イザベラ・マリー・ローズ2
「イザベラ、今日からお前をメイド長に任命する。」
ご主人様が十六歳すなわち成人になったときにそう言われた。もう補佐という立場は必要なくなったということだ。
「かしこまりました。」
ここ数年、ご主人様がメイドに魔法を教えている姿を見て、どのようなものを目指されているのか、たいていの予想はついた。
一般的にはメイドは奉仕するために存在する。しかしご主人様が伝えたかった本当の意味は『メイドでありながら魔法において最強の存在になれ』ということだ。
ご主人様は、魔法を使ったことがないメイドにもかなり高度な魔法操作を要求していた。私もそれにならい「最強」のメイドを目指すことにする。
「私がどのように教えていたか見ていたな?」
「もちろんでございます。」
私の覚悟が伝わったのかご主人様は満足そうな表情をする。このように思いが完璧に伝わるということはなんと素晴らしいことなのだろうか。私もうれしさのあまり胸があつくなるのを感じる。
ご主人様の膨大な魔法についての知識を吸収し、ほかのメイドたちに伝えていく。さらに私は以前ご主人様が言っていた言葉を忘れてはいない。
『剣か……美しいな。』
この意味は魔法だけでなく剣術も使えるようになれということに他ならない。おそらくほかのメイドたちは気づかなかっただろうが、長年そばに付き添っていた私にとっては瞬時に理解できた。
「まさかそのような意図が隠されているとは……。」
「私もまだまだですね。」
「さすがメイド長です。」
次々にそのような言葉が投げかけられた。
この子たちはまだご主人様の言葉の意味をすべて理解することはできないが、徐々にわかりつつあるのはいいことだと思う。
次に私は一人前のメイドになった証として、ご主人様が最も好まれているバラの花が描かれたバッジを渡すことを提案した。これはグルンレイドのメイドとして、作法、教養、そして強さが一定以上あるという証になる。
「それはいいが、物足りんな。この際そのバッジを受け取ったものにはローズという姓をやるというのはどうだ。」
「それは素晴らしい考えですね!」
生まれた時から奴隷という子も少なくなかったので、姓が与えられるということがとてもうれしいようだった。
「イザベラ、お前はほかの『ローズ』とは力の差がありすぎるのではないか?」
「ほかのメイドたちも力をつけてきています……がそうですね。まだ、私の力のほうが強い場合が多いかと。」
「それでは、そのバッジを持つ者の中で私が認めたものだけが名乗ることを許す、この姓を授けよう。」
マリー・ローズ
「今日からお前は、イザベラ・マリー・ローズだ。」
「は、はい!」
急なことで変な声が出てしまった。
「そしてお前は私の一番のメイドだ。これを受け取るといい。」
マリー・ローズを証明する金色のバッジが渡される。そこにはご主人様の魔法が付与されていた。
「ほかに私が認めたものにはこのバッジを渡すが、魔法の付与はない。」
そういってご主人様はどこかへ消えていく。
私は嬉しさのあまり、声を出すことができなかった。




