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【完結】織りなす糸の先は  作者: 牧之原うに


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第12話

次の日。

放課後、アメリアは第2図書館で翌日の授業のために予習をしていた。しかし、心は落ち着かず、ページをめくっても頭に入ってこない。何度か本を閉じたり開いたりしながら、彼女は時計をちらりと見た。


(もうこんな時間……。ルーカス様、まだ来ないのかしら。)


その時、遠くから足音が聞こえ、彼女が顔を上げると、ルーカスが少し焦った様子で現れた。


「ごめん、アメリア。遅れてしまった……。生徒会から役員の打診があって、それを断るのに少し時間がかかってしまったよ。」


ルーカスは少し息を切らしながら、申し訳なさそうに言った。


「大丈夫です、ルーカス様。気にしないでください。生徒会からお声がかかるなんて、さすがですね。」


ルーカスは苦笑しながら、「いや、僕には向いていないよ。まだ1年次だからね。それより、こんな時間になってしまったけど、もう遅いし、馬車まで送らせてくれないか?」と、彼女を気遣うように提案した。


「ええ、ありがとうございます。」


アメリアは少しホッとしながら、本を閉じて立ち上がった。



--



2人は図書館を後にし、夕暮れの空が広がる中庭を歩き始めた。柔らかい風が吹き、木々がさわさわと音を立てている。


「それにしても、本当に元気そうで良かった。君が倒れたと聞いたときには心配したんだよ。」


ルーカスが微笑みながら言うと、アメリアは「本当にご心配をおかけいたしました」と、謙虚に答えた。


2人はしばらくの間、歩きながら静かに会話を続けていたが、ふとルーカスが立ち止まり、アメリアを真剣な目で見つめた。


「実は……。君に聞きたいことがあるんだ。」


彼は少し間を置いてから、柔らかい声で続けた。


「今度の週末、僕の家が所有するギャラリーで新進気鋭の画家たちの作品を展示をする予定なのだけど、もし君さえよければ、一緒に見に行かないか?」


アメリアは少し驚いた表情を見せたが、すぐに顔をほころばせた。


「絵画の展示でしょうか?美術にはあまり詳しくはないのですが、大丈夫でしょうか?問題なければ、ご一緒させていただきたいです。」


ルーカスは安心したように微笑み、「もちろん問題ないよ。先進的な作品も多いと聞いているしね。ありがとう。じゃあ、週末に迎えに行くよ」と、優しく言った。


2人はそのまま歩き続け、校門の外にラクロワ家の馬車が見えた。


「送ってくださってありがとうございました。」


「いや、こちらこそ。今日はお待たせしてしまいすまなかった。週末、楽しみにしているよ。」


ルーカスは優雅に手を振り、アメリアを見送った。





翌日、アメリアはいつも通り学院に向かい、クラスメイトと談笑しながら席についた。昨日のルーカスとの会話が頭の片隅に残っていて、少しだけ胸が弾むような気持ちはあったが、努めて平然としていた。


「おはよう、ミー!」


エミリーが元気に声をかけてきた。


「おはよう、エミリー。」


アメリアは微笑み返しながら席に着く。


エミリーは目を輝かせながら「ねえ、昨日の放課後はルーカス様と話せたの?」と、興奮気味に尋ねた。


アメリアは一瞬、少し戸惑ったが「うん、少しだけお話をしたわ。週末、お家が所有するギャラリーで絵画の展示があるらしくて、誘っていただいたの」と、答えた。


エミリーは目を丸くし「所有ギャラリーでの展示会なんて、さすがグレイフォード家!デートのお誘いじゃない!」と、声を上げた。


アメリアは少し恥ずかしそうに「まだデートっていう実感はないけど……ただ、素敵な絵画があるみたいだから、楽しみね。」と、返す。


その時、廊下の向こうからアレクシオがゆっくりと歩いてきた。彼はクラスメイトに軽く挨拶しながら、アメリアとエミリーのいる席に近づいてきた。


「おはよう、アメリア、エミリー。」


アレクシオは軽く手を振りながら声をかける。


「おはよう!」


エミリーが明るく答える。


アレクシオはアメリアの方に視線を向け「なんの話をしてるんだい?」と、尋ねた。


「ルーカス様と昨日お会いしたときに、週末にある彼のお家の展示のお誘いを受けたの。」


アレクシオは、一瞬だけ驚いた表情を見せたが、すぐに微笑んで言う。


「そうか。それは楽しそうだな。グレイフォード家の展示なんて、なかなか貴重なものが見れそうだしな。」


「でしょ!?きっと侯爵家。キラキラで高価な絵画がいっぱいありそう……!」


エミリーはうっとりと呟く。


「キラキラの絵画とキラキラのルーカス様、そしてしっとりと美しいミー!なんてお似合いでしょう!」


「ちょっと、エミリー!やめてよ!」と、アメリアは慌てたが、エミリーは、笑いながら「まあまあ、ミー。自分の家が所有するギャラリーなんて滅多にないんだから、楽しんできてね!」と、言う。


アレクシオはそのやり取りを静かに聞きながら、少し複雑な表情を浮かべていたが、すぐに肩をすくめて「ま、楽しんできなよ。」と、軽く返した。


その後、クラスメイトたちが教室に集まり始め、アメリアたちも授業の準備に取りかかった。ルーカスとのデートのせいでなんとなく落ち着かないアメリアではあったが、次の授業に集中しようと心を決め、黒板を見つめた。





デート前々日の放課後、授業が終わるとアメリア、エミリー、アレクシオ、そしてフィリップはそのまま教室に残り、雑談を楽しんでいた。大きな窓から夕日が差し込み、室内は柔らかな光に包まれている。皆、週末の開放感を味わいながら、リラックスした様子で過ごしている。


「今週はなんだかんだ疲れたなぁ」と、エミリーが身体を伸ばしながら言った。


「本当に。今週は実習のまとめもあったり内容が多かったし、集中するのも一苦労だったよ。」と、アレクシオも同意する。


フィリップは無言で頷きつつも、静かにみんなの会話に耳を傾けていた。


一方、アメリアは少し考え事をしている様子で、エミリーがそれに気づいた。


「ねぇ、ミー、なんか考えてるでしょ?」


エミリーが不思議そうに彼女を覗き込みながら尋ねた。


アメリアはハッとしたように顔を上げ、「あ、ごめん……。ちょっと考え事してたの」と、答えた。


「明後日のこと?」と、エミリーがすかさずニヤニヤしながら突っ込む。


「まぁ……ちょっとだけ」と、アメリアは控えめに答え、少し照れくさそうに目をそらした。


するとアレクシオが「展示会のお誘いだったよね?まぁ、そうだ、王子様が気取るにはうってつけの場所だよね」と、少し棘のある言い方をして笑った。


アメリアはその言葉に驚き、少し反論するように「そんなことないわ。彼は優しくて、とても落ち着いた人よ?」と、フォローを入れる。


「まあ、楽しんできなよ。ルーカスなら完璧なエスコートをしてくれるだろうし?」と、アレクシオが言いながら微笑むが、その表情にはどこか複雑な感情が見え隠れしていた。


その様子を見ていたフィリップが、場の空気を読んだのか、ふと、アメリアに声をかけた。


「緊張しているのか?」


アメリアは少し驚きながらフィリップの方を見た。


「ええ……少しね。ルーカス様は素敵な方だけど、やっぱりデートとなると……。」


フィリップは静かに頷き「無理しないで、自分らしく過ごせばいい。鍛錬もそうだが、大事なのは気負わないことだと思う」と、短くアドバイスを送った。


アメリアはその言葉に少しホッとしたように微笑んだ。


「ありがとう。そうね、自分らしく過ごせばいいのよね。」


「そうだよ、ミー!自信持って!」


エミリーが明るく声をかける。


「そうだな。まぁきっと君なら大丈夫だと思うよ」と、アレクシオも言葉を添えた。


アレクシオの先ほどの言い方は少し気にはなったが、アメリアはみんなの励ましに感謝しながら、少し緊張が解けたように「ありがとう」と、言いほっと息をついた。


アメリアは、彼らに別れを告げ、学校の門を出た。ラクロワ家の馬車はすでに待っている。アメリアは御者に軽く声をかけて馬車に乗り込んだ。


馬車がゆっくりと動き出すと、窓の外を見つめながら、週末のルーカスとの約束について思いを巡らせた。期待と緊張が入り混じる中、友人たちの励ましの言葉が心に響き、少しずつ気持ちが和らいでいく。


しばらくして、馬車はラクロワ家の門前に到着した。アメリアは御者にお礼を言いながら馬車を降り、ゆっくりと玄関へ向かった。扉を開けると、使用人が声をかける。


「お嬢様、おかえりなさいませ。夕食後、奥様が談話室に来るよう仰せでした。」


「ただいま、わかったわ。」





夕食後、指示された通り談話室に向かうと、母は紅茶を飲みながら刺繍をしていた。アメリアが入ってきたことに気がつくと微笑みを浮かべながら、「アメリア。今日はどうでした?」と、落ち着いた声で話しかける。


「特に問題はなく一日過ごすことができました」


母はその答えに満足げに頷きながら、刺繍の手を休め「それで、明後日のルーカス様とのお出かけの準備はできているのかしら?」と、穏やかに尋ねた。


アメリアは、母のその言葉に少し気後れしながらも「ええ、一応……。とは言え、ただ展示を一緒に見に行くだけですし……。」と、控えめに答える。


「そうかもしれないけれど、せっかくのグレイフォード家からのお誘いですから、今回のお誘いを大切にして、あなたも少しずつこういった機会に慣れていくのが良いわ。」


母は上品に微笑みながら、アメリアに言い聞かせるように言葉を続けた。アメリアは少し考え込みながら、静かに頷いた。


「……そうですね。ありがとうございます、お母様。」


「それにね……あなたにはとっておきのドレスを用意してあるのよ。」


母は穏やかに笑い、テーブルの上に置かれた美しい箱を示した。


アメリアは箱を開け、中に入っているドレスを手に取る。柔らかな光沢を放つ淡いブルーのドレスが現れた。シルクで仕立てられており、光の加減でほんのりと銀色がかる。上品なV字の襟元には、繊細なレースがあしらわれ、肩から流れるように広がる袖は薄いチュールで覆われている。そのチュールには、手刺繍で施された小さな花々が散りばめられて可愛らしい。


ウエスト部分はシンプルに絞られ、ラインは体に優しく沿って流れる。裾に向かってふんわりと広がるスカートは、歩くたびに軽やかに揺れ、まるで風にそよぐ花のようだ。背面には控えめなリボンがあしらわれ、全体のシルエットをさらに優雅に見せていた。



「素敵なドレスですね……。でも、私には少し可愛すぎるかしら……。」


「心配しないで。あなたにぴったりのデザインよ。清楚でありながら、ちゃんと華やかさもある。ルーカス様もきっと気に入るはずよ。」


母は優しい口調で娘を励ましながら微笑む。


「ありがとうございます、お母様。」


アメリアは再び頷き、母に感謝を述べた。


「しっかり楽しんできなさいね、アメリア。」


母は微笑みながら、彼女を温かい眼差しで見守りつつ談話室から送り出した。


談話室を出たアメリアは静かに自分の部屋へと向かった。部屋のドアを閉めると、彼女はベッドに腰掛け、息を吐いた。机の上に母親から渡されたドレスを置く。


「本当に大丈夫かしら……」と、アメリアはドレスを眺めながら、明後日のことを考えた。彼のことを知りたいという気持ちと、どこか心が落ち着かない感覚が入り混じる。


友人たちの励ましを思い出し、少しだけ笑顔を浮かべると「自分らしくいればいいのよね」と、小さく呟いた。彼女はドレスをクローゼットに丁寧にしまい、明後日に備えて早めに休むことにした。


ベッドに横たわり、窓の外から差し込む月の光を見つめながら、アメリアは静かに目を閉じた。




次回更新は2024年10月22日予定です。

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