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極悪辺境伯の華麗なるメイド  作者: かしわしろ
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アナスタシア・ローズ8

「入学式が終わりましたので、教室に移動します。」

確かに前の席に座っている一般学生がぞろぞろと移動し始めている。私の周囲にいるアリストクラットの方々も後ろに控えている付き人の指示によって移動し始めていた。


ざっと数えてみたところアリストクラットは私含めて八人のようだ。八人とも二人の付き人がついているようで、見るからに片方が騎士っぽい恰好をしている。私のように片方はメイド、片方は給仕の格好をしている付き人は珍しい。


「アナスタシア様は1-Aクラスのようですね。」

1-Aから1-Dの四クラスがあり、一クラスあたり三十人のようだ。長い廊下を歩きながらアナさんに話を聞いていく。


「担任の先生の話を聞いたのち、さっそくテストがあります。」

そうして扉の前までたどり着く。一般の学生はすでに教室に入っているようだ。何だか待たせてしまって申し訳ない気持ちになってくる。もっと早く移動すればよかっただろうか。


「私が、お開け致します。」

そういえばそうだった。貴族は自分で扉を開けることは少ない。メイドとして生来ていたのでそんなことも忘れてしまっていた。


教室の中に入った瞬間に、クラスメイトの視線が一斉に私の方に向いた。何か話した方がいいのかとも思ったが、特に話すこともないのでそのまま無言でアナさんが案内する椅子に座る。一番後ろにある、一般学生に比べると立派な椅子と机だった。その隣には同じものがもうひとつだけある。


「各クラス、アリストクラットは二名です。」

小声でアナさんが言う。その時に再び私が入ってきた扉が開いた。

「ごきげんよう。」

その方は周囲の一般学生には目もくれず、目の前にいる私にそう挨拶をした。

「ごきげんよう。」

私と同じくらいの年齢、女性、そして貴族。そんなことくらいしか情報がないが、少し周囲に威圧感を与えるような印象を受けた。


「みなさんそろいましたね。」

彼女が座った時に教室の前にいた方がそういった。


「私はこのクラスを担当するエレーナといいます。」

やはり担任の先生だったようだ。


「早速ですが、各々自己紹介をしていただきます。」

そういうとクラスの前から順に名前を発表していった。今後何が起こるかわからないので、すべての名前を憶えていくことにする。グルンレイドでの記憶訓練がこんなところで役に立つとは。そうして私の番になる。


「アナスタシア・アスターといいますわ。よろしくお願いいたします。」

そういって私は頭を下げる。拍手は……なかった。顔を上げてみると皆、驚いたような表情をしていた。そして少し遅れて拍手がされる。


「わ、私何か変なことを言ってしまったのでしょうか。」

「いえ、みなアナスタシア様に見とれていたのです。」

ソフィアさんがそういう。そんな馬鹿な。私にみとれる要素なんてどこにもないだろう……。隣の席からはにらむような視線があった。


「エリザベス・マーティンですわ。アナスタシアさん、本日のテスト私が勝ちますわよ。」

「え、えぇ。」

唐突に名前を呼ばれて驚く。どこかでお会いしたことが……ありませんわね。しかし私はこの名前を知っている。マーティン家、王都で絶大な影響力を誇るヴィート家についで力を持っている三大貴族の一つだ。

「そ、それではみなさんの発表が終わったようですのでさっそくテストに移ります。校庭へ。」


--


「まずは的当てを行ってもらいます。」

数メートル先にある的をどのような魔法を使用してもいいので破壊するということが目的のようだ。次々に魔法が唱えられて的に当たったり、当たらなかったりしている。……みんな本気を出していないのだろうか。少し的を削っただけで拍手が起こっていた。


「ア、アナスタシア様、もしかしたらと思うのですが……。」

「ソフィアさん、それは早計ですわ。きっと次に控えている対人テストを有利にするために実力を隠しているはず。」

「そ、そうでしたか。」

そうでなければおかしい。こんな、こんなにも、王都の魔法力は拙いものなのだろうか。なんて考えていると『おぉー』という歓声が上がった。そちらの方を見ると的が破壊されていた。


「こんなものですわ。」

エリザベスさんが得意げにこちらを見ていた。確かに的は破壊されていたが、まだ原型があるようだった。あの程度の材質なら形も残らないくらいに破壊できるはずだが……ま、まさか、私が認知できないような防御魔法が展開されている⁉それなら納得がいく。


「高度な防御魔法……。」

「ソフィアさんもそう考えますのね。」

危なかった。もし周囲に合わせて弱い魔法を使用していたら、的に傷一つつけることができずに笑いものになるところだった。


そう、今は名前が違えど、私はグルンレイドのメイド。ローズの名を授かった、誇り高きメイドだ。どんな時も、全力で行うべきだったのだ。


「ソフィアさん、魔法障壁を。」

「かしこまりました。」

その礼が、私に力をくれる。


呼吸を整える。魔力を集中させる。呼吸の仕方はヴァイオレットさんに教えてもらった。魔力の練り方はメアリーさんに教えてもらった。私の形成するすべての力は、多くの人に与えられたものだ。それを隠すなんてとんでもない。


「バニッシュルーム」

ソフィアさんが周囲の方々の周りに魔力拡散結界を張る。そして私の周りには魔法障壁を張っていた。ソフィアさんの結界なら安心して全力を出せる。

私の展開している魔法陣が黒く染まる。まだ、まだだ。


「わ、私……」

そういって一人の学生が倒れてしまう。


「も、申し訳ありません!」

ソフィアさんがそう叫ぶ。だけど私にはそれを心配する余裕はなかった。


「ファイアーアロー・絶唱。」

獄炎に近い炎が飛んでいく。熱で地面から発火していくが、魔法障壁によってせき止められる。そして的に当たった瞬間、いや、当たる前に熱で蒸発してしまった。あの的には防御魔法が付与されていない⁉そのまま向こう側の魔法障壁に衝突する。


「スペースカット!」

その瞬間ソフィアさんが空間を断絶する。盛大な爆発音が響き渡るが、空間が断絶されていることにより物理的な被害は全くなかった。徐々にエネルギーは消失していき、ついには消えた。


「ありがとうございます。ソフィアさん。」

「問題ありません。」

振り向くと、クラスメイトのすべてが口を半開きにしてこちらを見ていた。


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