陸
「……駄目だった」
「そう、か」
ああもう、そんな泣きそうな顔すんなって、とかいいながら頭をぐしゃぐしゃ撫でてやれば、涙目で睨まれた。
そんな顔で睨まれたって怖かねぇよ――俺にどうしろっていうんだ!?
俺の幼馴染み、梨衣夜が惚れたのは、俺達の一学年上の先輩だ。
普段はフワフワしてるのとは裏腹に、一旦アルトサックスを構えれば人が変わる。
確かにその様子は、男の俺から見たってかっこいい。
4月に惚れて以来、俺はずっとこいつを応援してきてた。
クリスマスのコンサートが終わったら告白するって決めたのは、丁度一ヶ月くらい前だったか。
「彼女、いるんだって」
「…………」
「知らなかったよ、そんなの」
俺だって知らなかったよ。
けど……それ知ってたって、お前がそんな辛そうな顔するのは一緒だろ?
今にも泣きそうだったら、わざと怒らせるようなことを言ってみた。
昔っから、こいつがへこんでた時はこうしてきたし。
「けどさ、よかったじゃんか。お前がオタクだってばれないように気をつける時間が増えなくて済んでさ」
「わたしオタクじゃない!」
あ、やっぱり、ぷうっと頬を膨らませて怒った。
悪いけど、自分よりもずっと年下の子供が怒ってるみたいに見えるぜ。
思わず頬を指でつついたら、今度は上目遣いでジトー、と睨まれた。
「好きなのだけちょっと詳しいだけだもん」
「俺から言わせりゃ全然ちょっとじゃねぇし、のりのりでキャラソン歌ったり物真似する奴は十分オタクだと思うんだけどな」
「……むぅ」
そりゃ、詳しいのは少ないけど……なんせその分深い。
メインキャラのフルネーム、誕生日は勿論、メインじゃないキャラの分や、身長なんかも覚えてたりする。
歌うのも好きだからか、クラシック以外にはアニソン、キャラソンの類をよく口ずさんでいる(そのわりに、最近流行の曲なんかは全然知らないんだけどな)。
カラオケ行ったらのりのりで歌う。しかも上手い。
ただ、ちょっと声が高いんだが、なぜか凄く似てる。
特徴を上手くつかんでいる、って奴か。
数ヶ月前にはまり始めたアニメ(と、原作の漫画)は、登場人物の大半が男なのに、その物真似も易々とやってみせる。
このあいだは、チャット仲間と歌った奴を某動画サイトに投稿してた。
「似てる!」とか「声可愛い!」のコメントが殺到してるのを見たときは、さすがにビックリしたけど。
「もういいよぅ……陸、家帰ってDVD見よ! 新しいの買ったから!」
「また買ったのかよ……てか切り替え早ぇな……」
「だって、陸が泣いてるし」
え…………?
今なんて言った? 俺が、泣いてる?
何故か俺の頬を涙が伝っていたのに気づいた途端、ほぼ無意識のうちに、思い切り梨衣夜を抱き寄せていた。
「陸?」
「悪い、なんでもないんだ」
フワリと、もうすっかり慣れたシャンプーの香りがした。
なんだかんだいって、俺は、こいつのこと、好きだったのかも、な。
けど、今の関係を壊したくは無いから、結局何も言わない。
……つもりだったんだけど。
「ねぇこれなんてフラグ? 恋愛フラグって捉えてもいい?」
「……馬鹿、帰るぞ」
こいつが天然なのかそうじゃないのかは、こんなに長い付き合いなのに、結局よく分からないままだ。
まぁ、いっか。
「ねぇ、今日もお姉さんバイト?」
「多分な、五時半くらいまでだったと思う」
「陸んちで見ようっと」
「おい」
まったく、マイペースな奴だ。
溜息をつくのと同時に、チラチラと白い雪が視界に入った。
「……雪だ!」
「ホワイトクリスマス、だな」
顔を見合わせると、にっこりと笑った梨衣夜が突然走り出す。
うわ、危なっかしい……こけるぞ!?
やっぱりこけかけたから、思わず手をつかめば、梨衣夜が驚いたように目を見開いてこっちを見る。
「お前ドジなんだから、気をつけろよ馬鹿ぁ」
「……50点かな? もうちょっとツンを出さないと」
「もういいよ……」




