魔界編:その後2
「ガーナード様!お目覚めですか。」
目を覚ますと、メイドの声が聞こえた。
「俺は……。」
「大丈夫です、生きております。」
右手に力が加えられた。ずっと握っていたのか?
「も、申し訳ありません。」
俺がその手の方を見るとぱっと手を放す。
「いや、問題ない。」
そういうとメイドの目に涙が浮かぶ。
「ハーヴェスト様は命に問題はないといっておりましたが……心配で……。」
これほど思ってくれるのはうれしいものだな。
「心配かけたな。」
そういって頭をなでる。……!俺は何をしているのだ!気づいたときにすぐに手をはなす。
「あ、あ……し、失礼します!」
メイドは部屋から出て行ってしまった。
なぜそんなことをしてしまったのだろうか。
誰かに感謝する、思いやるということに意識が向くようになってしまったのか?あの戦いで、いや、あの一連の出来事で俺も思うことあった。
人は必ずしも弱者ではないということ。そして自分の弱者であるということ。いろいろと考えることはあるが、今はこれだけ忘れていなければいい。
「目が覚めたようですね。」
振り向くと、空間のゆがみがあった。
「お前は……。」
「初めまして……ではありませんね。私はグルンレイドのメイド、イザベラ・マリー・ローズと申します。」
そういって美しい礼をする。グルンレイド辺境伯の隣にいた……。
「ガーナード様、あなたに伝えることがあります。」
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「……それは本当か?」
「すべて本当です。」
俺が倒れてからの出来事をすべて聞いた。父が魔王代理になることも、……俺が領主になることも。
「俺には、その資格があるのか?」
名実ともに父には遠く及ばない。俺に領主が務まるのだろうか?
「……務まる、と考えます。」
少しの間の後にそう答える。口にするかどうか悩んだのだろう。
「私はメイドです。」
見れば……分かるが。
「あなたに使えるメイドたちを見ていましたが、あなたをよほど敬っているのでしょう。すべての従者があなたを心配しておりました。」
そういって俺の目を見る。黒く澄んだその瞳の奥にはやつの主人が浮かんでいるようだった。
「ですから、問題ありません。」
「……どういうことだよ。」
何が言いたいのかいまいち要領を得ない。
「あまりメイドを舐めないでくださいということです。あなたが一人でできなくても、それを支えてくれる存在がいるということを知るべきかと。」
それでは。といってどこかへ消えてしまう。今までメイドはいて当たり前と思っていた。だから名前を覚えることもなかったし、気にかけもしなかった。だが……それでは駄目なようだ。
「まずは、従者の名前を覚えることから始めるか……。」
そういって、部屋の扉を開けた。




