第十五話 レオナルド「囮の真の意味」
暗殺者が基地内に侵入していたことから、レオナルドは内通者がいることを確信していた。
しかも、かなりの上層部にいるはずだと。
(捕まえた暗殺者が取り調べ前に、一晩経たずに二人とも不審死する? 外部からの侵入? そんな馬鹿なことがあるはずがない。厳重体制の中、どうやって留置所に近づける──)
しかし、今のレオナルドの地位では上の者を調査する権限はない。進言したところで、根拠を求められれば同じことだ。
手も足も出ない、お手上げ。そんな時に指令が降った。
『欺瞞作戦の囮部隊』をレオナルドに引き受けろという。
任務内容は偽の情報により敵軍の戦力を分散、または排除し、主力部隊への被害を最小限に抑えるというものだった。
その偽情報が架空の巨大部隊と、架空の司令官である。
しかし、幸いなことに架空の司令官はすでに用意されていた。
レオナルド・フォン・サテン28歳、子爵位持ち。
すでに事件解決済みにより、用済みになった暗殺者を引き寄せる“囮”
これを使わない手はない。いくばくかの部下をつけて、巨大部隊を演技させるだけでよい。
実にコスパの良い作戦である。
さらに、安全が確保された本体部隊に、空いた指揮官の空席を埋めるために自分たちの子弟を押し込んだ。
今回の作戦の活躍による実績と昇進が確約されている。
彼らの中では完璧な計画だった。
上層部の自己評価の高さと、自己陶酔により決定がなされた。
「つまり、なるべく派手に動き、敵の注目を引きつければよろしいのですね?」
「ああ、よろしく頼むよ」
「誤情報の拡散の件はお任せしてもよろしいのですね?」
「ああ、諜報部を信用してくれたまえ」
レオナルドが心配しているのはそんな事ではない。この情報もどこから漏れるかわからない。
ゆえに黙っておくしかない。
「では、一つ確認しておきたいのですが──」
「何だね? 言いたまえ」
「作戦が失敗した場合──今回の場合は、敵が欺瞞行為に引っかからずに、我々の前に姿を見せなかった場合、その時はその場で敵の注目を集める行為をすればよろしいですか? それとも──」
一息吸い込むと、レオナルドはゆっくりと言葉を区切って発音する。
「現場での判断で行動してもよろしいですか?」
「その場合は、現場の判断に任せる。生きて戻ることを願っているよ」
レオナルドは数秒上官の目を見つめた。
「はっ! ありがとうございます、閣下!!」
ビシッと一礼をするとレオナルドは部屋をあとにした。その肩はかすかではあるが、確かに震えていた。
(現場の判断? そこに留まるバカはいないよ。 行くも地獄戻るも地獄なら、選ぶのは──決まっているだろう。“先”だよ)
こうして、軍の主力部隊が『欺瞞活動』をし、架空の巨大部隊の侵攻をサポートするという表向きの作戦は、架空の司令官レオナルドの存在を把握していたスパイたちの情報流通とそれを元にした敵軍部の分析判断により──レオナルドの予想した通りの展開へと転がった。
ハリボテ部隊のレオナルド隊に攻撃能力がないと判断するという致命的なミスを犯した。
(主力を叩く為に戦力を残していない“空の都市”を前に、指を咥えて見てるわけがないだろう)
結果、レオナルド達は目立った被害も、抵抗もなく、目的都市を制圧する事に成功した。




