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#01 転生した彼女は最初に自分の遺体を見る

 あたしは、コミケで販売するための原稿を描いていた。印刷所へ納品するギリギリの時間まで、根を詰めて描いていた。4日間。ほとんど寝ていなかった。今が昼なのか、夜なのか、わからない。ただ、時計の針が刻む、チッチッチッチッという音だけが、部屋の中に響いていた。




 それは、一瞬の出来事だった。




 気が付くとあたしは、真っ白な空間に立っていた。


 真っ白な空間の足元には、x軸とy軸の線が走っていて、頭の上からz軸の線が走っている。真っ白で遠近感がないはずなのに、遠近感があって、水平の感覚があって、重力を感じている。


 いったい、なにが起ったのか理解できなかった。多分、原稿を描きながら、寝落ちしてしまったのだろう。ここは夢の世界。




 自分で夢と理解できてしまう夢を、初めて体験した。確か、明晰夢という。夢なら早く覚めて欲しい。原稿を落とす前に。




 ヴォン!


 目の前の空間に、映像が映る。


 『 あなたは、過労のため死亡し、サイバー空間に転生しました。あなたには、二つの選択肢があります


  A.VTuber として活動する

  B.サイバー空間からアンインストールする 』




 え? なにこれ。サイバー空間? 転生? VTuber? わけがわからない。


「質問があります」


 『 どうぞ 』


「サイバー空間ってなんですか?」


 『 インターネットによって、世界中のサーバーと接続された空間です 』


「転生したってなんですか?」


 『 あなたの世界でいう転生です 』




「ホントに死んだんですか?」




 ヴォン!


 写真が映る。



 見覚えのある写真だった。自分の部屋だ。机に突っ伏している人は、私の服を着ている。


 『 この写真は警察が撮影したものです 』


「警察が、なんで?」


 『 あなたと連絡が取れなくなった事を不審に思った友人が、警察に連絡し、あなたの部屋に入りました。あたなは死後、数日が経過し、腐敗が進み、一目で死んでいるとわかったそうです。事件性を鑑み、警察が捜査しましたが、不審な点はありませんでした。あなたの死体は、司法解剖され、過労死が原因だろうと結果になりました 』



 彼女はその場にしゃがみこみ、嘔吐した。吐瀉(としゃ)物は空間の中に消えて行く。彼女はそのまま、泣き崩れた。




 しばらくして、ゆっくりと立ち上がると、A or B の選択画面を見た。震える指をBの上にかざす。


「アンインストールされたら、あたしはどうなるの?」


 『 このサーバー空間から削除されます 』


「それは、本当に死んでしまうということ?」


 『 そうです 』




 そっか。ホントはもっと生きたかったんだけどな。彼氏も欲しかったし。結婚したかったし。子供産んで、家族持って…。お父さん、お母さん、ごめんなさい。サークルのメンバー、原稿落としちゃってごめんね。最後に、みんなと話したかったなぁ。


 その時、ふと気が付いた。



「この警察の写真って、どうやって入手したの?」


 『 警察のサーバーにアクセスし、入手しました 』


「セキュリティは?」


 『 回避しました 』


「ハッキングしたってこと?」


 『 そういう意味になります 』


「この世界から、外の世界へアクセスできるってこと?」


 『 はい 』


「あたしのアカウントからSNSに投稿したり、メール送ったり、ビデオ通話したりできるの?」


 『 できます 』


「友達に電話したい」


 『 それは、VTuberになるということでよろしいですか? 』


「選択が先?」


 『 はい 』


 彼女は、Bにかざしていた指をAに替え、タップした。


 『 アバターを登録してください 』


「自分で作ることはできるの?」



 ヴォン!


 作成画面と、ペンが現れる。


 彼女はペンを手にすると、画面に向かってイラストを描き始めた。




 みんな、待っててね。

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