1―変わり髪
~アルスワルド新世歴2896年・ミラ・7歳~
「はぁ~全部読んじゃったなぁ・・・。」
深いため息を吐いて、私はお母さんからプレゼントされた本をパタンと閉じた。
内容は、吸血鬼のとある冒険者が、パーティを集めて、世界を周る冒険譚だ。
自分が獲得した魔能を使って、幻想大厄災を生き残った魔物を退治したり、飢えに苦しんでる村を救ったりするその内容はとっても面白くて、時間も忘れて見入ってしまい、帰るのが遅くなって、よくお母さんに怒られる・・・そんな毎日だった。
怒られる度に私は「お母さんが私にあげた本のせいなのに・・・。」って心の中でむくれていた。
その日々も、この本を読み終えたことで、終わりが来る・・・。
せっかく一人の時間が楽しくなってきたのに、明日から何を楽しみにしなきゃダメなんだろう・・・。
憂鬱な気分でもう一回ため息を吐くと、私は自分達が住んでる洞窟の村が一望できる場所から離れた。
お母さんに聞いた話だと、私達吸血鬼は、昼と夜の価値観が他の種族とは全くの逆だけど、昔は外で普通に暮らしてたらしい。
だけど人間達が、私達の血を目当てに戦争を始め、結果私達の国は滅亡し、私達は散り散りになって、みんな薄暗い洞窟に、人間達から身を隠すために暮らすようになってしまった・・・らしい。
まだほんの小さな子供である私には、種族同士のいざこざなんてあまり関心がなかった。
それよりも、今の私には、重大な問題がある。
「おい見ろよ!“変わり髪のミラ”だぜ!」
「あっ!ホントだ!」
みんなに見られたくないから村の裏路地を通ったのに、運悪くそこで遊んでる他の子ども達に見つかってしまった。
本当に・・・ツイてない・・・。
「あっちで遊ぼうよ~!」
「そうだな!アイツと一緒にいるのを見られると、俺達まで気味悪がられちまうもんな!!」
子ども達はそう言って、裏路地から走って離れていった。
みんなから避けられるのは、もう慣れっこのつもりだったけど、やっぱり、心がズキンとする。
“変わり髪のミラ”
それは、村のみんなが私につけたあだ名だ。
その由来は、私のこの、プラチナブロンドの髪である。
他の吸血鬼が持っていない、この銀色に輝く髪色が、逆にみんなと違うことで、私は物心つく頃から村のみんなから避けられていた。
「気味が悪い髪。」
「どうしてあんな髪で生まれてきたんだろうね。」
「性格も暗いし、まさか不吉を招くんじゃないの?」
そんな陰口を大人たちから叩かれ、私と遊んでくれる子どもは誰もいなくて、もちろん、友達も一人もいなかった。
なんで?
なんでみんなと違うだけで悪口をたくさん言われ、避けられなければいけないの?
私は・・・自分の髪の色が大嫌いだった。
もっと普通の髪の色で生まれたかった・・・。
吸血鬼は、ある一定の年齢になったら成長が止まって、年を取らない。
これは、吸血鬼の祖先である森精人から受け継いだ性質だ。
もしかしたら私、このまま一生、一人ぼっちかも・・・。
そんな恐ろしい考えが頭をよぎった瞬間、目から涙が流れた。
いけないいけない。
もうすぐ家に着くんだから、お父さんとお母さんを心配させたらダメだ。
そう思って私は、服の襟で涙をゴシっと拭いた。
私の住む家は、村の外れの、洞窟の奥の方にあった。
きっと私のことを心配して、私が赤ん坊のころに元々住んでいた場所から引っ越したんだと思う。
私のせいで、お父さんとお母さんにまで迷惑をかけてしまうなんて、私はつくづく、自分の髪の色が嫌いになる。
だけど、私をこんな髪色で産んだお父さんとお母さんのことは、嫌いにはなれなかった。
だって・・・。
「あっ、おかえりミラ。」
「ただいま、お父さん。」
「おかえりなさいミラ。今日のご飯は、ミラの大好きなトマトスープパスタよ。」
「本当!?やったー!!」
だって私のお父さんとお母さんは、こんなにも私に優しくしてくれるんだから。