ハル・カシワシロ4
「私は初めてこの風景を見たときにはとても驚きましたが、」
メインストリートというところを歩いているときにリアちゃんがそういう。
「みなさんはあまり驚いていない様子ですね。」
「あー、そうだな。昔これと同じようなものを見たことがあるからな。」
ユウトさんがそういう。
「ここ以外にもそういうところがあるなんて!初めて知りました。」
リアちゃんはユウトさんの話をよく聞く。そこには異世界の知識や、冒険者としてやってきた様々な話があるが、どれも興味津々だ。話しているユウトさんも楽しそうである。
「あ、たこ焼き!」
エミナさんがさっそく駆け寄っていく。
まさか異世界に来てたこ焼きが手に入るとは思ってもいなかった。
が、驚くべきはそこだけではない。あっちの世界ではごくごく当たり前のことだが、こっちの世界ではありえない光景が広がっている。周囲を見渡すと平民と貴族、人間と魔族と聖族、そして龍族。その他にも様々な種族が入り混じっていた。これはこの世界では信じられない光景である。
「よくいざこざが起きないもんだね。」
「そうですね。私達が目を光らせていますので。」
よく観察するといたるところに観測魔法が仕掛けられている。
「気づきましたか?これで魔力などが感知されたら、そこへ向かいます。ですが、このグルンレイド領でそんな問題を起こすようなものはほとんどいません。」
「それもそうだね。」
でもやはり魔族はかなり少ないようだ。さっきちらっと見た魔族のメイドさん……くらいだろうか。ま、考えるのはこれくらいにして私も何か食べようかな。
「エミナさん、私もたこ焼たべるー」
「いいよー」
そういってすでにエミナさんが買っていたたこ焼きを一つもらう。……おいしい。まさにたこ焼き。これはユウトさんが号泣すること間違いなしだ。
「そうです!もう少ししたら舞踏宴を見に行きませんか?」
リアちゃんがそういう。舞踏宴とはなんだろう?
「私はいいけど……。」
ユウトさんはもう少しゆっくりこの祭りを楽しんだ方がいいかもね。
「私もいいわ。ユウトさんはゆっくりさせてあげましょ?」
ということで私とエミナさんが舞踏宴を見に行くことになった。
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「舞踏宴を見ればきっと私が言ったことが嘘じゃないってわかると思います。」
メイドの強さについてだろうか。確かに見たほうが早いというのはある。
「もうすぐ一回戦が始まるので、それだけでも見てみてください。」
舞踏宴とはグルンレイド領のメイドたちで戦う競技大会のようだ。メイドたちの意識向上、そしてその強さを周辺貴族や王国などに知らしめる意味も込められているらしい。舞踏宴を見た貴族はグルンレイド領に歯向かう心を折られるのだとか。
舞踏宴の会場につくとすごい熱気に包まれていた。円状の平らな場所をぐるっと囲むように観客席が設けられている。二つの間には強力な結界が展開されている。たぶん私の魔法じゃ傷一つつけることはできないだろう。
「さあ、そろそろ始まりますよ。」
観客席の上の方は空いていたのでそこに座る。かなり遠いので魔法で視覚から得られる情報を拡大する。司会の合図とともに二人のメイドが登場する。……これから戦うというのにメイド服なんですね。
「私たちの戦闘服はこの服なので。」
なんてことを考えているとそういわれる。ひらひらした服は絶対に戦いずらいと思う。
「それでは、開始!」
そんな掛け声とともに一回戦が始まった。
「青髪の方がオリビア、銀髪がヴァイオレットさんです。」
「どっちが勝つと思う?」
「オリビアには悪いですが……ヴァイオレットさんでしょうね。」
確かにたたずまいからして強さがにじみ出ている。が、それに果敢に挑んで行くオリビアちゃんの姿はかなりかっこいい。やっぱり本気で何かをしている姿というのは人を引き付けるのかもしれない。
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結論から言うと早すぎて見えなかった。ということになる。まあリアちゃんが解説してくれたから試合の流れはだいたい分かったのだが、本当にほかの人は見えているのだろうか。周囲を見渡すといたるところから感嘆の声が漏れているのが聞き取れる。よく見えているらしい。
「平民の方は分かりませんが、貴族の方は魔法を使用できるので。」
魔法によってスロー再生しているのだろうか。なんにせよ魔法をうまく駆使することで快適に見ることができるのだそうだ。
「でもすごいってことは分かった。」
強大な魔法を次々使用するとかそういう強さではなく、純粋に技術による強さ。私達異世界人には届かない領域。
「私達もスキルとかは持ってるけどさ、違うね。なんか。」
「そう……なのでしょうか。私はスキルというものを知らないので的確な返事ができませんが。」
「ハルちゃんはリアちゃんたちがすごいって言ってるのよ。」
エミナさんが付け加える。その通りだ。神から与えられたものをそのまま使用する私達とは違い、日々の訓練によって磨き抜かれた『本物』だ。
「私、見てよかったよ。」
「それは、よかったです。」
すごい人たちを見ると、私もこんなふうになりたいと思ってしまう。
「エミナさん、私もう少し見ていくよ。」
「そう?私は屋台の方をもう少し見たいからそっちに行くね。」
お風呂の時までには戻ると伝えて、二人と別れた。




