メルテ2
私はとある小さな村に生まれた。普通の親を持ち普通の生活を送ると思っていた。
しかしある日村は魔物に襲われた。村が魔物に襲われるのはよくあることだ。大人たちが武器を持ち、追い払う。しかし今回が何かが違った。
「本当ですか⁉意思持ちの魔物が⁉」
お母さんが言う。私は『意思持ち』が何なのか知らない。
「大勢の魔物が隊列を組んで襲ってきています!」
「武器を使用している魔物もいます!」
知らない大人達が言う。
「逃げるわよ!」
そういってお母さんは私の手を引く。
森の中に入ってどれくらいたっただろうか。周囲は真っ暗で、何も見えない。時折うなり声が聞こえるが、獣なのか魔物なのかわからない。
「●●、きっと大丈夫よ。少しの間隠れましょうね。」
少しも大丈夫そうな表情には見えなかった。
「●●はいい子だから、きっといつもの生活に戻ることができるわ。」
「●●も少しの間我慢してね。」
お母さんは言葉をかけてくれる。それはお母さん自身にも言い聞かせているように見えた。そして私は何が起きているかわからず、ただうなずくことしかできなかった。
さらに時間がたった時に、遠くから足音が聞こえた。お母さんの顔がこわばるのが分かる。
「静かにね。」
木の陰から外を見ると、大人たちが魔物と呼んでいるものの姿が見えた。じっとそれらを見つめていると……目が合った。それは赤く、黒く、恐ろしい目だった。
「●●、あなたは私が合図したら走って逃げなさい。」
「でも、お母さんは?」
「私はあとでから行くわ。」
「……いやだよ。……怖い。」
そういうとお母さんは私の肩をつかんだ。そしてもう一度私の目を見ていう。
「行きなさい。」
それはとても強くて美しい目だった。
「早く、来てね。」
「すぐ行くわ。」
すると私の背中を押す。そして私は森の中を駆けた。しかし、少し走った先にも魔物がいた。『グギャァ』という声とともに私の方へ走ってくる。私は恐怖でどうすることもできなかった。強引に腕をつかまれ、私の目をのぞき込んだ。するとニタッと笑うと、私の目に指を入れた。痛みが全身を支配し、その瞬間私の意識が閉ざされた。悲鳴すら出なかった。
気が付くとそこは外ではなく、どこかの部屋の中にいた。視界は半分だけだった。痛みをこらえながら体を起こす。
「目が覚めたか。」
すると目の細い男が牢屋越しに私に話しかけてきた。しかし透明な板に阻まれた声が聴きとりずらい。
「今日からお前は私の商品だ。」
そういってどこかへ行こうとする。
「私は魔物に襲われたはずじゃ……。」
「ちょうど私の派遣した兵が気絶しているお前を拾った。確かに近くに魔物がいたらしいな。その兵が殺したらしいが。ま、死ぬよりは奴隷の方がましじゃないか?」
「あの、お母さんは。」
「……しらん。」
そういって今度こそどこかへ行ってしまった。お母さんは生きているかもしれない。でも奴隷になった私にはどうすることもできなかった。
ある日、目つきの恐ろしい男が私の前に現れた。
「そしてお前は、メルテだ。」
そう告げられ、馬車に乗せられた。あぁ、私、買われるんだ。
ご主人の屋敷と思われる場所につき、少し時間がたったころにどこかの部屋に呼ばれた。多少時間が空いたのは、私と一緒に買われていた黒い痣のある子の対応をしていたのだろう。歩くだけでも辛そうに見えた。そう考えていると、ご主人が私の目の包帯を触ろうとする。
「あ、あの、私、汚いので……。」
ご主人に私の汚い部分を触らせるわけにはいかない。せめてどこかで洗わせてほしい。
「口答えするな。」
そういって、包帯をはがされる。確かに汚いはずなのに、そんなそぶりを一切見せず、淡々と症状を確かめていた。怖いと感じるとともに、不思議な人だと思った。
「見苦しいものをお見せして、す、すみません。」
じろじろと見られて、恥ずかしさのあまり、つい手で隠してしまった。
「手をどけろ。お前は私のいうことを聞いていればいいんだ。」
そういって、手をどけられる。
ご主人の考えがまとまったのか、私をベッドへ運ぶ。
その瞬間私の意識が途切れた。




