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買い物

夜が明けまた次の日が訪れる。


「おーい、じゃあ兄ちゃん学校に行ってくるぞ」


「………いってらっしゃい」


やはり、昨日のことがあったからか優の顔は悲しげな表情をしている。


真司は優を心配しながらも学校へと向かっていった。


退屈な授業を終え、昼休になると他の生徒達の話し声が真司の耳に入ってくる。


「お、それ最新の携帯ゲーム機じゃん」


「あ、うん。昨日、誕生日に親から貰ったんだけど、欲しかった色と違うやつでさ、なんか気乗りしないんだよね」


悪びれることもなくゲーム機を貰った子供は親への不満を口にする。


「うちの親ももう少し気を効かせてくれたらいいんだけどな~」


「あ、分かる。もうちょっと子供の気持ちを考えてもらいたいよね」


会話の途中で授業の開始を告げるチャイムが鳴り、生徒達はそれぞれの席に戻っていった。


夕焼けに染まり始めたいつもの道を真司は一人家へと歩いていく。


アパートの扉の鍵を開け部屋の中に入ると、居間に優が座っている。


「おかえり、お兄ちゃん」


「ただいま」


今朝の優は少し元気が無かったのが心配だったが、いつもと変わらない感じで優が真司に話しかけてきた。


「ねえ、お兄ちゃん。こんど、ぼくのおたんじょうびなのおぼえてる?」


「あぁ、もちろん憶えてるよ」


そう、来週の11月15日は優の誕生日であった。


「え〜とさ、こんどのおたんじょうびにカレーライスが、たべたいっていったらお父さん作ってくれるかな?」


この間の事があり、優は自分の誕生日にカレーライスが食べたいと言う。


「そうか、そうだな。じゃあ、兄ちゃんが父さんに聞いといてやるよ」


「ほんと!わーい、やったー」


父である孝宏とは二人共ほとんど会うことがない。


孝宏は普段他の女性の家に上がり込んでいたためにこの家にはあまり寄り付かなかった。


たまに帰ってきても二人が寝静まった深夜で、ぐっすりと寝てしまっている優は孝宏が帰ってきたことに気づくことがない。


兄である真司ですら、孝宏と顔を合わせるのはしごく稀なことであった。


「じゃあ、父さんにはちゃんと言っとくから夜ご飯にしよう」


「はーい」


満面の笑みを見せる優に、いつものもやし炒めと納豆をだして質素な夕食をすませ、その日の夜、真司は父である孝宏の帰りを寝ずに待っていた。


時計の針は深夜2時を回るころ、玄関のドアを開け孝宏が部屋に入ってくる。


「あん、なんだ真司まだ起きてたのか」


「あ、父さんおかえり。今日はちょっと頼みたいことがあって」


「あん、頼み?」


孝宏の対応は久しぶりに合ったとは思えない粗暴で乱雑な態度であったが、真司は弟の優のため父の孝宏に話す。


「父さん来週、優の誕生日なんだけど、その日カレーを作ってもらえないかな?」


「は、カレー?」


「うん。優が誕生日にカレーを食べたいと言っていて、できたら父さんに作ってもらえないかなと思ったんだけど」


真司の話を聞いた孝宏は顔を歪ませこう言い放つ。


「面倒くさい、なんでそんなことしなきゃならねんだよ」


普段、父である孝宏に口答えなどしない真司が珍しく噛み付いた。


「父さん、今回は優のお願いを聞いてあげてよ。あいつ友達にカレーを食べたことがないって、バカにされて泣いてたんだよ」


話を聞いた孝宏は苦い顔をしながらポケットに手を入れ、持っていた小銭を真司に手渡した。


「ほら、これでカレーの材料でも買ってこい。ただ俺は作らないから、真司お前が作れ」


こんな残存な扱いではあったが真司は孝宏に礼を述べる。


「父さん、ありがとう!本当にありがとう」


小銭を数えてみると537 円あった。


この金額でカレーの材料がそろうかは微妙な金額だが、普段買い物をしたことがない真司にはそれが分からなかった。


孝宏がすんなりと金を渡したのには理由がある。


普段言い返すことをしない真司が言い返してきたことに面倒くささを感じ話が長くなることを嫌がった為と、それともう一つ。


最近知り合った女子大生と親密な関係になっており孝宏の機嫌が良かったからだ。


「お、メールが入ってる」


携帯電話にその女子大生からのメールが届いていたのだと知ると、孝宏はまた出かけてくると言い残し部屋を出ていった。


真司が時計の針を見ると深夜の3時を越えている。


(最初はどうなるかと思ったけど、よかったー。これで優にカレーを食べさせてやれる)


真司の心の中には優の喜ぶ姿が浮かび、自分の事の

ように喜びを噛み締めながら、優を起こさないようにそっとふすまを開け、優の隣に敷いてあった布団に入ると眠りについた。


それから数日が経ち優の誕生日、前日となる。


その日は開校記念日ということで平日ではあったが学校は休みになっていた。


優がカレーライスを食べたいと言ったあの日からそのことについては何も言わず今日にいたる。


「おい、優」


満面の笑みを浮かべ真司は優に声をかけた。


「なに?お兄ちゃん」


「明日は優の誕生日だろ。この間父さんに話して、お前の誕生日の夕食はカレーライスにする事になった!」


「ほんとに?ほんとに、ほんと?」


「あぁ、本当に本当だ!」


「やったー!」


カレーライスが食べれると知って優は心の底から喜んでいる。


そんな優の姿を見て真司も本当に良かったと笑顔を見せた。


「じゃあ、兄ちゃんはこれからカレーの材料を買ってくるから、優はどうする一緒に行くか?」


「うぅん。ぼくは、ゆいとくん達と遊んでくる!」


そう言うと、優は笑顔で部屋を出ていった。


(よし、じゃあ俺はカレーの材料を買いに行くか)


真司はカレーの材料を買いに近所のスーパーを目指す。


ただその前に一つよる場所があった。


(でも、カレーなんて作ったことがないから、作り方がわからないな。図書館に行って本を見ておこう)


カレーなど作ったことがない真司は作り方を調べる為、図書館へと向かう。


世間一般なら、ネットなどですぐに調べられるのだが携帯電話はおろか、インターネットを見るためのパソコンなど、真司の回りには何一つ無かった。


図書館に着くとカレーの作り方が乗っている本を探す。


色々なカレーの作り方の本があったが自分でも作れそうなシンプルな作り方が乗っていた本を真司は見つけ出し、本を読み始めた。


そして、本に書いてあったレシピを持ってきたノートに書き写し図書館を後にする。


そのまま真司は近所のスーパーに向かいカレーの材料を買うことにしたのだが。


「え、じゃが芋ってこんなにするの?」


カレーの材料である、じゃが芋、人参、玉ねぎ、豚肉、カレールー、すべてを買おうとすると、孝宏から貰った500円を超えてしまう。


(どうしよう。お金が足りないや)


一瞬、困惑した真司だったが、優にカレーを食べさせてあげたいという一心で諦めることはしなかった。


(そうだ、他のお店なら少し安いかも)


渡された金額で材料がそろうように、持ってきていたノートに材料の金額を書き込み、複数の店を回ると、その中で一番安い品物を売っている店を再び訪れ食材を手に入れた。


気がつけば8軒の店を回り、なんとか手持ちの金額でカレーの材料を買うことができた。


(なんとか、揃ったぞ)


疲れていたが優の喜ぶ顔が目に浮かぶと、真司は明日がとても楽しみに思えた。


疲れをまとい家に帰ると、優が部屋の布団で、すやすやと眠っている。


(あれ、優、もう寝ちゃってるのか?)


気が付けば夜の八時を過ぎていた。


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