天界編:神殿2
「初めて神殿に入った。まあ、天界に来たのも初めてだけど。」
メアリーさんがそういう。私も神殿内には数回程度しか入ったことがない。
「見張りの兵もいないのだな。」
ご主人様の言葉をきき、周囲を見渡してみると確かに兵たちの気配が全くない。
やはり天界はどこかおかしくなっているようだ。
無限に続くような階段を登っていく、この上に神様がいるはずだ。
「ご主人様、浮遊魔法を使っては?」
「この階段は神聖なものだ。魔法を使ってはならん。」
「かしこまりました。」
メアリー様の言いたいことはよくわかる。この長い階段は浮遊魔法を使ってしまえば楽なのだが、
ここは天界のしきたりにしたがって頂きたい。
「メアリー様、私の聖法なら使用することができます。」
「いや、いい。自分で歩く。」
そういってずんずんと歩き始める。意気込んでいる姿はちょっとかわいい。
歩くこと数分、やっと神殿の最上階へたどり着いた。
そこに座っていたのは神様……ではなかった。
「久しぶりだな。ジラルド。」
「……誰だ貴様。」
「それは神に対して余りにも失礼ではないか?」
「私が知っている神は貴様のような存在ではない。」
見た目はそのまま私の知っている神様なのだ。しかしその中の存在はまるっきり別物。
しかしご主人様を知っているということは、神様の記憶も保持しているという可能性が高い。
神様は別の存在にのっとられている……?
「まあ、貴様らにはすぐにばれるだろうな。」
そういうと玉座から立ち上がり真っすぐとこちらを見据える。神眼が光り輝いていた。
「貴様のような存在に神眼を持たれるのは不快だ。」
「そういうな。今は私のからだなのだ。」
この世界に神眼を持つ存在はごくわずかである。その中でも最も強い力を持っているのは、今目の前にいる存在の目である。
「今頃は神兵が貴様のメイド達にやられていることだろうな。」
「そう思うのなら降参したらどうだ?」
「だが、四天王には勝てん。たとえバッジをつけているメイドだとしてもな。」
「……貴様はバッジの色を気にかけたことはあるか?」
「……それがどうした。」
そう神様のような存在が答えると、ご主人様は不敵な笑みを浮かべる。
「貴様はまだ我がメイドの真の力を知らない。」
マリー・ローズを知らない……。私達ローズも決して弱いとは言えないが、それ以上の実力を持つ存在。グルンレイド領の真の力。
「……まあよい。四天王が負けようと我がいる以上、どうにもなるまい。」
「貴様が生きていれば、の話だがな。」
するとご主人様の魔力密度が異常に跳ね上がっていく。余りの密度にローズですら魔力酔いを起こしてしまいそうなほどである。
幸い私は聖族なので、魔力による影響はほとんど受けない。
「イリス!下がって!」
メアリー様がすごい勢いで、こちらへ向かってくる。
「どう、されました!」
「早く!私の後ろに!}
何が何だか分からないが、メアリー様の慌てる姿を見てすぐに指示に従う。
「まずは一撃受けてもらおうか。」
ご主人様が杖を神もどきに向ける。
「ファイアーアロー・絶唱」
その瞬間、私の目が焼けた。
「があぁぁっ!」
思わず声が出てしまう。
「目を閉じて!超級第二魔法、エクストラヒール・絶唱!!
メアリーさんの結界の中にいるのだが、燃えるように熱い。しかし、究極の回復魔法のおかげで何とか立っていられる。
「超級第二魔法、アトムヴェール・絶唱!」
続けてメアリー様は魔法を唱える。
私の防御魔法はまるで歯が立たない。そばにいるだけでこの衝撃。もしあの攻撃が私に向けられたものだったらと思うと恐ろしい。
炎が消えていく。するとぼろぼろになった神もどきがそこに立っていた。
「貴様……やはり、人間としての力を超えている。」
あの攻撃を耐えた……。神もどきは見る見るうちに傷が回復していく。周囲を見渡してみると神殿には傷がついていないかった。
「神殿は大丈夫。」
改めてマリー・ローズの凄さを感じる。私を守るだけでなく、神殿すらも守り切ってしまっていた。
「ジラルド、いやグルンレイド辺境伯。貴様はここで死んでもらう。それがこの世界のためだ。」
すると聖力が神もどきに集まっていく。
「グングニル!」
圧縮された聖力が槍のような形になりご主人様に飛んでいく。
「エアヴェー……」
「超加速砲・プラズマライン!!!」
一本の光が横切った。グングニルとぶつかり合い、爆散する。
「ご主人様、横やりを入れてしまい申し訳ありません。」
「かまわん。」
さすがご主人様。まるで来ることが分かっていたかのように、驚いた様子が全くなかった。
そこにはコトアル・マリー・ローズが立っていた。私は一度魔界に行ったときに見かけたくらいなので詳しいことはよくわからない。
ただ、マリー・ローズを名乗っているということは少なくとも私よりは強いはずだ。
……だがなぜこの天界に?
「誰だ。」
「お忘れですか?あなたがはるか昔に滅ぼした種族のことを。」
「……太古の人間か。確かに、はるか昔お前を見かけたような気がする。
だが何のために戻ってきた?お前は所詮機械、命令が無ければ我に攻撃を加える意味もないだろう。」
「命令ではありません。」
プログラムされた機械が、自分の意思を持ち始めた……?
さらに勇者と聖族のみが使えるはずの、聖力を身にまとっていた。そしてあの瞳。人間が神眼を模して作ったと聞いていたが、あれは本物の神眼だ。
「滅ぼしてなお、私の前に立ちふさがるか、人間。」
ご主人様はもう魔力を放っていない。この戦いを見届けるつもりなのだ。数百年にわたる神と太古の人間の戦いを。
「ご主人様こちらに。」
メアリーさんがご主人様のそばによって結界の中に含める。私もそれについていく。
「イリス、この戦いをよく見ておけ。聖族の運命が決まる。」
「か、かしこまりました。」
確かに何方が勝ってもこの天界の運命は大きく変わる。
天界にいる聖族なら神の勝利を望むのだろうが、私はグルンレイドのメイド。神もどきの勝利を望んではいない。




