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【完結】織りなす糸の先は  作者: 牧之原うに


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第18話

期末考査終了後――。


学院の中庭に設置された掲示板には、期末考査の順位を確認している生徒たちでごった返していた。アメリアは少し緊張しながらその場に立ち、掲示された紙の1番上段に自分の名前を見つけた。


(よかった……。無事に特待生を守れそうだわ。)


胸を撫で下ろしながら微笑むアメリアの横で、エミリーが掲示板を覗き込み、大きな声をあげた。


「やったー!私、赤点回避したの!ミーも1番おめでとう!さすがね!私も鼻が高いわ!」


エミリーは感激のあまりアメリアに飛びつく。


周囲の生徒が「さすがラクロワさん……」などと、呟いている。


アメリアは思わずよろめきながらも、そんな彼女に微笑みを向けた。


「赤点でなくて本当に良かったわね。あなたが努力した成果よ、おめでとう。」


「ミーのおかげだよ!あの勉強会がなかったら、きっと無理だったもん!」


エミリーは目を潤ませながらそう言った。ふたりで喜びを分かち合っていると、突然後ろから声をかけられた。


「おめでとう、アメリア。さすがだね。」


その声に振り向くと、ルーカスが柔らかな笑みを浮かべて立っていた。


「ありがとうございます、ルーカス様もさすがです。」


アメリアは上から2番目に書いてあるルーカス・グレイフォードの名前を見ながら言った。


「でもやはり君には敵わないね。でも、この結果は励みになる。次こそは勝てるように頑張るよ。」


ルーカスはそう言いながら微笑む。その瞳には、いつもの余裕のある雰囲気とは少し違う真剣さが宿っていた。


「ありがとう、ルーカス様。これからもお互い頑張りましょう。」


アメリアが丁寧に返すと、ルーカスは小さく頷き、再び掲示板に視線を戻した。


少し離れたところでは、アレクシオがフィリップと一緒に掲示板を見ていた。彼は「まあまあの成績だな」と、軽く肩をすくめると、アメリアの方に歩み寄ってきた。


「みんな優等生ばっかりでプレッシャーだよ。」


アレクシオは軽口を叩きながらも、どこか浮かない表情をしていた。


「アレク、大丈夫?まさか赤点ってことはないと思うし……。」


アメリアが心配そうに尋ねると、彼は一瞬言葉に詰まり、困ったような表情をしたが、すぐにいつもの調子で言った。


「いや、気にするなよ。フィリップが僕より成績が良くてちょっと悔しくてさ。」


そう言ってフィリップに目配せをする。フィリップは特に否定もせず、ただ肩をすくめた。


「それにしても、アメリアはすごいな。学年トップだなんて、さすが。努力の人だね。」


アレクシオは微笑みながら言った。話題をすり替えられたことにアメリアは気づいたが、深くは追及しなかった。


「それなら、次回はもっと頑張らなくちゃね。」


アメリアも微笑み返し、軽い調子で返す。


「そうだね。それにしてもここは人が多すぎて窮屈だね、少し向こうに行かない?」


アレクシオが辺りを見回しながら提案すると、アメリアも頷いた。掲示板の周りは次々と集まる生徒たちで混雑していた。


ふたりは、少し離れた中庭のベンチに腰を下ろすと、アレクシオは風に揺れる木々を眺めながら静かに息を吐いた。


「ふぅ。人混みはやっぱり疲れるね。ここのほうが頭がすっきりする。」


「珍しいわね。アレクは賑やかな場所の方が好きなんじゃなかった?」


アメリアが首を傾げて問いかけると、彼は苦笑しながら視線を彼女に戻した。


「人混みと賑やかは少し違うんじゃない?まぁ、あとたまには静かな方がいいんだよ。特に、考え事がある時は――ね。」


「考え事?」


アメリアが聞き返すと、アレクシオは少しだけ視線を外した。


「いや、大したことじゃない。仕事の話さ。でも、せっかく君と話せるんだ。今はもっと楽しい話をしよう?」


その言葉にアメリアは小さく笑みを浮かべたが、彼の口ぶりの奥に隠された何かを感じ取っていた。





その日の夜、アメリアは、自宅のダイニングで家族と夕食をとっていた。暖かなシャンデリアの光が食卓を照らし、真っ白な食器に盛られた料理が並んでいる。


「アメリア、期末考査はどうだったの?」


「一応、学年では1番の順位を取ることができました。」


「エミリーに教えながらも、よく頑張りましたね。」


母が誇らしげに微笑みながら話しかけると、アメリアは照れくさそうに頷いた。


「えぇ……。でも、今回の問題は比較的解きやすかったので、たまたまです。」


謙遜するアメリアに、父が優しく微笑んで言った。


「結果が出せたのなら、それで十分だ。君はよく頑張っていると思うよ。」


「ありがとうございます、お父様。」


テオが口を挟むように「お姉さま、本当にすごい!僕も頑張らなきゃ!」と、無邪気に笑った。


食事が進む中、母がふと意味ありげな微笑みを浮かべてアメリアを見た。


「そういえば、ルーカス様とのお出かけはどうだったの?」


突然の質問に、アメリアはスープを口に運んでいた手を止めた。


「えっと……楽しかったです。前モンヌ伯爵の弟君様のご邸宅をグレイフォード家がギャラリーとして買い取っておりました。とても美しい庭もあり、優雅な時間を過ごさせていただきました。」


アメリアのその答えに母は困ったように笑った。


「そう……。素敵な場所だったのね。」


「ご報告が遅れてしまい申し訳ありませんでした。こういった経験は初めてだったので少し考えすぎてしまったのかもしれません。」


ふたりの様子を見ていた父は、何かを悟ったように微笑み「グレイフォード様はあの美貌もさることながらとても優秀だと聞いている。けれど、君の気持ちが一番大切なのだからね、何も焦る必要はないからね」と、柔らかい口調で話した。


その夜、アメリアは自室に戻り、ベッドに腰掛けながら窓の外を見つめていた。月明かりがカーテン越しに差し込み、部屋に静寂が漂う。


(焦る必要はないけれど……。)


第2図書館でのルーカスの真剣な瞳がふと脳裏に浮かぶ。


そして、今日のアレクシオの言葉と表情もまた頭をよぎった。


(あの時、彼は何を考えていたのかしら……)


アメリアは迷いと疑問を抱えたまま、静かに目を閉じた。





次の日の昼休み、アメリアは学院の中庭でアレクシオと鉢合わせた。薄曇りの空の下、中庭は人もまばらで静かな雰囲気に包まれている。


「あ、アメリア。」


アレクシオは軽く手を振りながら近づいてきた。けれど、その表情にはどこか影があった。


「ねぇ、アレク。昨日から元気がないように見えるけど……。私、あなたのことが心配よ。」


アメリアが心配そうに尋ねると、アレクシオは一瞬躊躇したように見えた。


「まあ……少しね。商会で小さな問題があって。」


彼は肩をすくめ、軽く言うが、その声にはどこか緊張感が滲んでいた。


「どんな問題なの?教えてくれない?」


アメリアはその場に立ち止まり、真剣な眼差しで彼を見つめた。


アレクシオは緊張を少し解いて「君には叶わないなぁ」と、言いながら少しため息をつき、そして近くのベンチを指さした。


「ちょっと座ってもいい?」


二人は並んで腰を下ろし、アレクシオは中庭の花々を見つめながら話し始めた。


「実は、商会が運営している養蚕場に併設されている託児所があるんだ。そこにいる職員が2人、急に辞めてしまってね。次の人を見つけるまでの間、現場が混乱している。」


「まあ!それは大変ね。」


アメリアは驚きつつも、アレクシオの苦悩が少し理解できたような気がした。


「父も、できるだけ早く解決しなさいと言うけど。採用がうまくいってなくて簡単にできることじゃないというか。」


アレクシオは苦笑し、少し髪をかきあげた。


アメリアはしばらく考えた後、真剣な顔つきで言った。


「私でよければ、夏休みの間なら手伝うわ。先日の差し入れのお礼も兼ねて……。役に立てることがあるかもしれないもの。」


アレクシオは彼女を驚いたように見つめたが、すぐに首を振った。


「いや、君にそんなことを頼むわけにはいかないよ。せっかくの夏休みだし、それに……。」


「それに?」


アメリアが問い詰めるように尋ねると、アレクシオは少し困ったように笑った。


「君にはそんな負担をかけたくないんだ。それに、僕がなんとかするべき問題だ。」


アメリアは彼の言葉に頷きつつも、どこか納得できないような表情を浮かべた。


二人はしばらく沈黙した後、アレクシオが立ち上がった。


「でも、ありがとう。そう言ってくれるだけで嬉しいよ。」


彼は柔らかい笑みを浮かべて立ち去ろうとしたが、数歩歩いたところで振り返った。


「アメリア、何か困ったことがあったら、君も僕に頼ってくれていいんだからね。」


彼の言葉に、アメリアも微笑んで頷いた。だが、彼が本当に困っている時に自分が何もできないことに対するもどかしさは、心の中に残ったままだった。

次回更新は2024年11月23日予定です。

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