4―喪失
村の裏の脱出口から外に出た私達だったが、そこで待ち構えていたのは、人間の兵士の一団だった。
「こっ、コイツ等・・・。俺達を外に炙り出すために、村に火を・・・。」
後から追いついた村長の息子さんが、愕然としながら言うと、兵士を率いていた隊長が「フン!」と馬鹿にした笑いをした後でこう言った。
「滑稽だったぞ。罠にまんまと嵌っているとも気付かずに村の入口で時間稼ぎをするお前達の必死な姿は。これではお前の父親も浮かばれんなぁ。」
「てっ、テメェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!!」
怒りの形相で隊長に殴りかかろうとした村長の息子さんだったが、隊長の後ろにいた兵士によって肩を射貫かれ、あっけなく倒れた。
どうやら矢の先端に、身体を痺れさせる毒か何かが塗られているらしく、村長の息子さんや、先に洞窟を出た村の人達は身体をガタガタ震わせて、起き上がることができないみたいだった。
人間達の罠にまんまと嵌った村の人達は一気にパニック状態になり、散り散りなって逃げだした。
「いいかぁ!!なるべく生け捕りにしろぉ!抵抗されたり、魔能で反撃されたら、そいつは容赦なく殺せ!!」
隊長の命令されて、兵士達は逃げる私達をどんどん捕まえていった。
中には激しく暴れて抵抗する人もいたが、その人達は本当に、何の躊躇もなく殺された。
剣で身体を貫かれたり、首を刎ねられたり・・・。
唯一の希望だと思っていた、洞窟の脱出口は、あっという間に地獄絵図となった。
私達家族は混乱の中、洞窟の出口の横道に逸れて、森の中を転がるように逃げた。
どうにか追手を撒くと、私達は樹の根っこが剥き出しになっている森の斜面が崩れ落ちた場所に身を寄せ合って隠れた。
「おっ、お父さん・・・お母さん・・・。」
のけ者にされたとはいえ、見知った村の人達が、人間達に捕らえられたり、容赦なく殺されたりするさっきの光景が目に焼き付いた私は、今にも泣き出しそうになった。
「ミラ・・・。大丈夫。大丈夫だからね。」
「ああそうだ。お父さんとお母さんが付いてる。絶対に、お前を守ってみせるからな・・・!」
怖がる私を気遣って、お父さんとお母さんは私をギュッと抱きしめた。
そんな二人の身体もカタカタと微かに震え、本当は自分達だってとても怖いことがすごく伝わって、私はどうにか気丈に振舞おうとした。
「お父さん、お母さん!私、頑張る!だから・・・絶対みんなで助かろうね!!」
「ミラ・・・。」
「ミラ・・・。」
たくましさを見せた私に、お母さんはいじらしそうな顔をして、お父さんはみんなの期待に応えようと、真剣な眼差しを見せた。
「ああそうだ!絶対みんなで助かろう!!だから・・・」
「あっ、こんなところに三匹隠れてた。」
ハッと上を見てみると、地面の下に隠れていた私達を見つめる逆さまの顔があった。
その人物は「よいしょ!」と言って、身を寄せ合う私達にゆっくりと歩み寄った。
さっきの兵士よりも、少し立派な鎧に身を包んだ、私よりも五つ位しか年の離れていない少年の剣士だった。
「ミラ、お父さんが合図したら、お母さんと一緒に全力で逃げろ。」
向こうに聞こえないようにお父さんが私に話かけてきたが、私はそんなお父さんを全力で引き留めようとした。
「イヤだ!お父さ・・・ムグッ!?」
声を上げそうになる私の口を、お母さんは手で急いで塞いだ。
「あなた・・・。」
お母さんは、悲しい顔をして、相手に向かって身構えるお父さんの服の袖をギュッとした。
「安心しろ。相手を倒したら、すぐ追いつく。ミラのこと、頼んだぞ。」
お父さんのその言葉を信じて、お母さんは大きく頷いて、お父さんの頬っぺたにキスをした。
「よし・・・!じゃあ・・・行くぞ・・・!」
お父さんは自分の指を牙で噛んで傷をつけた。
「地級第三位魔術能式・血操師!剣錬成!!」
そして傷から流れ出た血で剣を作ると、荷物を投げつけ、相手に向かって斬りかかった。
その直後、私はお母さんに手を引かれて、崩れた地面の影から森の奥に向かって逃げ出した。
お父さんはきっと大丈夫!!
だって、“絶対にみんなで助かる”って約束したんだから!!
だけど振り返って見た光景に、私は絶望した。
そこには、少年の剣士に首を斬り落とされ、地面に倒れているお父さんの変わり果てた姿だった。
「あっ、あなたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
同じく振り返ったお母さんが悲痛な叫び声を上げると、少年の剣士は目にも留まらぬ速さで、お母さんの胸を貫いた。
私は咄嗟にお母さんに突き飛ばされて、尻餅を付いてその場から動くことができなかった。
「みっ、ミラ・・・。にっ、逃げ・・・。」
振り返って私に手を伸ばすお母さんだったが、剣が胸から一気に引き抜かれると、地面に倒れて、ピクリとも動かなかった。
「お父さん・・・?お母さん・・・?」
自分の家族が、自分と歳があまり離れていない男の子によって、呆気なく殺された事実を、私は受け入れることができなかった。
「生け捕りにって言われたのについ殺しちゃったよ。まっ、最初からこのちっこいのしかいなかったってすればいっか!」
お父さんとお母さんを殺した後だというのに、あっけらかんと笑う男の子が、私は怖くて怖くてたまらなかった。
「あっ・・・ああっ・・・あっ・・・。」
「見たところ君はこのオスとメスの子どもだね。偉かったよね~。君を守ろうとあんなに必死になって。でもね、いいこと教えてあげよっか?この世はね、結局は“力が全て”なんだよ。君の親より、僕の方が力が上だった。だから君の親は、僕に負けた・・・。それだけのことなんだよ?君も可哀相だよね~!僕より弱いのを親に持っちゃってさぁ~。」
彼の、お父さんとお母さんを心から馬鹿にした言葉を最後に、私の意識は首の横に感じたドン!という痛みとともに、私の意識はブツっと途切れたのだった。
◇◇◇
気が付くと、私は馬に引かれた檻の中に、首輪を手枷に繋がれていた。
辺りを見渡すと、同じ村の人達が、絶望と恐怖に染まった目をしながら、項垂れていた。
私も彼等と同じように、ボーっとしたような顔をしながら、ガタゴトと揺れる馬車の床をただ見つめていた。
お父さんとお母さんの笑顔を、頭に思い浮かべながら・・・。
こうして私は、ふるさとと大切な両親を、あっという間に奪われてしまったのだった。