10―友達
私と同じ飼育部屋に入れられた吸血鬼の女の子、981番ことヴィアレちゃん。
彼女はありとあらゆる傷を完璧に治すことができる地級第一位魔能・全回復の持ち主だった。
「すごいねヴィアレちゃん。そんな高度な魔能を持ってるなんて・・・。」
「元々私の住んでた村がさ、この魔能を生まれつき持ってる白金蜴魚種っていう水生の小型の魔物の棲み処の近くでさ。漁で獲ってきた分の血を夕食後に飲むのが風習だったんだ。おかげでみんな、この魔能を手に入れることができたってワケ。」
「そう、なんだ・・・。」
元々住んでいた村・・・。
じゃあやっぱりこの子も、私みたいに・・・。
ヴィアレちゃんにとって辛い過去を思い出せたくない私は、それ以上のことを聞くのを止めた。
互いの気持ちを考えてか、私達はしばらくの間、お互い沈黙した。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「実は私ね・・・ミラちゃんと一緒になれて良かったって思ってる。」
「え?」
再び話し出した途端に、私に対する感謝の言葉を口にされ、私はとても驚いた。
「私、ここに連れて来られてから、不安で不安で仕方なかったの・・・。人間に捕まった吸血鬼がどんな目に遭わされるか、親や村の人達から口酸っぱく聞かされたから。“家畜同然の扱いを受けて、生きたまま血を抜かれる。そして、一度捕まってしまったら二度と逃げ出すことはできない。”私、絶対そんな目になんか遭いたくないって思ってた。だけど結局、住んでた村は人間達に見つかって、みんな捕まっちゃって、私一人がここに連れて来られた。“これからどうなっちゃうんだろう。”って思うと、考えが追い付かなくなっちゃって、何も言うことが思いつかなくなっちゃって・・・。そのお陰で、周りの人間からは“大人しくて、聞き分けがいい奴”って思われたんだけどさ。」
そうか・・・。
だからヴィアレちゃん、あんなに大人しくしてたんだ・・・。
「でもね、ミラちゃんが・・・。私よりもずっとここに長くいて、たくさんひどい目に遭ってきたはずのミラちゃんが、精一杯私を励ましてくれた時、私・・・すごく嬉しかった。だからね、私決めた。」
「決めたって何を?」
ヴィアレちゃんは私の顔をジッと見つめて、真剣な眼差しでこう言った。
「私のこの魔能、ミラちゃんのために使う!ミラちゃんがどんなにひどいケガをしたって私が絶対に治してあげる!」
面と向かってそんなことを言われた私は、思わず申し訳なくなって、そっぽを向いた。
「わっ、私なんかのために、ヴィアレちゃんが無理することなんかないよ・・・!」
「どうして?」
「だって私・・・根暗だし、髪の毛も・・・すごく、変な色だし・・・。」
「何言ってんの!?ミラちゃんはとっても優しいし、それに髪の色だってすごくキレイだよ!!」
「私の・・・髪が・・・キレイ?」
「うん!銀色で、すごくキラキラしてて、なんだか宝石みたい!!私、ミラちゃんのその髪色、大好きだよ!!」
『変わり髪』だと散々言われ続けた自分の頭を、生まれて初めて飾り気なしの言葉で褒められて、私はなんだかむずかゆかった。
だけど、すごく嬉しかった。
「あっ、ありがと・・・。」
私がお礼を言うと、ヴィアレちゃんは私の身体をそっと優しく包み込んだ。
「これからも、色んなことがあると思うけど、私が力になるから頑張って乗り越えていこっ。」
私はヴィアレちゃんの身体を抱きしめ返して、「うん・・・。」と小さな声で返事をした。
ヴィアレちゃん。
あなたにばかり、絶対無理はさせないよ。
私も必ず、あなたの力になってみせる。
だってあなたは・・・私に初めてできた友達なんだから。