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【完結】織りなす糸の先は  作者: 牧之原うに


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第16話

風邪で1週間お休みいただきました。今日から再開します。

ルーカスとのデートから1週間。その日の授業が終わった講堂にはいつもより心なしか多くの生徒が残っている。みな期末考査が近づいていることを意識しているのか、自然と試験について話す声があちこちで聞こえてきた。


アメリアも机に向かいながら、耳に届く話題に少しだけ意識を向けていると、隣の席のエミリーが目を潤ませて話しかけてきた。


「ミー!期末考査どうしよう……!数学がついていけてなくて、歴史が覚えられないの!」


エミリーは真っ青な顔をしてアメリアに縋り付いた。非常にまずい状況らしい。


「エミリー、焦らずに取り組めば大丈夫よ。何か手伝えることがあれば言ってね。それか一緒に勉強しようか?」


「え!いいの?!女神様がここにいたわ!泣きそう……」


「もう、エミリーったら大げさよ。」


アメリアが困ったように笑っていると、アレクシオとフィリップがやってきた。


「アメリア、その話、僕たちものってもいいかい?」


「ん?どういうことかしら?」


「いや、ちょうど今フィリップと一緒に勉強しようかなんて話してたところなんだよ。とは言え、フィリップも僕もアメリアには敵わないし、ぜひアメリアから勉強のコツを盗めたらなんて。」


アレクは蠱惑的な笑みを浮かべて言った。


アメリアはその笑みにドキッとしながらも平静を装い「そうね……」と、悩ましげに呟いた。


その小さな呟きをエミリーは逃すはずもなかった。


「またこのメンバーで一緒にできるなんて楽しみだわ!ね、フィリップ様!」


エミリーは素早くフィリップに目配せし、フィリップも無言で頷いた。


アメリアはエミリーの様子に苦笑しながら言った。


「やるからには手は抜かないわよ?」


「はい、アメリア先生?」


返事をしたアレクの口元は緩やかな弧を描いていた。



放課後、4人は期末考査に向けて第1図書館に集まった。学生たちが集まって勉強会を開いており、色とりどりのノートや参考書を広げる様子は、図書館とは思えない賑わいであった。


「さあ、まずは参考書を集めようか?」と、アメリアが言うと、それぞれが必要な書籍を探し始めた。


アレクシオは、数学の棚に向かいアメリアに向かって「ほら、君の得意分野だよね?これはどう?」と、明らかに難しそうな参考書を手に取り、にやりと笑いながら見せつけた。


アメリアも微笑み返しながら「どうもありがとう。これがすらすら解けるくらいだったら、勉強会の必要はないわね。それともアレクが使うのかしら?そしたら数学が得意で多忙なフォルツィ商会の跡取りにテオの家庭教師をお願いしちゃおうかしら?」と、からかい気味に言った。


アレクシオは「うん、それも悪くないね。そしたら毎週君と茶会をする口実ができたわけだ。」と茶目っ気たっぷりに言い、真っ赤になった彼女の隣に座った。


一方、エミリーはというと、歴史の参考書を抱えながらちょこちょことフィリップの元に向かっていた。


「ねえ、フィリップ様。これらの歴史書、考査の範囲のものなのだけどちょこっと見ただけでも頭にまったく入らなそうな感じで……。もう少し優しいものを教えてくれませんか?」


「これなら、章ごとにまとめがあるし、表現も難しくないから分かりやすいと思う。」


フィリップは、彼女が抱えているたくさんの歴史書と1冊の参考書をさりげなく交換した。


「ありがとう!これならいけそうな気がします!」


そんなエミリーが喜ぶ姿を見て、アメリアも笑みを浮かべた。


それぞれが参考書を集め、テーブルに戻ってきたところで、アレクシオが声をかける。


「じゃあ、しばらくはここで集まって勉強会をするってことでいいかな?自習も必要だと思うから1日置きでいい?みんなが勉強しているからサボりにくいだろうし。」


「あなたは、早速サボることを考えてるのね。そうね、しっかりやりましょう。」


アメリアは苦笑しながらアレクをたしなめた。


エミリーも周囲を見渡し「みんなも頑張ってるのね……。私ももっと頑張らなきゃ!」と、自分に言い聞かせるように声を上げた。


エミリーが意気込む姿を微笑ましく見守っていると、アレクシオがアメリアに顔を向けてにやりと笑った。


「そうだ、アメリア。せっかくだから、僕が1教科でも天下のアメリア様に勝てたら、なにかご褒美が欲しいな。」


アメリアはその挑発に少し驚きながらも、すぐに笑みを浮かべて答えた。


「そうね、そうゆうのも悪くないかもね。私も全力で相手をするわ。」


エミリーはその姿を意外そうに見つめながらも「なんだか面白そう!ミーを応援するわ!」と、当事者でもないのに早速乗り気である。


「僕は応援してくれないの?というか、エミリー。君は本気でがんばらないと夏季休暇は遊べないんじゃない?」


「うわー!!せっかく忘れてたのにやめてよー!」


4人は笑い合いながら、賑わう図書館の一角で、参考書を手に期末考査に向けての準備を進めていく。


アレクシオはアメリアに時折軽口を叩きながら、彼女がノートに記す内容にちらっと目をやって、熱心に勉強している姿を微笑んで見ていた。


どこか温かい、そんな時間が流れていた。





次の日の放課後、アメリアは自習のために第2図書館に向かっていた。相変わらず、第2図書館は人気がなく静かで、考査前だというのに人はまばらであった。


(明日の勉強会までにエミリーが不安がっている範囲をまとめておかなきゃ。)


アメリアがいつも以上にカリカリとペンを走らせていると、あっと言う間に日は傾いていく。


ふぅ、と彼女が一息ついたとき、目の前に人影が差した。


「アメリア。」


「あっ……ルーカス様。」


先日の展示会以来、なんとなく避けていたルーカス――その人がそこにいた。


「きっとここには来るかなと思って。声をかけたら邪魔だったかな?」


「いえ、ちょうど一区切りついたところでしたので……。ルーカス様も考査対策ですか?」


「いや、君に会いに来たんだ。」


アメリアは一瞬、何を言われたのか理解できなかった。施錠時間が近づいている第2図書館は、それこそアメリアとルーカスのふたりきりしかおらず、まるで時が止まったようだった。


「この前のデート、君の様子が少しおかしかったから気になっていたんだ。僕はなにかしてしまったのかと。」


思い詰めている様子のルーカスを見て、アメリアは驚いていた。ルーカスはアメリアも含め、他人に興味がないと思っていた。


「いえ、とても楽しい時間でした。ルーカス様の絵画に対する熱い想いを知ることができました。」


アメリアは動揺をごまかすようににっこりと笑って答えた。ルーカスはその様子を見て、眉尻を下げて困ったように笑った。


「それはそうなんだけども、僕はしっかり君に伝えなければならなかったんだ。アメリアに興味があって、君のことが知りたいと思ったからデートに誘ったんだということを。」


アメリアは、自身の心臓の音が聞こえるくらいドキドキしていた。ルーカス様は今なんと?私になんと言った?


「私は、そんなルーカス様に知っていただくような大層な人間では……。」


「アメリアは、すごく魅力的だと思う。とても責任感の強いところ、好奇心旺盛なところ、姿勢が美しいところ、魅力を挙げるとキリがないよ。」


アメリアは顔を真っ赤にして俯いた。人生でこんなに男性に褒められたことなどなく、なんとも心許ない。

その時、司書から施錠の声掛けがあった。

アメリアは「あの!わたし講堂に忘れ物をしてしまったみたいなので、先に帰りますね!」と、急ぎ荷物をまとめて席を立った。


そんなアメリアの去り際、ルーカスは彼女の手首をそっと掴み「今、話したことは冗談ではないから」と、耳の先を赤くして告げた。


「さ、さようなら!」


アメリアは第2図書館を飛び出した。


(ルーカス様、どうかしてる。だってこの前までなんの興味もなさそうだったじゃない。いきなりそんなこと言われても。)


アメリアは、混乱する考えを振り払うように校門まで早足でむかった。



次の日、4人の勉強会の終盤、エミリーがアメリアに声をかけた。


「ミー!どうしてもわからないところがあるから、明日、ミーのおうちで教えてもらうことってできる?」


エミリーが零れ落ちそうな瞳をうるうるとさせてアメリアに頼み込んだ。


「いいわよ、テオも喜ぶだろうし。ぜひ。」


「やったー!」


エミリーは、直前までうるませていた涙を引っ込めて無邪気に喜んでいる。


「エミリーは現金だな。僕とフィリップは家の用事があるからな。行きたいけどもパス。各々家で頑張ることにするよ。」


アレクは少し残念そうに笑い、フィリップもその言葉に頷いた。


「わかったわ。エミリーは、こちらでなんとかするから、頑張りましょうね!」


「お願い!ミー!」


その後も皆と和気あいあいと勉強続けていたアメリアは、昨日の出来事を振り払うかのように勉強に集中していった。

次回更新は2024年11月16日予定です。

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