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極悪辺境伯の華麗なるメイド  作者: かしわしろ
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人間界編:創造神1

「戦いを止めろ。」

その瞬間、勇者が距離を取り戦いをやめる。……勇者でさえも奴にしたがっているというのか?一体奴は何者なのだ。


「なぜ、そこまでする。」

「……どういう意味だ。」

質問の意味がよくわからない。なぜ破壊するということなのか、なぜ再び創造するということなのか……。


「どちらもだ。」

「神の思考を読むとは不敬な。」

「いまさらだろう。」

そういうと隣にいるメイドに何やら指示を出していた。そして別の空間から椅子が二つ現れる。


「座れ。」

「……。」

命令をするな、というところなのだが、これも今更だろう。破壊しつくされた城のど真ん中に椅子が置かれる。そして我と奴が座る。奴の後ろには勇者とメイドが立っていた。……神である我のほうが下の立場のような錯覚に陥ってしまう。


「我は生命の終着点を知っている。」

その答えを予想していたような雰囲気だった。表情一つ崩すことなく我を見る。


「だから貴様は進化しきる前にそれを止めているのか。」

その通りだった。だがそれはわが身かわいさに進化を阻んでいるわけではない。我の存在などいつでも消える覚悟はある。


「我の願いはただ一つ。全ての存在に『生命の終着点』を見せないこと。それだけだ。」

「……そういうことか。」

全てを理解したような表情をして、こちらを見続ける。奴の思考を読もうするが、全く読むことができない。


「ではなぜ何度も世界を創造するのだ。」

そのまま滅ぼしたままにしてしまえばいいだろう。そう続ける。これも……その通りだ。破壊したままにしてしまえば、進化しすぎてしまうという危険性もない。ただ、それでは……


「何も……生まれない。」

「滅びることが決まっていながら進化をさせるほうが酷だと思うがな。」

そんなことは知っている。生命を創造することは我のエゴだということが。だが、それらが生み出す夢や希望が、我にとってはあまりにも尊いものだった。永遠に見ていたいと思うほどに。


「だがそれも、やはり神らしからぬ思考回路だ。」

沈黙が流れる。


「貴様、人類最後の人間だろう?」

なぜそれを……とは思わなかった。目の前に座っている存在は、全てを見通しているようでならなかった。


「……その通りだ。」

奴の椅子の後ろから、息をのむ音が聞こえる。驚くのも無理はない。神を創造し、従えている存在が人間だなんて。


--


宇宙が誕生した。


その瞬間から、時間という存在が生まれた。


そして長い時間が流れ、生命が誕生した。


それが人へと進化していった。


僕が生まれた世界は、全てが完成されていた。


どのように生き、どのように死ぬのかが生まれた瞬間に決められた。


全ての作業は『機械』が行っていた。


食べ物を作ることも、住む場所の提供も、そして人間の世話さえも。


争いが起きないように、性格の改造。

相手を幸せにするために、機械による会話の内容の決定。


もはや個性なんて言葉は、歴史の中でしか聞くことはなかった。


そして人類は終着点へとだどりついてしまった。


生きる意味の欠如。

究極のアンチナタリズム。


全ての人類は生きるという幸せを味わわなくてすみ、本当の意味で救われると信じた。


世界から子どもが消え、人が消えていった。


僕は完成された世界での、たった一つのエラー。


性格の改造がされないという、ありえないほどの確率の誤動作の中で生まれた『人間』。



この世界でただ一人、死ぬのが怖かった『人間』。



完成された世界が怖かった『人間』。



だから僕は、もう一度世界を創り変えてこの恐ろしい世界を破壊することを望んだ。



--


「人類の終着点は、往々にして正しい。」

完成した人類が導き出した答えの方が正しいに決まっているのだ。それを目の前にいる人間も理解していることだろう。未完成な人間である我が圧倒的に間違っている、と。


「貴様の夢や希望といった曖昧なものを求め、世界を創造し続けているということには納得がいった。」

「ならば、今回も……!」


奴は何も答えなかった。だが、その目からはこの世界を終わらせないという強い意思が感じられた。


「創造神よ。」

椅子から立ち上がる。そしてゆっくりと我の方へと歩き始める。


「私は貴様が間違っているとは思わない。」

そしてまた一歩距離が近くなる。


「だが、正しいとも思わない。」

今では手を伸ばせば届く距離だ。奴を殺せば、今まで通り変わらずに文明を破壊し、世界を再構築することができる……しかし、体は動かなかった。


「人類の終着点を私が変えて見せる……といったら?」

「不可能だ。」

私は即答する。


「確かに終着点をなくすことは不可能だ。だが、その点を無限遠に飛ばすことは可能だ。」

「そ、それは、いったいどうやって……。」

あまりの考えに、不可能だと思いつつもそう返事をしてしまった。


「世界は私たちの存在する場所だけではない。別の世界も存在する。それも無数にな。」


「その世界は魔力がないかもしれない。重力がないかもしれない。さらには、人すらいないかもしれない。」


「私はそれを異世界と呼ぶ。」


「私はそんな無限の数ほどある異世界を全てつなげようと思っている。」


「見たこともない種族。法則。世界。全てが絡まり合うのだ、それが収束することなどあるはずがない。」


人知を超えた考えだった。異世界を全てつなげる?そんなことは不可能だ!……だが、不可能だからこそ、それを実現するために人類は無限の努力をする。それはきっと、無限の苦しみを与えるのと同義だ。ただ、無限の夢と希望が生まれるだろう。


「ふっ、は、ははははは!面白い!」

本当にこの世界は面白い。破壊するには惜しいくらいに。


「この世界を見届けてくれるか?」

奴は我に手を差し伸べてくる。


「いいや、見届けることはできない。」

そう、我は見届けることなどできないのだ。

我は手を取らずに、立ち上がる。


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