01 プロローグ
流血描写あります。苦手な方はご注意下さい。
「余が満足できぬ踊りをした者は、即刻死刑とする。」
ヒュ、と喉が鳴る。
これから私が死ぬかもしれないという事実を前に、言いようのない恐怖が襲ってきて足が震えた。
皇帝は“稀代の暴君”と呼ばれる、血も涙もないお方だ。これまで皇宮に仕える使用人が何人も行方不明になったり、皇帝に楯突いた貴族が処刑されたりしてきた。
つまり、“踊りが気に入らない”という実に理不尽な理由で人を殺すことは十分に有り得るということだ。
衝撃でぐわんぐわんと頭が揺れる中で、音楽が鳴り始め、ついに一人目の踊りが始まった。
「…表情が気に入らんな。殺れ。」
「っえ、あぁ…いやぁぁぁああ!!」
グシャ、ビチャビチャ
恐怖に歪んだ顔ではあったが、それでも必死に踊り切った彼女の血飛沫が飛び散る。
激しい頭痛がした。
「どうかっ、どうかもう一度チャンスを!!」
「喧しい。チャンスも何も、此処に来るまでに練習をする機会は嫌と言うほどあったはずであろう?」
「!そんな…っぁあ!!」
一人、また一人、皇帝の一存によって殺されていく。私の順番が近づいてきた。
あぁ、私は此処で死ぬんだろうか。私が死んだら、あの病弱な姉を誰が養うというのか。
それにしても痛い、頭が割れそうだ。
「次、貴様で最後だな。」
目の前に私の前に並んでいた女性の死体が転がり、ついに私の番が来たことを知らせている。
「陛下、彼女が今皇都で一番の踊り子と言われている“ディヴァナスティアの妖精”です。」
「ほぉ、この者が。なるほど、確かに美しい。」
皇帝が鋭い赤い瞳を細めて此方を見る。まるで血で染め上げたような赤。
頭痛も死への恐怖も最高潮に達した時、私の頭の中に様々な記憶が流れ込んできた。
今の“私”じゃない、けれど確かに“私”が経験した数々の出来事。
日本の誇る世界的バレリーナとして生きた“清水涼子”としての人生。
ニホン?バレリーナ?シミズリョウコ?
この世界にニホンなんて名前の国は存在しないし、バレリーナって何だろう。そんな職業はない筈だ。それにシミズリョウコなんて名前もおかしい。
「さぁ、踊れ。妖精よ。余をがっかりさせるでないぞ。」
まだ頭は混乱していたが、此処で休憩を懇願したところで皇帝が受け入れてくれるはずもない。
音楽が鳴り始める。皇宮の一流音楽家達が流れるクラシックだ。体が疼き、手足が勝手に今までとは全く違う動きをし始める。
流れる様に滑らかで、けれど体の軸はしっかりと。軸足でその場で回転するピルエットを披露すると、皇帝が感嘆の声を漏らしたのが分かった。
パチパチパチ!
音楽が止み私が動きを止めると同時に、皇帝が拍手をした。満足そうに顔に笑みを湛えている。今日初めて見るその様子に、私の胸に期待が押し寄せてきた。
「何と素晴らしい!!美しい踊りだった!」
「勿体無いお言葉でございます。」
殺されずに、済んだ。
体の力が一気に抜け、思考も段々クリアになってくる。
「にしても、今の踊りは他の者の踊りと随分違ったな。実に新鮮だった。独自のものなのか?」
「…はい。」
「ふむ、貴様、名前は何と申す?」
「アルベラと申します、皇帝陛下。」
「ではアルベラ、貴様を皇宮直属の踊り子に任命しよう。その素晴らしい踊りを他の皇族や貴族にも見せてやらねば。」
「えっ。」
「まさか、断るなんてことはなかろう?」
「…め、滅相もございません。謹んでお受け致します。」
あぁ、とにかく早く家に帰りたい。この未だごちゃごちゃした頭の中を整理しなくては。
この後私は三日三晩熱にうなされ、やっと回復した頃には、自分が何者なのか、皇帝の前で踊った踊りは何だったのか、“此処”がどんな世界なのか、全て思い出すことになる。
今回はプロローグなので短めです。次回から本編に入りますが、更新は不定期です。




