表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】織りなす糸の先は  作者: 牧之原うに


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/31

第23話

今日は、お手伝いの最終日。少し薄曇りの天気で蒸し暑い朝。今日もカリン所長が玄関で子どもたちを迎え入れるたびに「おはようございます!」という元気な声が響く。


アメリアは部屋の中央に立ち、子どもたちの様子を見守っていた。飼育室での活動が楽しかったのか、あの日以降、飼育室の常連になりつつある子どもたちの表情は生き生きとしている。


「昨日、私が選んだ葉っぱ、蚕さんが一番最初に食べたんだよ!」


積極的なマイラが得意げに話すと、隣のリナが控えめに頷きながら、「私のも食べてたもん……」と小さな声でつぶやいた。


2人の楽しそうなやり取りに、アメリアは思わず微笑む。


(飼育室の活動が、みんなにとって良い経験になったみたいね。)


「今日も蚕さんがどんな葉っぱを好きか、観察してみましょうね。」


アメリアが優しく声をかけると、子どもたちは一斉に「うん!」と元気よく答えた。


その瞬間、部屋全体がさらに明るくなったように感じ、アメリアはとても嬉しくなった。


「アメリアさん、今日もよろしくお願いしますね。」


カリンがにっこり微笑みながら声をかけると、アメリアは少し照れたように「こちらこそよろしくお願いします」と、返した。


少し離れた場所では、アレクシオが窓際に立ち、腕を組みながら子どもたちとアメリアのやり取りをじっと見つめていた。その視線はどこか真剣で、とても優しい様子であった。


「アレクシオさんが子どもたちの様子を見守ってくださるのは心強いですね」と、カリンが軽く声をかけると、アレクシオは肩をすくめ、わずかに笑みを浮かべた。


「アメリアがどんな風に子どもたちと関わるのか、ちょっと興味があってね。」


カリンはその答えに一瞬驚いたようだったが、すぐに穏やかな微笑みを浮かべた。


「彼女はとても柔らかい方ですね。気さくで幼い子との会話も慣れているように感じます。蚕のことも学んできてくださったのか、とてもよく知っていらして、私たちにとっても学びになります。」


アレクシオとカリンがそんな話をしているとは露知らず、アメリアは子どもたちの間を歩きながら、明るい声で問いかけた。


「今日はどんな新しい発見があるかしら?楽しみな人ー?」


その問いかけに、子どもたちの目が期待に輝き、一斉に「はーい!」と答える。その様子に、アレクシオはふっと目を細め、再びじっとその光景を見守った。





子どもたちは今日も飼育室に入り、蚕の動きを興味津々で観察していた。


「これ、蚕さんが食べてる葉っぱ、昨日、僕が選んだやつだ!」


元気な男の子が自慢げに声を上げると、アメリアは微笑んで「とてもいい葉っぱを選んでくれたのね」と、褒めた。その言葉に彼は得意げに胸を張る。


「私のも食べてる!」


他の子どもたちも競うように声を上げ、部屋は楽しげな笑い声に包まれた。


しかし、その雰囲気が一瞬で変わったのは、リナが突然立ち上がり、大きな声で叫んだからだった。


「お人形がない!」


その言葉に周囲がざわつき始める。


「え?どこに置いたの?」


「もしかして捨てちゃったんじゃない?」


子どもたちが口々に話し始める中、リナは泣きそうな顔で強く首を振った。


「絶対に持ってたもん!なくすはずない!」


「昨日は、ずっとマイラちゃんと一緒にいたよね?」


隣にいたマイラが眉をひそめ「私じゃないよ!」と、少し苛立ったように言い返す。


「じゃあ、誰がやったの?」


「知らない!」


言い争いになりかけたその場の空気を、低く静かな声が切り裂いた。


「ちょっと待って。」


部屋の隅で様子を見ていたアレクシオが歩み寄り、腕を組んだまま子どもたちを見回した。


「まず、状況を整理しよう。リナ、君が最後に見たのはいつだろうか?」


彼の声は極めて冷静だったが、どこか子どもたちを詰めるようなニュアンスが含まれていた。その響きにリナは目を伏せてしまい、縮こまった肩が小刻みに震えた。


アレクシオは次にマイラに目を向けた。


マイラは、ムッとした顔でアレクシオを見上げ「私じゃないって言ってるのに!」と、不満げに言い放った。


アレクシオはその場の空気を読もうと目を細めた。子どもたちの緊張は増していっている。それを見ていたアメリアが、静かに一歩前に出た。


アメリアは少し身を屈めてリナの目線に合わせ、柔らかな声で話しかけた。


「リナちゃん、大丈夫よ。きっとどこかにあるはずだから、みんなで一緒に探してみましょうね。」


リナはアメリアの目を見つめ、少しだけ涙を浮かべた目でコクリと頷いた。


アメリアはその様子を見て安心し、周囲の子どもたちにも目を向けた。


「みんな、リナちゃんのお人形がどこに行ったのか、一緒に思い出してみましょう。昨日のことを振り返ってみて、何か手がかりがあるかもしれないわ。」


子どもたちは一瞬、考え込むように黙り込んだ。すると、マイラが手を挙げて言った。


「昨日、リナちゃん、飼育室の隅っこで、お人形持ってたよね?蚕さんの近くで遊んでたの、覚えてるよ!」


その言葉にリナはハッとした顔をし「そうだ、蚕さんを見てた時に持ってた!」と、小さな声で呟いた。


アメリアは微笑んで「じゃあ、まずは飼育室の中をもう一度探してみましょう」と、提案した。


子どもたちは飼育室の隅々まで探し始めた。


「この辺にはないね!」


「こっちの棚も見たけど、ないよ!」


少し焦り始めた子どもたちを見て、アメリアは穏やかな声で言った。


「大丈夫よ、みんなが協力すればきっと見つかるわ。」


その時、リナが「あっ!」と声を上げた。


「ここにあった!」


リナの指さした先には、蚕のトレイの近くに置かれたお人形があった。誰かが動かしたのではなく、昨日リナ自身が置いたことを忘れていたようだった。


リナがお人形を抱きしめてホッとした表情を浮かべると、マイラが嬉しそうに駆け寄った。


「よかったね、リナちゃん!ほら、やっぱり誰も隠したりしてなかったでしょ?」


リナは頷きながら「うん……みんな、ありがとう」と小さな声で言った。その言葉に、周囲の子どもたちも微笑みながら「よかったね!」と口々に言い合った。


アメリアはその様子を見て穏やかに微笑みながら言った。


「みんなが互いを信じて協力したからこそ、リナちゃんのお人形が見つかったのね。蚕さんを観察した力が、こんな形で役に立つなんて素敵だわ。」


少し離れた場所でその様子を見守っていたアレクシオは「信じる、か……」と、何か思うところがあるように小さく呟いた。それを横で聞いていたカリンが優しく微笑み「子どもたちを信じる力は、アメリアさんの大きな魅力ですね」と、言った。


アレクシオは一瞬言葉に詰まったが、「そうだね」と静かに答えた。





託児所の玄関前では、子どもたちがアメリアの周りを囲み「また来てね!」と元気な声をかけていた。リナがそっとアメリアの袖を引き「今日でおしまいなの……?」と不安そうに聞く。


アメリアはしゃがみ込んでリナの目線に合わせると、優しく微笑んだ。


「そうよ。でも、また会えるわ。約束する。」


その言葉にリナは少し安心したように頷き「また来てくれるの、待ってるね」と、小さな声で言った。

隣のマイラが「次はもっと楽しいことを一緒にしようね!」と元気よく声をあげると、他の子どもたちも「うん!」と笑顔で答える。


アメリアは一人一人に「またね」と声をかけ、名残惜しそうに手を振った。


子どもたちを見送った後、カリンが少しほっとした表情で話しかけた。


「アメリアさん、この数日、本当にありがとうございました。子どもたちだけでなく、私たち職員もとても刺激を受けました。」


「こちらこそ、素敵な経験をさせていただいて感謝しています。みんなと過ごした時間が私にとっても宝物です。」


アメリアが答えると、カリンはしみじみと頷いた。


「きっと子どもたちは、この経験を忘れません。またお時間があれば、ぜひお手伝いにいらしてくださいね。」


「もちろんです。その時は、また一緒に楽しいことをしましょうね。」


アメリアが無邪気にそう言うと、二人は固く握手を交わし、カリンはアメリアを見送るように深く一礼した。


託児所の玄関を出ると、アレクシオが馬車の横で待っていた。子どもたちはまだ玄関から手を振り続けており、その元気な声が微かに聞こえる。アメリアはもう一度振り返り、大きく手を振り返した。


「そろそろ行こうか。」


アレクシオが軽く促すと、アメリアは微笑んで頷き、馬車に乗り込んだ。アレクシオも後に続き、ドアを閉めると馬車がゆっくりと動き出した。


アメリアは窓の外を見ながら、子どもたちの笑顔を思い出していたが、ふと先ほどの出来事が頭をよぎった。


(さっきのアレク、少しいつもと違う感じがしたわ。少し冷たくて人を疑うような姿勢……。)


彼がリナやマイラを見つめた時の、どこか冷たい疑いを含んだ視線。それがどうしても気になった。


(でも、どうやって切り出そう?)


アメリアは小さくため息をつき、ちらりと隣に座るアレクシオの横顔を盗み見た。窓の外を眺める彼の表情はどこか静かで、何かを考えているようだった。


馬車の車輪の音だけが静かに響く中、アメリアの胸にはまだ言葉にできない疑問がくすぶり続けていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ