9―治癒
翌朝、結局気まずさから一睡もできなくて、すごく寝不足気味になってしまったけど、今日の私はどうにか担当兵士が呼びに来る時間に眠りこけることはなかった。
「あっ!おっ、起きて!」
担当兵士がドアの前に立っているのが見えた私は、すやすやと眠っている981番さんを急いで起こした。
「おっ!2匹揃ってちゃ~んと起きてるじゃないの~。飼育係として、俺は鼻が高いよ。」
相変わらず小馬鹿にしたような笑みを浮かべながら、担当兵士は私達の腕の鎖を部屋の壁から取り外して、外の廊下へと連れ出した。
「865番にとってはいつものことだが、981番にとっては始めての収穫だ。だからといって、あんまりギャーギャー騒いだりすんじゃねぇぞ?分かったな?」
顔を掴んで諭すように言う担当兵士に対し、981番さんは昨夜と同じようにただ何も言わずコクっと頷いた。
「うしっ!そんじゃま、ボチボチ行くとしますかぁ~!」
担当兵士は、私達の鎖を引いて採血が行われる部屋に連れて行った。
廊下を歩いている時に、981番さんの身体がカタカタと震えていることに気付いた私は、担当兵士に気付かれないように耳元でそっと囁いた。
「だっ、大丈夫だよ・・・。私も一緒に我慢するから・・・。」
それを聞いた981番さんは私と同じように耳元でそっと「ありがとう・・・。」と呟いた。
初めて聞いた981番さんの声は、か細いながらもとっても優しくて、私は心の中が少しポカポカとした。
収容所に来て、初めて他の吸血鬼と、話しをした・・・。
やがて収穫室に到着して、中に入った私は服を脱がされ、隣のイスに座ることになった981番さんも査官の人に言われるがまま、大人しく服を脱いでイスに座った。
全身に管が突き刺さり、血を抜かれる私の隣で、981番さんの「ギッ・・・!?くぅ・・・!?」と必死に我慢する悲痛な声が聞こえて私は心の中で神様に願った。
お願いです!!どうか早く終わりますようにッッッ!!!
こんなにも必死に祈ったのは、おそらく私の最初の収穫の時以来かもしれない。
そんな私の願いが通じたのか、気が付くと私と981番さんの収穫は終わりを迎えた。
「981番なら、上質な回復ポーションが作れますね。」
「そうだな。早速上で解析してみるとしよう。」
981番さんの傍でそんなやりとりが聞こえてきたが、彼女の身を心配する私にとってはどうでもいいことだった。
やがて服を着させられ、収穫室を後にした私達は、担当兵士によって飼育部屋に戻された。
「初めての収穫にしてはよぉ~く我慢できたな。お前は中々に有望だよ、981番ちゃん。」
私達を部屋の壁に繋いだ後、担当兵士はヘラヘラと笑いながら981番さんの頭を撫でた。
「そんじゃ俺は行くから。あとは家畜同士、仲良くしてるんだな。へへっ!」
担当兵士が悠々と飼育部屋を後にすると、私は981番さんの傍に寄ろうとした。
「きゅ、981番さ・・・。」
「大丈夫!?」
「え・・・?」
ところが、981番さんの方から先に、慌てた様子で私に寄り添ってきた。
「今すぐ治してあげるから待ってて!」
「なっ、何を言って・・・ッッッ!!!」
その時、981番さんの身体を見た私は、大きな違和感を覚えた。
注射針の後が・・・付いてない・・・?
「全回復!!」
981番さんが私に向かって手をかざすと、身体についていた傷が痛みとともに完全に消え去ってしまった。
「どっ、どうなって・・・!?」
「私が持っている地級第一位の魔能だよ。あらゆる傷を立ちどころに治してくれるの。」
どうやら981番さんは、部屋を出た直後にその魔能で自分の傷を治し、そして今度は私の傷も治してくれたみたいだった。
「あっ、ありがとう。981番さ・・・え、と・・・」
「私、ヴィアレ。あなたは?」
「ミラ・・・。」
「よろしくね、ミラちゃん。」
これが私とヴィアレちゃんとの出会いだった。