知衣
「……誰も来ないね」
「来ませんねー」
せっかくのクリスマスだってのに、あたし何やってんだろ、ってちょっとだけ思っちゃった。
まぁ、別にバイトが入ってなかったとしても、あたしには彼氏なんかいないし?
今まで毎年一緒に過ごしていた親友は、大学卒業したら結婚するかもとか言い出すし……てか大学生なのに小学生の娘がいる人が交際相手ってどうなんだろ。
あーけどそういうのもありなのかなぁ……駄目だ、上手く書けそうに無い。
とにかく、一人で過ごすクリスマスなんて初めてだ。
「……中田さんももうあがっていいわよ。今日はあんまり来ないでしょうし」
「え、いいんですか?」
「もうすぐ次のシフトの人も来るんじゃないかしら」
「……まぁそうですよねー」
*
というわけで、コンビニを出てきちゃった訳なんですが……
「暇、だぁ」
毎年深雪と一緒にいたからな。
彼氏とか出来そうに無いし、チャットするにも時間的に……もう解散してるかなぁ。
あーもー、深雪の馬鹿ぁー!
「シングルベル、か……」
チャット仲間の歌音ちゃんが言ってたのもよく分かる。
くっそー、一人楽しすぎるぜー……なーんて、何言ってんだか。
とか思って角を曲がろうとしたら、勢い良く向こうから走ってきた通行人Aと正面衝突した。
……うわあ。
「いったぁ……!」
「わ、ご、ごめんなさい! 大丈夫ですか!?」
すっかり慌てた様子で手を差し出されたから、ありがたく甘えることにしようか、断るのも悪いし。
立ち上がってみれば、通行人Aはずれていたサングラスを掛けな――ん?
「……あ、もしかして貴方ふぐっ」
「わーっ! ちょ、悪いけどそれ言わないで!」
すっかり慌てた様子で口を抑えられて、思わず目を白黒させる。
通行人Aは、どうやら今結構有名な感じの俳優さんだったりしちゃうようだ。
なんせ最近のドラマとかにはてんで明るくないあたしが知ってるぐらいだもんね。
…………なんてベタな展開。身をもって体験する羽目になるとは。
「ほんとにゴメン、えっと、とりあえずどうしよう、修次ってよんでもらっていい?」
「それって偽名ですよね」
「うん偽名」
さらっと言いやがったよこいつ。
通行人A、もとい修次……くん――でいいのかな――は、「怪我とかして無い?」と心配そうに聞いてきたから、とりあえず首を縦に振っておいた。
いったってしりもちついただけだし、ちょっと吃驚して声を出しはしたけど、別に大して痛くないし。
「そうだ、この辺りであんまり目立たなさそうな店とかあるかな?」
「……静かにクリスマスを過ごしたいって訳ですか」
「そういうこと!」
なんか……テレビ越しと直接会うのじゃ随分印象変わるな。
テレビで見てるよりも子供っぽい雰囲気が……。
けど、これっていい体験だよね!
かなりベタな展開だけど、やっぱり体験第一だよね! よし!
「案内しましょうか? むしろご一緒していいですよね?」
「え、いいの? ありがと――って、わ、ヤバイかも」
目を輝かせて喜んでいた修次くんが、突然真顔に戻ると――さすが、やっぱりかっこいい――、帽子を深く被りなおして、突然手をつかんできた。
え、何急に!?
「誰か来たかも。とりあえず撒くね。悪いけど付き合って!」
走り出した。
別にいいんだけどさぁ……返事くらいさせてよね!
「雪積もってるから、気をつけて!」
「分かった、そっちも――ごめん、キミの名前聞いてなかった!」
あ、ホントだ、忘れてた。
思わず吹き出しそうになりながら、スピードを緩めて振り返った修次くんに向かって口を開いた。
「あたしは知衣。中田、知衣」
「知衣ちゃんか、いい名前だね。よろしくっ」
「こちらこそ!」
二人同時ににっこり笑って、雪の降る中、大きなツリーの横を駆け抜けた。




