イザベラ・マリー・ローズ4
「イザベラ、今日からお前をメイド長に任命する。」
私も成人になったことで、補佐の必要はなくなった。
「かしこまりました。」
しかし、イザベラほどの才あるものを普通のメイドと同等に扱うのはおかしい。そこで、メイド長として後続のメイドたちを教育してもらうことにした。
今まで私がメイドに魔法を教えている姿を見て、大体のことは覚えているだろう。
私が特に意識していたことは、簡単な魔法を優しく教えるということだ。そのおかげもあってか、メイドたちは魔法の上達速度が早い。
もともと才能あるものを拾ってきたというのもあるのかもしれない。
まあ、メイドの本分は奉仕することだ。そこまでの強さは必要ないと思うが、グルンレイド領のメイドとしてちょっとした魔法くらいは使えるようになってほしい。
「私がどのように教えていたか見ていたな?」
「もちろんでございます。」
しっかりと私の目を見て返事をする。
ふむ、さすがはイザベラだ。この様子だと私の言わんとすることをすべて理解しているようだ。きっと無理をさせることなく、私よりも優しく教えるのだろう。
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「剣か……美しいな。」
最近私は剣の美しさに興味を持ち始めた。
私は剣術に関しては人並程度の技術しか持ち合わせていないので、剣にはそこまで興味がなかったが、いざ目の前に最高級の剣があるとやはり美しいと思ってしまう。
この剣を使用するわけではないが、聖金貨十枚で買ってしまった。まあ、飾っておくだけでも素晴らしい出来だ。剣の気持ちを考えると使用されないというのは悲しいことなのかもしれないが。
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「ご主人様、一定以上の実力をあるものにバッジを渡すのはどうでしょうか。」
イザベラがそう提案してきた。確かにこの屋敷にメイドの人数も増えてきた。ということは実力に差も出てきやすくなるということだ。
まあこれは仕方ない。向き不向きは誰にでもある。
「それはいいが、物足りんな。この際そのバッジを受け取ったものにはローズという姓をやるというのはどうだ。」
基本的に姓を名乗れるのは貴族と平民のみである。奴隷が姓を名乗れるようになるとしたら、貴族のもとへ嫁ぐか、偉大な功績を残し王から姓をもらうかだ。奴隷である以上どちらも現実ではありえない話だがな。
貴族が奴隷に姓を与えることはできるものではない。が、別にこの屋敷の中くらいは自由にさせてもらおう。奴隷であるものも多い。姓を名乗ることにあこがれもあるだろう。
外で姓を名乗りさえしなければどうってことない。
「それは素晴らしい考えですね!」
イザベラもそれは分かっているだろう。そのまっすぐな瞳はすべて理解していることを示しているようだ。
「イザベラ、お前はほかの『ローズ』とは力の差がありすぎるのではないか?」
一定以上の実力があるものに姓を授けるといっても、イザベラを基準にしてしまうと姓を与えられるものはごく数人になってしまう。
「ほかのメイドたちも力をつけてきています……がそうですね。まだ、私の力のほうが強い場合が多いかと。」
よって、少し基準を下げ、イザベラクラスの実力者にはさらに上の位を授けよう。
「それでは、そのバッジを持つ者の中で私が認めたものだけが名乗ることを許す、この姓を授けよう。今日からお前は、イザベラ・マリー・ローズだ。」
「は、はい!」
「そしてお前は私の一番のメイドだ。これを受け取るといい。」
マリー・ローズを証明する金色のバッジを渡す。
「ほかに私が認めたものにはこのバッジを渡すが、魔法の付与はない。」
魔法の付与といっても、身体を強化したり魔法の威力を挙げたりするものではない。
単にバッジが少し光るというくらいだ。そんなにたいそうな付与ではなかったが、思いのほか喜んでいたのでそれはそれでよかったと思った。




