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極悪辺境伯の華麗なるメイド  作者: かしわしろ
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メルテ・ローズ1

俺の名はアドルフ・フォン・ヴィート。大貴族であるヴィート家の息子として生を受けた。剣術や魔法の稽古、礼儀作法などを覚えることは大変だが、だからといって平民がうらやましいとは思わない。どこに行ってもそれなりのもてなしをしてくれる。充実した毎日だ。


 今日は父が買った奴隷がやってくる日だ。俺の専属メイドとなるらしい。奴隷がメイドなんて聞いたことがない。普通は平民がつく役職だ。奴隷には単純な作業をさせていればいいんだ。曲がりなりにも大貴族の息子だぞ。俺は奴隷のメイドなんて絶対に認めない。


「お初にお目にかかります。メルテ・ローズと申します。」


そこには美しいメイドの姿が見えた。……これは本当に奴隷なのか?どう見てもメイドの格好をした貴族の令嬢ではないか。


「アドルフ様?」


少しの間でも呆けていた自分が恥ずかしい。


「ん、あぁ、今日から俺のメイドになるんだったな。しっかり働けよ。」


「かしこまりました。」


ただの一礼だが、その姿は何千回も繰り返され、洗練された動きへと昇華されているようだ。それと同時に、胸についているバッジが光った。


「なんだ、それは。」


「私の『誇り』でございます。」


よくわからんが、別に興味もないから知らなくてもいい。それと……。


「お前、片目がないのか。」


「はい。」


理由はなんだとは聞かなかった。まあ、これも別に興味がないから知らなくてもいい。メイドごとき、世話をさせるだけで、深くかかわる必要なんてないのだ。



「アドルフ!誕生日おめでとう!」


夕食の席で父からそう告げられる。そういえば、今日が俺の誕生日だったな。


「おめでとうございます。」


メルテもそういう。……奴隷が勝手に発言しているのに、父は何も言わない。


「アドルフ、今日でお前は十六になるんだったな。お前も晴れて成人というわけだ。」


この国では、十六歳で成人という決まりだ。成人になったからといって、特に何かが変わるわけでもない。しいて言えば、茶会やパーティなどの招待状を直接もらえるというくらいだろうか。また、自身で茶会やパーティを開くこともできる。今までは父の招待状の分の中に『ご子息もご一緒に』などという文言が入っていたのに、直接招待されると少しは嬉しいのかもしれない。


「そこでだ、お前には貴族として恥ずかしくない人間になってほしいという思いを込めて、私が奴隷を買った。」


もうすでに隣にいるけどな。メルテ……だったか。


「だがよく聞け、これはただの奴隷ではない。かの有名なグルンレイド卿のお墨付きのメイドだ。私が今までの人生の中で一番金を使ったのは、こやつを買ったときだと胸を張って言える。」


がははと父が笑う。この屋敷も父が買ったはずだ。それよりも高い奴隷がいるなんて聞いたことがない。


「メルテ・ローズ、こやつをどこに出しても恥ずかしくないような男にしてくれ。頼んだぞ。」


そういって、父は頭を下げた。……頭を下げた⁉


「お父様、おやめください!」


奴隷に頭を下げる貴族がどこにいるのだ!


「よく聞け、アドルフ。私が頭を下げているのは、ただの奴隷ではない。胸のバッジを見ろ。」


初めて会った時も目に入った、花が描かれているバッジだ。薔薇……だろうか。


「グルンレイド卿が育て上げた『華持ち』と呼ばれる至高の奴隷だ。あのバッジをつけているというだけで、そこらの下級貴族よりもよっぽど価値があるのだ。」


まだお前は外の世界を知らないようだな。そう付け加える。


「明日からお前の剣術と魔法の稽古はメルテ・ローズから習え。」


「お父様、奴隷は、剣術はまだしも魔法を扱うことができないと思いますが。」


当たり前だ。貴族でもない限り、そう簡単には魔法は使えない。だが、さっきのことといいこの奴隷は何かが違うようだ。


「アドルフ様。」


急に耳元に吐息がかかった。横を向くと綺麗な瞳が見えた。


「うおっ!」

びっくりして距離を取った。


「近いぞ、お前!」

「申し訳ございません。」


奴隷なのにいい香りがする……って何考えてるんだ俺。


「私は魔法を扱うことができます。これがその証です。」


そういって、胸にあるバッジを近づける。巨大な胸が顔のそばで揺れる。だから近い!

「わ、分かったから離れろ。」

「かしこまりました。」

そういって俺の後ろに戻る。


「試しに、何か見せてくれ。」

「あぁ、そうだな。そういえば私も華持ちの魔法を見たことがなかった。」

父もそういって、魔法の使用を促す。


「かしこまりました。」


そういって、少し距離をとる。


「アイスロック」


メイド……メルテがそういうと部屋中に小さな氷の粒が舞う。その一粒一粒がまるで宝石のようで、光を反射して輝いている。……綺麗だ。だが、アイスロックという魔法は、攻撃魔法であるはずだ。しかもこんなに小さくないし、こんなに透明でもない。


「魔力密度が高ければ高いほど氷は透明になります。また、魔力の多重操作を行うことで一度に複数のアイスロックを操作できます。」


……それは無茶苦茶な言い分だった。一言でいえば不可能。アイスロックが透明になるほどの魔力密度を多重操作するなんて国の魔法師団の団長でも難しいはずだ。しかし、この魔力密度は本物だ。


「素晴らしい!やはり華持ちを買ってよかった。値段以上の価値がある!」

「光栄です。」


そういって一礼をすると、氷の粒ははじけ飛び、空気に溶けていく。


「……まだ、お前を認めたわけではないが、まあ半分くらいは認めてやろう。」

素直にほめることができるほど、俺は大人じゃなかった。だが、メルテは俺が思っている以上にすごい奴なのかもしれない。


「はい。ありがとうございます。」


ニコッとメルテが微笑んだ。その初めて見せた笑顔は、やはり今まで見て来な何よりも美しかった。

……別に綺麗だと思ったから認めたわけではないぞ!単にあいつの魔法が素晴らしかったからだ。


そう自分の心に言い聞かせた。


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