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極悪辺境伯の華麗なるメイド  作者: かしわしろ
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人間界編:グルンレイドのメイドたち4

「セイントヒール」

なんだ……これは。温かい。


「いったいこれはどんな状況だ?」

朦朧とする意識を無理やりに覚醒させる。……危なかった。私の存在が消えるところだった。一体だれが……。


「そんな顔をするなんて、メイド長らしくないな。」

私に向かってこんなに軽率に話しかけてくるのは、やはりやつしかいない。


「……マークですか。」

「おう。」

体が青く光り輝いている。その光が私を包み込むと、体の中に暖かさが広がっていく。


「あなた、覚醒を……。」

勇者は人類の希望の象徴。神に叛逆する、人類の味方。


「すみません。遅れました。」

「アシュリー……!」


「すごい魔力密度ですね……私、数分も持たないかもしれません。」

「すぐに、メアリーと……ご主人様を遠くへ!」


これ以上はご主人様をそばに置いておくのは危険だ。


「かしこまりました。」

「その必要はない。」

ご主人様の声が聞こえた。


「しかし。」

「よい、メアリーだけを連れていけ。」

「ですが!危険すぎます……」

「くどいぞ。」

叱責を受けてしまう。


「か、かしこまりました。」

そうして、アシュリーはメアリーを連れて遠くへと移動する。


「少し、休んでてくれ。」

「私に命令を……!」

「いいから。」

真剣な目だった。


「……。」

私は無言でご主人様のそばへと移動する。マークのくせに言うようになったと、そう思った。


--


「人間の、勇者か。」

「知っているのか。」

「いつの世界も、勇者というものは存在した。」

そう、もうはるか昔のことだが、創造神として初めて世界を再構築したとき、その時も確かに勇者はいた。目の前にいるやつほど力があるわけではない者もいた。しかし勇者と呼ばれる誰もが、私の前に立ちふさがった。


「だが、お前に負けた、か。」

「負けたという表現は好かんな。我は戦いなどしておらん。」

一方的な作業だ。自然現象に勝敗などないだろう。


「それでもお前に挑んだ太古の勇者たちの想いは、称えられるべきだ。」

「無駄な努力というんだ。」

勇者が剣を構える。その剣を含めた全てが青く染まっていく。今までに感じたことのないものだった。


「だが、変わらん。」

破壊。生命を構成する全てを破壊しようとするが……青いエネルギーに阻まれる。


「この力は、人間の想いだ。この世界にいるものだけじゃない。今までに『生きていた』全ての人間の想い。」

「想いだけでは、何もできない。が、それを可能にする何かが、貴様にはあるようだ。」


この力は、やはり……


「私の創り出した、聖神に似ているな。」

「……この力も、お前が創り出したのか。」

我の創り出したものが、ことごとくグルンレイドに消されていく。それは別にかまわないのだが、その力を我に使うというのは気分が悪い。


「そうだ、だから、返してもらうぞ。」

手を伸ばすが、それを拒否するかのように勇者と神の力の結びつきが強くなる。……そうか、奴を選ぶか。


「どうした、何も、しないのか。」

勇者は警戒してこちらを見据える。


「聖神は貴様を選んだようだ。」

「……そうか。」

自身の胸に手を当て、安堵したような声を出す。メイドも聖神も、なぜ我ではなくグルンレイドを選ぶ。世界は、このまま突き進み、進化を続けようとしているのか……?


「話は、これくらいにしようぜ。」

「我を止めて見せろ。勇者よ!」

「神流・韋駄天」

剣を腕で受け止める……が、このままでは切断されてしまう!威力だけで言えば、さっきのメイドたちの方が高い。しかしその剣の方が数倍危険だ。


「魔力でも、聖力でもない……その力は一体」

「闘気、っていうんだ。」

知らない力だった。いや、力ではない?魔力のような明確なエネルギー体ではなく、何方かというと精神的なものだった。


「さっきも言ったろ?この力は人間の想いだ。その想いが強ければ強いほど、俺も強くなる。」

信じるとか、想いとか、考えるとか、そういう精神的なことは、いつの時代もとりわけ人間によく見られた。だから人は裏切り、苦しむ。そしてそれには際限がないことも知っている。


「破壊術・起爆」

「グルンレイドの名にかけて、俺はお前を止める!神流・」

勇者は飛ぶ。


「周断・煌」

大爆発を空間ごと切り裂く。こいつに魔力の反応は一切ない。だからこの魔力密度も対して影響がないようだった。


--


「人が進化し続けた先には、何があると思う。」

マークが戦っている最中に、ご主人様がそのようなことを言う。


「それは……分かりません。」

どんなに繁栄していた世界も、創造神によって新たに創り変えられている。生命の終着点を知っている存在は、誰一人としていない。


「私はな、何もない。そう思う。」

それは一体……。


「人が全てを知り、全てを観測できた時、未来はなくなる。なぜならその未来は観測されているからだ。」

確かに、次に起こることが分かっていればそれは『不確定で不確実な先の見えない未来』ではなくなる。


「これから起こることが全てわかっていれば、人は夢を失う。」

「夢を失ってしまえば、生きる意味も……。」


「その通りだ。」

そうなってしまえば創造する者もいないため、再び世界が創られることもなく滅び続けたままだろう。だから創造神が必死に世界を造り変えようとしているのは納得がいく。けれど、なぜそこまで必死なのだ。人類の進化の先を知らないのなら、ぎりぎりまで進化させればいいのではないだろうか。人々が夢を失ったときに、創り直せばいい。


「おそらくだが」

一呼吸分の時間があく。


「創造神は、生命の終着点を知っている。」

「ほ、本当ですか?」

その根拠は私には想像もつかないが、ご主人様がそういっているのだからそう言える理由があるのだろう。


「私は、それを知る義務がある。」

そういってご主人様はゆっくり歩き始める。危険です!そういうつもりだったが、ご主人様の表情はそれを許してはいなかった。私はご主人様の後ろをゆっくりとついていく。

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