第20話(ジョージ視点)
(今日も麗しの方々はすげーな!)
現在、そんなことを考えている俺、ジョージは、国内最北部の領地にある中堅商会の次男。特産品は、毛皮。寒い地域ではそこそこの儲けが出るが、比較的温暖な地域が多いこの王国では、なかなかニッチな商会だ。そして、跡継ぎの兄がいるので、その補佐をすべく――まぁ、最悪の場合のスペアとして学院に入学した平民だ。
そんな俺が麗しの方々というのが、エミリー・バートン嬢、フィリップ・リッチモンド様、アメリア・ラクロワさん、アレクシオ・フォルツィのAクラスの仲良し4人組だ。ちなみに全員貴族。
クラスの男子人気ナンバー1のエミリー・バートン嬢は、庇護欲そそる見た目も相まってまるで妖精のような印象の女子だ。バートン家は王都南西部に小さめの領地を持つが、特産品のフルーツが茶会や菓子店でも人気で、そこそこ潤っている印象である。これまた見目麗しい兄上がお二人いるらしく、クラスの貴族女子がよく騒いでいるな。
くるくる表情が変わるし、少し幼い印象のエミリー嬢だけど、それもあの御方がいつも横に侍っているから余計にそう見えるんだよな……。
そのあの御方とは、フィリップ・リッチモンド様。ここの家を抑えたら商人としては”勝ち”である。将軍様や近衛騎士団長様のご家系でとんでもない格式高いご家系だし、何と言っても奥様は元隣国の第三王女だからね!
正直、かなり厳つい将軍様と可愛らしい感じの王女様の恋愛結婚は、いろんな方面で驚かれたし、庶民向けの新聞にも大きく取り上げられたけども。
ちなみにフィリップ様は、お二人を足して割ったような外見らしい。あんなにでかいのに?厳つくはないけど、寡黙な男前って怖くない?
それにしても、二人が一緒にいるのを見ると「姫と騎士」なんだよな。小さいエミリー嬢とデカいフィリップ様。案外お似合いというか、それこそ将軍様と王女様の再来感あるわな。
そういえば、この前エミリー嬢がフィリップ様にお菓子をおすそ分けしていたのを見たんだよ。
「はい、フィリップ様も甘いもの食べて元気出してください!」ってね。
フィリップ様の返事、無表情で「ああ」だけだったけど、エミリー嬢はにこにこしてたな。あれってフィリップ様は喜んでるのか?わからん。
で、なんと言っても、今、学院中の話題なのが――女神ラクロワさんと王子グレイフォード様、そ王子アレクシオの三角関係!まぁ、アレクは、放蕩者の第二王子って感じだけど。
まず、ラクロワさん。本当に控えめに言って「女神」だもんな。ラクロワ家が婚約者を置かず俗世から離していたのも納得、って感じ。
もう、なんて言うんだろう……。
「透明感!」
「天然美!」
って感じ。凛としつつも楚々としていて、平民にも差別しない人。
先日、クラスの男子が落としたペンを笑顔で「どうぞ」って拾ってて、そいつマジでぽーっとしてたからな。あんなシミもアバタもひとつもない美しい笑顔見たら、みんな惚れてしまうよな。そいつ「女神が触れたペン、下民のおいら使えない……!」って言ってたけど、さすがに大げさだよな……気持ちはわからなくないけど。
そんでラクロワ家よ。国内でたった2つの領地を持たない侯爵家。いやもうひとつがリッチモンドだからね。ほら、あそこは軍部関係だから。
と言うと、ラクロワ家がどれだけ稀有な家かわかるだろ?なんなら現当主は「次期宰相になるやも」と言われている御人だからね。現王の覚えもめでたいらしいし。
そんなすごい御人を父に持つ女神――もといラクロワさん。身分関係なくみなさんに平等に優しいが故に、彼女をめぐって今ふたりの男子が競っているようにみえるもんだから、これまた熱い展開!
一人は入学式で女子の視線を独り占めした名門グレイフォード家の嫡男、ルーカス・グレイフォード様。いや、男に生まれたなら一度はあの顔になってみたいもんだ。あれだけ女子の視線をあつめてキャーキャーされたら……さぞかし気持ちがいいだろうよ。
ラクロワさんと第2図書館で秘やかに会っているのは有名な話。何度かグレイフォード様に突撃した猛女がいるらしいんだけど、どうも司書とグレイフォード様が結託して阻んでいるらしい。侯爵家の力、恐ろしいな。
まぁ、グレイフォード様は最初からラクロワさん狙いだった感あるからな。そりゃグレイフォードくらいの家になると、どうしても家政を任せるには優秀な妻が欲しいだろうし。その点、ラクロワさんはグレイフォード様に唯一並び立てる人だし、何と言っても上品で美しいからね。
今の当主はたしか婿だから、グレイフォード家にとっちゃ久々の直系当主だろう?そりゃ嫁選びは慎重になるよな。そもそも対象は伯爵家以上だろうし、貴族は大変だわ。
そして、このままラクロワさんとグレイフォード様で当確か……!と思ったら、我らがアレクシオ、やってくれるわ。
アレクシオ・フォルツィ。大商会フォルツィ商会の跡取り。おじいさんの代に男爵位を賜ってて、もうすぐ子爵までもらうんじゃ、そして花街あたりの管理任されるんじゃ――と噂されてるイケイケのお家。
「うちは平民みたいなもんだからさ。アレクってよんでよ」なんて、俺にも平気で話しかけに来るから最初は身構えたけど。
なんだろうな。アイツどうも人の懐に入るのがうまいと言うか、やっぱり商人同士わかるものがあるというか、ついつい商売の話で盛り上がるじゃん?話せば話すほど、仕事に熱い良いヤツなんだよ。
最初、アレクはあの麗しの女神の事がちょこっと気になってて、どこまでやっていいのかを測るためにちょいちょいからかい始めたんだと思うんだ。ただ、案外ラクロワさんが気さくで拍子抜けしたみたいで、なんだかんだ仲良くなり始めていた矢先――クラスの女子が黄色い悲鳴を上げてた例の「課外授業事件」が起きたんだよ。
いやぁ……あれはかっこよすぎるわ!
いつもゆるく結んでいる長い赤茶の髪をバサッとほどいてかきあげて。壊れ物を扱うように大切にラクロワさんを抱き上げた!
女子が「キャー」言ってる横で、俺も「キャー」言ったわ。
「アレクー!かっこいいっ!」って、なったわ。
というかアレクってほんと色男なんよ。タレ目に泣きぼくろ、長身にロングヘアなんて無敵だろ。嫌いな女子いるのかな。
ラクロワさんもさ、アレクといる時はなんとなく表情が柔らかいっていうのかな?めずらしく冗談言ったり、なんなら少し悪態をついたり。俺から見てもだいぶ心を許していると思うんだよね。あと、グレイフォード様とデートした(らしい、女子が見たって言ってた)後くらいからかな?アレク、いつものように軽口を叩きながらも、どこか本気な感じなんだよな。
アレクは、あの余裕たっぷりの態度が憎たらしいけど、それでいて男が惚れるような格好良さも持ってるから不思議だ。俺だってつい「アレク、頑張れよ」って、思ってしまう。
まぁ、あの4人の預かり知らぬところでは、この話題で持ち切りでさ。ランチの時間なんかは「グレイフォード様、次はどんな手を打つんだろうね」とか、「ラクロワさん、どっちを選ぶのかな」とか。
俺たち平民組からすると、完全に別世界の話なんだけど、どうしてもクラスメイトだからかアレクとラクロワさんを応援したくなるんだよな。特にアレクは平民の俺らにも気さくでいいヤツだからさ。奴がラクロワさんに本気になりはじめてるのもみんなわかってるし。
というわけで、このまま行くと、グレイフォード様とアレクの間で、ラクロワさんをめぐる争奪戦が本格化しそうな雰囲気。もっとも、ラクロワさん本人はそんなつもりは毛頭ないだろうけど。クラスメイトが勝手に盛り上がって「次はどうなるんだろう」「幸せになってほしいな」と、期待している。
俺たち平民枠の学生にとっては、この話はまるで芝居の舞台みたいなもんだ。で、俺はそんな彼らの華やかなやりとりを横目に、今日も静かに毛皮の輸出先を増やす方法を考えながら――彼らの物語を見守っているんだ。
次回更新は2024年11月30日予定です。




