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【完結】織りなす糸の先は  作者: 牧之原うに


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第13話

アメリアの部屋は穏やかな朝日に包まれていた。今日はルーカスとのデート当日。いつもより少し早く起きてしまい、窓の外を見ながら心の中で緊張を感じていた。


(良い天気で良かったわ……。そろそろ支度を始めないと。)


アメリアが良い天気に安心し、ホッと息をついたその時、ドアがノックされた。


「失礼いたします。お嬢様、準備を始めさせていただきますね。」


メイドが扉をそっと開け、優雅な動作で入ってきた。彼女はメイド長のアンナで、アメリアが幼い頃からラクロワ家に仕えている古株の使用人だ。


「うん、お願い。」


アメリアは軽く微笑みながら答えた。


アンナはそんなアメリアを見て優しく微笑み「目一杯お洒落しましょうね」と、言う。


彼女はドレスをそっとアメリアに着せて、手際よく後ろの紐を編み上げていく。そしてアメリアのほっそりとしたウエストに沿わせるように形を整えた。


「お嬢様、それにしてもグレイフォード様とのお出かけ、とても楽しみですね。」


アンナが髪を整えながら話しかけると、アメリアは少し戸惑いながらも答えた。


「ええ……。少し緊張しているけど、楽しんでこようと思うわ。」


アンナは微笑みながら「きっと素敵な一日になりますよ。ご安心ください。とてもお似合いです。」と、言いながら、アメリアの髪を綺麗にまとめ、最後にさっと髪飾りを添えた。


アメリアは鏡の前に立ち、自分の姿を確認した。薄水色のドレスは、柔らかな光を集め、絵画のような美しさを放っていた。


「本当に素敵なドレスね……。ありがとう、アンナ。」


アメリアは感謝の気持ちを込めて言った。


アンナは微笑みながら一礼し「では、ルーカス様がいらっしゃったらお声がけいたします」と、付け加えた。


アメリアは深呼吸をして気持ちを落ち着け、部屋を出る準備をし始めた。


しばらくすると、アンナがやって来てルーカスの到着を告げた。アメリアは、緊張しながら部屋を出て廊下を進み、階段を降りていく。そして、階段の途中で母がやって来て彼女に声をかけた。


「うん、とても似合っているわ。きっとルーカス様も感激なさると思うわよ。」


とても嬉しそうな彼女に対し「そうだと良いのですが……」と、アメリアが控えめに答えると「私とアルの自慢の娘なのだから、堂々としていなさい。今日の姿を見て、アルの言うようにルーカス様にも引けをとらないくらい美しい娘だと気付かされたわ。」と、少しからかいの色を込めたように笑った。


母の少し茶目っ気のある様子を久々に見たからか、アメリアの緊張もたいぶほぐれた。


「お母様、いってきます。」


そう告げると、母の微笑みを背に受けながら応接間に向かった。


応接間に到着すると普段の制服姿とは異なり、シックに着飾ったルーカスが待っていた。いつもはさらさらと流している髪は前髪を一房残してきっちりと分けられ、ダークグレーのフロックコートを着ている。揃いのトラウザーズはルーカスの長い脚を更に長く見せている。チラリと見えたチーフが深い緑色で、アメリアはそわそわした気持ちになった。そして彼はアメリアを見て、優雅に微笑む。


「おはよう、アメリア。今日の君は一段と美しいね。ドレスの色、よく似合ってる。」


ルーカスは手を差し出した。アメリアはその手を取り、微笑み返した。


「おはようございます、ルーカス様。ありがとうございます。」


そう答えてから、ふと、アメリアは自身がルーカスの色を纏っていることに気付いた。そして急に恥ずかしくなって、真っ赤になって俯いてしまう。


そんなアメリアを見て、ルーカスは「ふふっ」と、声を出して笑いながら、彼女を馬車へとエスコートした。


(今日は楽しく過ごそう。ルーカス様との時間をしっかり楽しもう。)


馬車の座席に腰を下ろしたアメリアは、先ほどの気恥ずかしさを紛らわせようと、努めて外の景色を眺めながら、心の中で何度も自分に言い聞かせた。馬車はゆっくりと動き出し、会場へと向かっていった。外の景色が変わってくると、アメリアの緊張は少しずつほぐれ、今日という一日に期待を膨らませ始めていた。





会場であるギャラリーは、貴族街でも市街地寄りの位置にあり、グレイフォード家よりもラクロワ家から近い。馬車はあっという間に会場に到着し、御者が恭しく馬車の扉を開けた。先に降りたルーカスがアメリアに手を差し伸べ、アメリアは胸の高鳴りを感じながら馬車を降りた。


(とても可愛らしくて素敵な建物だわ。)


現れたのはこじんまりとした白亜の屋敷で、屋敷の大きさの割に広めの庭園があり、見事なバラが咲き誇っている。


「ここは、前モンヌ伯爵の弟君がひとり暮らしをしていた屋敷でね。絵画がご趣味の方だったからか屋敷の調度品がとても美しくて、弟君が亡くなられたタイミングで我が家がそのまま買い取ったんだ。」


アメリアがぽーっと屋敷に見とれていると、ルーカスは説明を続ける。


「その弟君は、とてもバラが好きだったのでね。だから、庭園が広く取られていて、バラが植えてあるそうだよ。今は季節的にも見頃だから、ガゼボをティールームとしても使用しているんだよ。後で案内するね。」


「はい。ありがとうございます。」


アメリアはバラの鮮やかな色彩を見ながら微笑んだ。


ギャラリーの中に足を踏み入れると、こじんまりとした外観の印象とは打って変わって荘厳な景色が広がった。大理石の床が光を反射し、シャンデリアの光がキラキラと輝いている。壁には絵画が並び、その様子は圧巻であった。


アメリアが少し気後れしていると、ルーカスはそっとアメリアをエスコートし、一枚の人物画の前に誘った。


「こちらはネクロマナ派の巨匠作品のオマージュだね。特に光の使い方が素晴らしく、人物の表情も非常に細かく描かれている。」


ルーカスは、穏やかな声で解説を始める。


「本当に綺麗な絵ですね……。今にも動き出しそうですね。」


「そうだね。特に、人物の皮膚に血の気を感じると思うのだけど、これは光の反射の表現を利用することで、そう見せているんだ。」


ルーカスがすぐに答え、彼の知識が深いことにアメリアは少し驚いた。


次に進んだのは、幻想的な風景画だった。ルーカスは少し前に進み「この作品はグラポール国の画家のもので、背景に描かれた山々は、理想郷を象徴しているんだ」と、説明を続けた。


アメリアはその絵をじっと見つめ「山の描写が本当に美しいですね……。色彩が幻想的で、穏やかな気持ちになります」と、感想を述べた。


ルーカスは「そうだね。画家の信仰心が強く、神々の住まう場所をイメージしたそうだよ。」と、言いながら微笑み、次の作品へ案内をする。


「この絵画は、常設で置いているものなんだけども、200年ほど前の画家が手がけたもので、彼は当時、王侯貴族の支援を受けていたんだ。だから彼の作品は王家のシンボルである、赤がポイントで多用されている。特にこの作品は、彼の最高傑作と言われていて、この精緻なモティーフが特徴だよ。」


ルーカスは細かく解説しながら、彼女に絵画の細部を指さして説明した。


「ルーカス様は、絵画にとても詳しいのですね。絵画はお好きなんですか?」


ルーカスの情熱的な講義が続いていたため、アメリアは話の流れを変えようと、彼に質問を投げかけた。


「そうだね。特別好きという感情はないかな。父や母に幼いころから連れられてきているので自然と詳しくなった気がするよ。けれども、僕自身も芸術は貴族としての教養の一環だから、できるだけ多く触れておくべきだと考えてはいるよ。」


ルーカスは穏やかに言葉を返した。


「そうなんですね。てっきりお好きなのかなと思いました。」


「もちろん、嫌いではないよ。それなりに色々な作品を見てきているからある種、習慣になっていると思う。」


ルーカスは少し遠くの絵を見つめながらそう言った。


アメリアは彼の発言に少しひっかかりを覚えたが、ルーカスは次の展示品に向かい、「ここには、グレイフォード家に伝わる最も古い作品があるんだ。これは、数世紀前に王から贈られたものだと聞いている……」と、話を続けたため、そちらに気を取られ、彼の解説に耳を傾けていった。


そうこうしているうちに、ギャラリーのほぼ全ての絵を鑑賞し終えた。


「さあ、次は庭園に移動しようか?喉もかわいただろう。」


ルーカスが優しく問いかけ、アメリアは軽く頷き同意した。


二人はギャラリーを後にし、美しいバラが咲き誇る庭園をゆっくりと歩き、白いガゼボへと足を運んだ。庭園は穏やかな風に包まれ、バラの甘い香りが漂い、心地よい時間が流れている。ルーカスが先にガーデンチェアに腰を下ろし、アメリアもその向かいに座った。


咲き誇る花々に囲まれ、給仕が紅茶を運んでくるのを待つ間、二人は短い沈黙の中で、それぞれ鑑賞の余韻に浸っていた。爽やかな風がそよぐ中、ティールームでのひとときが始まろうとしていた。



次回更新は2024年10月26日予定です。

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