表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】織りなす糸の先は  作者: 牧之原うに


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/31

第17話

予定より1日遅れで投稿します。

次の日。アメリアはラクロワ家の談話室でエミリーの到着を待っていた。窓から差し込む陽の光がカーテンを揺らし、室内を明るく照らしている。


しばらくすると、アンナが「エミリー様がいらっしゃいました」と、アメリアに告げた。軽やかな足音が聞こえてきたかと思うと、エミリーが小さなトランクを引きながら姿を現した。


「ミー!昨日の今日なのに突然来てしまってごめんね。本当にこのままだとひとりだけ夏休みなくなっちゃうと思って……。」


エミリーは困ったように眉尻を下げ、俯きながらアメリアに近づいた。


「ようこそ、エミリー。いいわよ。私もいつもあなたには助けてもらってばかりだし……。道中は大丈夫だった?」


アメリアは微笑みながら彼女を迎え入れた。


「ええ、馬車の中でずっと参考書と睨めっこしてたわ。そしたら余計に不安になっちゃって……。でも、着いてミーの顔を見たらホッとした!」


エミリーはアメリアを見てにっこりと微笑んだ。


「そう言ってもらえて嬉しいわ。今日一日、集中して勉強しましょうね。」



アメリアがそう言うと、エミリーは「もちろん!」と、元気よく頷いた。


談話室の大きなテーブルに教科書やノートを広げた二人は、早速勉強を始めた。アメリアはエミリーの苦手科目である数学を中心に、わかりやすく教えながら進めていく。


「エミリー、ここの問題、さっきと同じパターンよ。公式を思い出してみて。」


アメリアが声をかけると、エミリーはうーんと眉をひそめながらノートにペンを走らせた。


「これで……合ってる?」


エミリーが恐る恐る答えを見せると、アメリアは微笑みながら頷いた。


「正解よ!ほら、やればできるじゃない。」


「やったー!ミー、さすがだわ!」


エミリーは大げさに喜びながら両手を挙げて小さくガッツポーズを取った。そんな彼女を見て、アメリアは小さく笑いながら次の課題を準備した。

しばらく集中して取り組んだあと、アメリアは時計を見て、「一旦休憩にしましょうか」と提案した。


「賛成!もう頭がパンクしそう!」


エミリーは椅子から立ち上がり、伸びをした。


アメリアは、エミリーを庭園に案内した。庭には手入れの行き届いた花々が咲き乱れ、小さな池がキラキラと太陽を反射している。その傍らで、アメリアの弟・テオが遊んでいた。


「テオ!」


エミリーが声をかけると、テオは少し恥ずかしそうに振り返った。


「こんにちは、エミリー!会えてとっても嬉しい!」


テオは顔を赤くしながらも満面の笑みを見せた。


「テオは今日も可愛いわね!私も会えて嬉しいわ!」


エミリーは、テオのそばに駆け寄ると、彼と一緒に池の周りを歩きながら話し始めた。


「テオは今、どんなお勉強してるの?」


エミリーが興味津々で尋ねると、テオは「最近、先生に教えてもらった植物の名前を覚えてるんだよ」と、誇らしげに答えた。


その様子をアメリアは微笑みながら見守っていた。



--



庭を一回り散策した後、3人は少し汗ばんだ様子で屋敷のテラスに戻った。初夏の日差しが肌に心地よいが、さすがに少し暑さがこたえたらしい。


「ふぅ、そろそろ一息つきましょうか。」


アメリアが微笑みながら言うと、テラスにはすでにお茶の用意が整えられていた。涼やかな風で淡い花柄のクロスが揺れている。


「いいわね!ミーの家って茶器もクロスもお庭も……本当に素敵だわ。」


エミリーが椅子に腰を下ろしながら周囲を見回す。


テオはアメリアを見上げ「お姉様、紅茶と一緒にお菓子も食べていい?」と、上目遣いで尋ねた。


「ええ、あとで皆でいただきましょう。」


アメリアが嬉しそうに笑うテオドールの頭を優しく撫でたその時、アンナがパタパタと早足でやってきた。


「お嬢様、フォルツィ商会の……!」


アンナの言葉を最後まで聞くことはなく、背後からアレクシオの声が聞こえた。


「ごめん、来ちゃった。」


アメリアが振り向くと、アレクシオが片手に包みを抱えて立っている。その顔にはいつもの食えない微笑みが浮かんでいる。


「アレク?突然どうしたの?」


アメリアは少し驚きながら尋ねた。


「これ、差し入れ。仕事の途中でいつも使っている洋菓子店の前を通ったからついでに。勉強会の役に立てばと思ってね。」



アレクシオは軽く肩をすくめながら、包みをアメリアに手渡した。


「ありがとう。」


「まぁ、あとそろそろエミリーが限界になってきっと食いしん坊を発動するかな?と思ったしね。」


アレクシオが冗談めかして言うと、エミリーはぷぅと頬を膨らませて「そんなことないわよ!でも、せっかく持ってきてくれてありがとう!遠慮なくいただくわ!」と、胸を張って言った。


エミリーの様子にアメリアが苦笑すると、テオが勢いよく駆け寄ってきた。


「アレクお兄さま!」


テオはアレクシオに飛びつき、そのまま嬉しそうに彼の手を引っ張った。


「おや、テオ。元気そうで何よりだ。」


アレクシオはしゃがんでテオの頭を軽く撫で、彼の目線に合わせるように微笑んだ。その姿を見て、エミリーが思わず小さく声を上げた。


「アレク、テオにはこんなに優しいだね。まるで本当のお兄さまみたい。」


エミリーが驚いていると、アレクシオは苦笑しながら立ち上がり、少し考えるようなそぶりを見せた。


そしてふと真剣な表情で「それも悪くないかも」と、小さく呟いた。


「え?」


アメリアがそう反応した時には、もう真剣な表情は形を潜め、いつもの胡散臭い笑みを浮かべている。


「じゃあ、僕はここで。ただ差し入れを届けに来ただけだから。」


アレクシオはそう言いながら、玄関へと足を向けた。その背中を追うように、テオが慌てて走り出す。


「待って!お見送りする!」


だが、アメリアがさっと立ち上がり「私が見送るわ、テオはエミリーとお茶の準備をしてくれる?」と、微笑んでテオを制し、アレクに続いた。


エミリーは去りゆくアレクシオとアメリアの後ろ姿を眺めながら呟く。


「アレク。あれは、本気っぽいわ……。どうなることやら……。」



--



二人はラクロワ家の玄関を出て、フォルツィ商会の馬車へと向かっていた。そして、アレクは馬車の扉の前まで来ると、ふと立ち止まり、アメリアを振り返った。


「今日、楽しそうだったな。」


「ええ。差し入れもありがとう。テオもエミリーも喜んでたわ。」


「いや、もちろん。2人にも喜んでほしかったんだけどね。2人の様子を見た君が、とても嬉しそうで良かった。」


「もう!からかわないで。でも……本当にありがとう。」


アメリアは頬を赤くしながら礼を述べた。その様子にアレクシオは満足そうに笑みを浮かべ、ふいにアメリアの顔をじっと見つめた。


「そうそう、グレイフォードとのデートは、どうだった?」


真剣な表情をしたアレクシオの突然の問いにアメリアは一瞬動揺するが、すぐに微笑みで隠す。


「楽しかったわ。彼は素敵な人だもの。」


「ふうん、そうか。」


アレクシオは目を細め、どこか探るような目で彼女を見た。しかしそれ以上は聞かず、手を伸ばしてアメリアの髪の一房をそっと手に取った。


「君には、自然体でいて欲しい……な。」


そう言って彼はすっと親指で髪を撫でた。どこか名残惜しそうな様子で。


アメリアは息を呑み、顔がほんのりと赤くなる。


「アレク……。」


「じゃあ、またね。」


アレクシオはさっと彼女から離れ、馬車に乗り込んだ。その背中を見送りながら、アメリアは胸の奥が少しだけざわつくのを感じていた。


(アレク、どうしたのかしら。さっきのは、どういうこと?)


テラスに戻ると、エミリーが満面の笑みで待ち構えていた。


「ミー!何を話してたの?!」


「何でもないわ。ただお礼をしただけよ。」


アメリアは努めて冷静に返した。そして「さて、せっかくいただいたお菓子だものいただきましょう?」と、話題を変えた。


「はーい!」


テオドールが元気よく返事をして、3人は美味しいお菓子とお茶に舌鼓を打った。



--



お茶の時間の後、本日分の復習を終え、勉強会はお開きとなった。エミリーは大きく伸びをしながら「ふぅ、今日は本当に勉強したわね!私、こんなに集中したの、久しぶりよ」と、笑顔を浮かべた。


アメリアもほっとした表情で「ええ、私も少し疲れたけれど、実りのある時間だったわ」と、頷く。


そんなアメリアを見て、エミリーは少し考えを巡らせたのち、口を開いた。


「ミー。言いたくなかったら無理には聞かないけれど、ルーカス様とのデートはどうだったの?」


アメリアは一瞬目を丸くして、それから少しだけ困ったように微笑んだ。


「そうね……。楽しかったわ。」


「うーん、本当?いや、実はね、週明けのあなたの様子を見て、あんまり楽しそうじゃなかったような気がしていたから、気にしていたの。私はとにかくミーが幸せになってほしいし、ミーがミーらしくいられるほうがいいなって思う。ほら?案外近くに素敵な人がいるかもしれないしね。」


エミリーがからかうように言いながらウインクすると、アメリアの頭の中に、ふとアレクシオの顔が浮かんだ。いつもの軽口、そして庭先で見せた優しい横顔、そして別れ際の……。


(私は何を考えているの?)


アメリアは少し頬を赤らめながら「ありがとう、エミリー。その言葉、励みになるわ」と、だけ返した。


外はすっかり夕暮れ。窓越しに見える庭園には、淡い茜色の光が差し込み、バラの花々が静かに揺れていた。その美しい情景を眺めながら、二人はそっと微笑み合った。


「また明日も、頑張りましょうね。」


アメリアが柔らかく声をかけると、エミリーは「うん、絶対に赤点は取らないんだから!」と、拳を握りしめた。

次回更新は2024年11月19日予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ