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【完結】織りなす糸の先は  作者: 牧之原うに


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第21話

夏休みが始まって一週間。アメリアはアレクシオと共に馬車に揺られていた。目的地は、アレクシオの商会が管理する養蚕場。窓の外には緑が広がり、心地よい風が吹き込む。


「まさか本当にアメリアが来てくれるとは思わなかったよ。今、眼の前にいる君は本物だよね?」


「偽物のはずないじゃない!でも、私もやっとお返しができて安心したわ。力になれるかわからないけど、頑張るから。」





フォルツィ商会から帰ったあの日、夕食の際に「アレクの仕事を手伝う」と、家族に報告したところ、案の定お母様が反対した。


「どんな噂が立つと思っているの?」「ルーカス様に悪いんじゃなくって?」と、心配しているお母様を横目に、意外にも反対しなかったのはお父様である。


「まぁ、アメリアがやりたいというならばいいんじゃないか。」「人から受けた恩はきちんと返すのが筋だ。すばらしい考えだと思うよ。」と、当主であるお父様が賛成してしまえば、さすがのお母様も反対し続けられない。


ちなみにテオはそんな二人の会話をまるっと無視するかのように話していた。


「アレクお兄さまのところに行くの?いいなぁ。」





アメリアが家族との会話を思い出していると、養蚕場がある地域に入ったようであった。あちらこちらに立派な桑園が見え始めたのだ。


「この養蚕場、どれくらいの規模なの?」


アメリアの問いに、アレクシオは自慢げに答えた。


「この地域一帯を支える大規模な施設だよ。商会では蚕の育成から絹糸の生産をワンストップでやっていて、生地に仕立てるところは、村の職人たちがそれぞれの屋号で工房を開いているから、うちと独占契約してやってもらっている。結果、うちで販売している絹織物は全てここで作られているよ。」


「いい仕組みね。職人にとっては、原材料を安く手に入れられるし、確実に売ってもらえる。商会にとっては安定した品質の物を途絶えることなく仕入れられる。しかも新商品の開発なんかも懇意にしている職人であれば依頼しやすいでしょ?」


アメリアが言うと、アレクはくくっと笑った。


「さすがアメリアだね、まさにそこがこの場所の大きな利点。地域で利益を循環させることで地域の経済も活性化するし、実家が職人という家がほとんどだから、実家のために働く人が多くて、養蚕場の人手がなくなることもない。実は、養蚕場からの仕入れに家族会員制度を入れたりして、より技術や人材が流れ出さないように工夫していたりするよ。まぁ、苦肉の策でもあるんだけどね。」



「すごいわ……。地域の皆にとって、とても大切な場所じゃない。アレクは商会の跡取りでもあり、ちょっとした領主様みたいね。」


「まぁ、効率的に回してるだけさ。」


照れ隠しのようにアレクシオは軽く肩をすくめ、小さく笑った。



馬車が軽い振動とともに広場に到着した。窓から見える景色に、アメリアは思わず息を呑む。


目の前には広大な敷地が広がり、白く塗られた建物が整然と並んでいた。蚕を育てる飼育室は、大きな窓が整然と配置され、自然光がふんだんに取り込まれている。隣接する製糸場では糸を紡ぐ音が聞こえ、規則的なリズムが周囲に響いていた。その先には倉庫があり、何台もの荷車が絹糸や梱包された商品を運び出している。広場には行き交う職人たちの足音や、桑の葉を運ぶ農夫たちの活気ある声が飛び交っていた。


「ここが養蚕場……。すごく活気があるわ!」


アメリアの目が思わず輝く。周囲を見渡す彼女の声は、かすかに驚きを含んでいた。


嬉しそうなアメリアの様子を見て、アレクシオは思わずといった様子で笑った。


「楽しい?」


「だってこんな景色見たことないもの!色々気になるに決まっているわ。」


「くくっ。君を連れてきてよかったよ。」


アレクシオは笑いこらえて滲んだ涙を拭ったが、アメリアはそんな彼の様子に気が付かないほど興奮している。


(本で読んだことはあるけれど、こんなに立派な建物は想定していなかったわ。もっと小さい規模でやっている養蚕場はあるのは知っていたけど、これじゃ本当に国内で最大規模じゃない。フォルツィ商会が力があることは理解していたけど、眼の前にすると迫力が違うわ。行き交う皆さんの表情も明るくて……とても活気があって……素敵な場所ね。)


馬車を降り、施設を見回すアレクシオの目は真剣そのものだった。その視線は、どこか誇り高くもあり、商会を支える責任感がにじみ出ている。普段の軽口とはまるで違う彼の横顔に、アメリアは少し驚き、不覚にもドキドキしてしまった。


そして、ふと、視線を巡らせたアメリアの耳に、軽やかな笑い声が飛び込んできた。隣接する製糸場に比べてこじんまりとしたその建物は、託児所のようであった。中から、子どもたちが元気に遊ぶ声が聞こえてくる。じっと見ていると、窓からはしゃぎながら走り回る小さな姿が見え、職員らしき女性が穏やかな笑みを浮かべながら見守っていた。


「あれが託児所?お母さんたちが働いている間、子どもたちを預かっているのね。」


アメリアはその施設に目を留め、温かみのある光景に目を細めた。


「そうだよ。子どもたちを預かることで、母親たちが仕事に集中できるように環境を整えているつもりだよ。」


アレクシオは少し誇らしげに頷いた。その言葉には、商会の利益だけでなく、そこで働く人々の生活を支えたいという強い意思が感じられる。


アメリアは彼に目を向け、少し微笑んだ。


「いいところね、アレクシオ。あなたが誇りに思うのもわかる気がする」





アレクシオが軽くドアを押すと、柔らかな木の香りが漂った。託児所の広々とした玄関には夏の陽が差し込み、熱気に包まれている。壁には色とりどりの絵が飾られ、小さな机や椅子が整然と並べられていた。部屋の奥では、子どもたちが楽しそうに遊んでいる。


「お母さんたちにとって、本当にありがたい場所ね。」


アメリアの言葉に、アレクシオは小さく微笑んだ。


「アレクシオさん。」


奥から柔らかな声が聞こえ、エプロン姿の初老の女性が歩み寄ってきた。彼女は所長のカリンと名乗り、優しい目元に仕事熱心な雰囲気が漂っている。


「カリンさん、こちらは友人のアメリアです。」


アレクシオが軽く頭を下げながら、アメリアを紹介した。


アメリアは笑顔で会釈する。


「初めまして。アメリア・ラクロワと申します。本日からよろしくお願いします。」


カリン所長は微笑みを浮かべて手を差し出した。


「お手伝いいただけるとお伺いしております。こちらこそお会いできてとても嬉しいです。よろしくお願いします。」


アメリアは笑顔でカリンの手をとった。カリンはそんなアメリアを見てニッコリと笑う。


「どうぞ、こちらへ。子どもたちの遊び場をご案内しますね」





アレクシオとアメリアが案内を受けながら部屋に入ると、子どもたちは、楽しそうに各々遊んでいる。ふと、アメリアが目を向けた先では、小柄な女の子が人形を抱えて座っており、その隣では活発そうな女の子が彼女に声をかけていた。


「リナちゃん、そればっかり見てないで一緒に遊ぼうよ!積み木、私が一番高く積めるんだから!」


「……だって、これはお母さんがくれた大事なものだもん。」


リナはおずおずと小さな声で答えた。


マイラは「ふーん」と鼻を鳴らし、少し呆れたように肩をすくめると、他の子どもたちの方へ向き直った。


「まあいいけど。あたしの積み木、すごいから見ててよね!」


そう言うと、元気な声で他の子どもたちを誘い、部屋の中央で遊び始める。


アメリアはそのやり取りを微笑ましく見つめながら、カリンに声をかけた。


「あの二人、仲が良さそうですね。」


カリンは穏やかに笑いながら答える。


「そうですね、基本的には仲良しなんですが、時々ちょっとぶつかることもあって……。リナちゃんは恥ずかしがり屋で、マイラちゃんはしっかり者だけど、ちょっと強気なところがあるんです。」


アメリアは頷きながら、リナとマイラの様子を見つめた。それぞれ違う性格の二人が、それでも一緒に過ごしているのは面白いと思う。


(きっと、私とエミリーもあんな風に見えてたりして。)


思わず笑みを浮かべると、目を丸くしたアレクシオに「どうした?」と声をかけられた。


「ううん、なんでもないの。仲が良くて微笑ましくなっちゃって。」


アメリアが嬉しそうに答えるとアレクシオはほっとしたように「そうだな」と、優しく微笑んだ。

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