プロローグ―救世主
父は私に言った。
“人と違う何かを持った人は、他の誰も持っていない素晴らしい才能がある。そしてその力は、自分以外の誰かを助ける時に最も発揮される。”と・・・。
私は・・・自分の髪の色が大嫌いだった。
プラチナブロンドで光輝き、他のみんなよりも目立つその髪色が。
他の者より目立つ者が気味気味悪がられ、疎まれてしまうのは、やはり世の常というのか、子どもの頃の私は、子どもからも大人からも、こう呼ばれていた。
“変わり髪のミラ”と。
同年代の子どもは私をそう呼び、「あの子の髪の色は気味が悪い。だから一緒に遊びたくもないし、近づいてほしくもない。」
そして大人たちも、「あの子とは一緒に遊んじゃダメ。周りと違って、きっと不幸のタネになるから。」と、私を避ける子ども達のことを後押しした。
私は、自分への自信を完全に無くして、引っ込み事案になってしまった。
みんなと孤立して、完全に塞ぎ込みがちになった私を励ますために、父は先程の言葉を私に言った。
正直、私は父の言葉をあまり信じることができなかった。
だって私は、髪の色が他のみんなと違うだけで、それ以外は何の取り柄もない、ただの吸血鬼の女の子。
特別な力なんて持ってるはずがない・・・。
そんな私が、吸血鬼を救う救世主として崇められ、“変わっている”と言われて、自分でも大嫌いだったプラチナブロンドの髪を見ると、誰もが希望を持ち、奮い立つことができるだなんて、当時の私は全く想像だにしていなかった。
だけど先程も行ったように、当時の私は、ただの吸血鬼の女の子。
吸血鬼のみんなを救うための力なんて、初めから持っていたワケではない。
ある日唐突に、人間の手によって無慈悲に家族を失い、捕らえられ、家畜同然となり、檻の中で得た微かな生きる希望も残酷に奪われ、“この世界は、力が全てだ。だから私は、憎い人間を皆殺しにするための力を、どんなことをしても手に入れる。”と誓い修羅に堕ち、数多くの種族を殺してその血を吸い、力を奪ってきた。
自らの特異体質に気付いたのは、それからだった。
“私が奪う力には、量も質も、際限がない。”
父が言ったように、私には、他の誰もが持っていない才能を確かに持っていたのだ。
だが私は、その才能を誰かのためにではなく、自分のために使おうとした。
だけど後になって気付いた
私は・・・もう二度と大切な誰かを失うことが怖かっただけだと。
その怖さに気付いて・・・いや、新しい居場所でできた大切な人が気付かせてくれたから、私は今度こそ、この力を、自分だけではなく、救いを必要とする者達のために使おうと心に決めた。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
これは、ただの吸血鬼の少女だった私が、大切な人達を失い、憎しみに駆られて自分を失い、新しい大切な人によって再起し、吸血鬼の救世主となって戦い、その結果・・・命を落とすまでの話である。