リア・ローズ番外編
「ご主人様、申し訳ありません。」
リアがご主人様に頭を下げる。私が魔の海域よりリアを救出し、一日後の出来事である。連れて帰った時は体がぼろぼろで、ジラルド様の前に立てる状態ではなかった。
「不測の事態だといえ、護衛の任務が完璧だった、とは言えないようだな。」
結果として、リアが時空間魔法で船を飛ばしたことで、依頼人は無事に極東へ到着した。しかし、肝心のリアはその場所にはいない。これは依頼をこなしていないといわれても仕方がない。
「……。」
リアが悲しい顔を見せる。
「それではこの依頼は失……。」
「お待ちください。」
私が声を上げる。リアは驚いた様子でこちらを見る。
「ことのてんまつを告げに、ハーマイド卿と同行していた護衛の方々のもとへと向かいました。」
リアの状態を告げないのは配慮に欠けると判断し、状況を伝えに行ったのだ。
「その時に、ハーマイド卿から承った伝言がございます。」
ジラルド様は目を見開く。さすがとしか言いようがない。今までのリアへの言葉はすべて茶番で、これから告げられる私の言葉はすべてお見通しだという顔をしている。
『あのメイド……リアは、命を懸けて私を救ってくれた。私は無事に極東へ到着した。依頼は無事に完了したと考えている。……感謝する。』
「ということです。」
「ほう、そういうことであれば、この依頼は失敗ではないな。」
ジラルド様が驚いたような表情をする。演技が上手な方だ。
「リア、今日からお前は“リア・ローズ”を名乗るがいい。」
そういってジラルド様は、華の書かれたバッジをリアへと渡す。
「あ、ありがとう、ございます!」
余りの出来事に、リアの頭がついていっていなようだ。
「さあ、リア。退出するよ。」
失礼しました、そうってリアを連れて大広間を出る。
「や、やりました!ヴィオラさん!」
「よかったね。」
昨日まで命を懸けて戦っていたとは思えないほどかわいらしい笑顔を見せる。魔神化していた時に生えていた角などはもうない。
「ハーヴェストにも伝えないとね。」
「そうですね!」
悪魔付きと魔族という『魔』つながりなのかわからないが、リアはハーヴェストにかなりなついているようだ。
「あの、」
「ん?」
「ユウトさんたちにも、無事を報告したいのですが……。」
ユウトさんというと、リアと道中一緒に冒険した冒険者たちか。確かに心配しているだろう。
「そうだね。じゃあ、明日にでも連れて行ってあげようか?」
「い、いえ、自分で行けます。」
あ、そういえばこの子、超級第三魔法『ヨグ・ソートス』を使っていたっけ。
「そう、気を付けていってらっしゃい。私からリアの不在をメイド長へ伝えておくから。」
「ありがとうございます。」
そういって、駆け出して行った。早くハーヴェストに結果を伝えたくて仕方がないようだ。
さて、リアはもう襲われた魔貴族のことはどうでもいいようだが、他のメイドやジラルド様はそうではない。だけと私一人の判断ではどうこうすることはできない。
今はジラルド様の決定を待つとしよう。
もしかしたら魔界が崩壊することになりかねないかもしれない。が、自業自得だろう。ジラルド様を怒らせた罪の重さを知るがいい。




