流れ星を見るのは今日だけ
暗くなったお空を見ながら、ベランダで椅子に座り、ママとブランケットにくるまる女の子がいます。
その女の子は小学一年生の、名前はミオちゃんです。
「ママ、今日はゼッタイに見つけるからね」
ミオちゃんはママに約束するように言います。
「そうだね。今日は遅くまで起きていてもいいからね」
「うん。今日は、おおみそかだよ」
ミオちゃんは嬉しそうに笑いました。
夜更かしができるから嬉しいのでしょうか?
「ミオは毎年、寝ちゃって、流れ星を見られないんだもんね」
「ママも寝ちゃって、見てないでしょう?」
「そうだね。ママもミオと一緒だね」
「ママ、今日は二人でゼッタイに見るよ!」
「そうね」
ママはミオちゃんの勢いに驚いています。
ミオちゃんは夜更かしよりも、流れ星を見ることを楽しみにしているようです。
今日は大晦日です。
大人と同じで、子供も遅くまで起きて、日付けが変わるのを祝います。
しかしミオちゃんは途中で眠くなり、いつも日付けが変わる前に寝てしまいます。
でも今年のミオちゃんは去年とは違うようです。
「ミオ、今年は本当に流れ星が見たいのね?」
「うん。だって、お友達のシンくんが言ってたの」
「お隣に住んでるシンくんが?」
「そうだよ。流れ星はネガイをかなえてくれるんだってよ」
「そうね。それでミオのお願い事は何?」
「秘密だよ。誰にも聞かれないように、心の中で言わなきゃダメなんだからね」
「ミオのお願い事が気になるけど、ミオなら素敵なことをお願いしそうね」
ママはミオちゃんのお願い事を色々と想像して、ニコニコ笑顔になっています。
「ママのお膝にすわってもいい?」
「どうしたの? 寒いの?」
「ママのお膝の方がお空がよく見えそうだからだよ」
「そうね。ミオ、おいで」
そしてミオちゃんはママの膝に座ります。
空を見上げるママを下から見ながら、ミオちゃんは嬉しそうにしています。
ママの膝の上は暖かいようです。
その証拠にミオちゃんは眠そうに目を擦っています。
「ミオ、眠いの?」
「眠く、、ないよ。今日は流れ星を見るんだ、、もん」
「でも流れ星はいつでも見られる訳じゃないのよ?」
「でもミオには今日だけだもん」
ミオちゃんは眠気を我慢して、背筋をピンと立てます。
ミオちゃんは今日しかチャンスがないことに、少し不満があるようです。
「そうね。ミオには今日だけだもんね。でもミオ、そんなに眠そうにしていて流れ星は嬉しいのかな?」
「流れ星はミオを見てるの?」
「見てるよ。お願い事をするみんなの顔を見ながら叶えてくれるんだよ?」
「眠そうなミオの顔だと、ネガイを叶えてくれないの?」
「流れ星はやっぱり、可愛い笑顔の子のお願いを叶えてあげたいわよ。たくさんいるこの世界で、笑っている子の顔は光って見えるのよ?」
「それならミオ、笑うもん」
「ミオが心から嬉しくて笑わなきゃダメよ。ミオはもう、眠そうよ」
「ママの意地悪」
ミオちゃんは流れ星が願い事を叶えてくれないことを、ママのせいにします。
「今年はママがミオの代わりにお願い事をするわ」
「ママは眠くないの?」
「ママはミオの為なら眠くないわ」
「でも、今日もママはお仕事で疲れたでしょう?」
「そんなのミオの笑顔を見たら、疲れなんてなくなっちゃうのよ」
「ミオもママの笑顔を見たら、元気になるよ」
ミオちゃんはそう言って笑います。
その笑顔を見て、ママはミオちゃんを抱き締めました。
「ママはポカポカ温かくて、ギュッてされると眠くなっちゃうよ」
「眠ってもいいよ。ママがミオの代わりに、流れ星にお願いをするからね」
「でもママはミオのネガイを知らないでしょう?」
「ミオとママはミオがお腹の中にいる時から繋がっているのよ? 分からない訳ないわよ」
「本当? 何か眠くなってきちゃったぁ」
「うん。おやすみミオ」
「おやすみな、、さい、、ママ」
ミオちゃんはママの腕の中で眠ってしまいました。
そんなミオちゃんをママはもう一度、ギュッと抱き締めます。
そしてママが空を見上げると一つ流れ星が流れ、一瞬で消えました。
その流れ星に向かってママはニコニコと笑っていました。
「ミオが来年も笑顔で過ごせますように」
ママのお願いはミオちゃんには聞こえないけれど、流れ星には聞こえたかもしれません。
だってミオちゃんの寝顔は、可愛く微笑んでいたからです。
◇
「ねぇ、ママ。流れ星は見えたの?」
「ミオ、おはようが先でしょう?」
「あっ、ママ、おはよう。それで? 流れ星は?」
「おはようミオ。流れ星にお願いをしたよ」
「本当?」
「ママがミオの分までお願いしたから、絶対に叶うわよ」
「うん。もう、叶ったよ」
「えっ」
「ママが笑顔だもん」
ミオちゃんの言葉を聞いて、ママはミオちゃんをギュッと抱き締めます。
ミオちゃんのお願い事はママの笑顔を見ることなのです。
「ミオ、大好きよ」
ママはミオちゃんのお願い事が嬉しくて、ありがとうの代わりに好きだと伝えます。
ママがミオちゃんの為に頑張っているのを、ミオちゃんは分かっています。
「ママ、今日もお仕事でしょう? 急がなきゃ」
「そうね。ごめんね、今日もお仕事で」
「いいんだよ。ママがお休みの日に、いっぱい甘えるからね」
「そうね。ミオは甘えん坊さんになるものね」
「ママも甘えていいんだよ?」
「じゃあ、ミオにお休みの日は、肩叩きしてもらおうかな?」
「いいよ」
ミオちゃんは嬉しそうに笑って言いました。
ミオちゃんが少しお姉さんになったようで、ママも嬉しそうに笑っています。
「ミオ、いってきます」
「ママ、いってらっしゃい」
ママは仕事へ向かいます。
ママはその途中、青空を見上げます。
「ミオ、今年も二人で楽しく過ごそうね」
ママは帰ってミオちゃんに言いたい言葉を、青空に向けて練習するように一度、小さな声で言いました。
読んでいただき、誠にありがとうございます。
大晦日と元日がお仕事の皆様も、お休みの皆様も、ほっこりしていただけましたら幸いです。
皆様、今年一年、お疲れ様でした。