「いえ、特に変わったものは──」
伝令は一拍、間を置いた。
「少し妙な物がありました」
「続けたまえ」
「はっ! 鹵獲した物資の中から──高級酒を発見いたしました」
「高級酒?」
ファンブラム少将は眉をひそめた。
「我々が相手した中には、貴族など見かけなかったが?」
「別の部隊と入れ替わった可能性があります」
「それだ!」
少将は地図を睨んだ。
「だが──なぜだ?」
(撤退なら別部隊を置いておく必要はない。
守備を固めるなら、わざわざ弱い部隊に替える必要もない)
意味が分からない。
「どちらにしろ、我々にとっては幸いだったな」
ファンブラム少将は部下に向かって言った。
「このまま、あと三ヶ月足止めを喰らうと──
降雪で進軍不可能となる。
そして、我々全員更迭されて──」
「考えるだけでぞっとしますね」
「ああ」
少将は窓の外を見た。
「──だが、問題を先延ばしにしただけなら、いつか痛い目にあう」
(これがヴェルザント帝国の災難にならなければいいのだが──)
───
悲しいかな。
ファンブラム少将の予想は、的中するのであった。




