人間界編:王国魔法士団第四席
「あなた魔族ね。魔族は悪、だからグルンレイドじゃなくても始末してたわ。」
「そんな考えしかできないなんて、かわいそうだな。」
「なっ!」
魔族のくせに私に対して悪口を言うなんて!若くして王国騎士団の四席になった私の力を思い知れ!
「アイスロック!」
「華流・剪定」
生成した魔法が魔族の剣先に触れると、一瞬にして拡散してしまった。やっぱり瘴気対策で魔力障壁を分厚くしていると、魔法の威力が落ちてしまう。
「その程度の実力で私たちグルンレイドを相手しようなどとほざくとは……」
「なめるな!ファイアーアロー・絶唱!」
限界まで魔力密度を上げて炎を矢を飛ばす。
「バニッシュルーム」
「私の魔法が……」
渾身の魔法が一瞬にして拡散される。
「グルンレイドにたてついたこと、後悔させてやる。」
この魔族、本当に魔族なのか?私が思っているよりも遥かに強い。そう考えていると、魔族の周りにプラズマが走り始める。
「ま、まさか、お前……」
『魔神化』
目が黒く角がより鋭くなってく。これはまさしく魔神の姿だった。
「ファ、ファイアー」
「華流・周断」
「え?」
私の右腕が地面に落ちる。
「あ、あぁぁっ!」
痛い痛い痛い!私はすぐに魔法で止血する。そして痛覚を遮断する。
「ま、魔族ごときが!」
「残念だが、私は魔族とは少し違う。正確には魔貴族というようだ。最近まで私自身も知らなかったがな。」
「ま、魔貴族……」
その存在を私は聞いたことがある。そしてその時にこう言われたのだ。『魔貴族とは絶対に戦うな』
「に、逃げ……」
「逃げられると思う?」
ヒュッという音が聞こえたかと思うと、私の体が崩れた。
「あっ……」
両足が……遠くに転がっていた。血、血を止めなければ……。朦朧とした意識の中で私は血を止める。私は左手だけを使って、あの魔貴族から距離を取ろうと地面を這っていく。
「う、うぐっ」
し、死にたくない!そんな思いで私は、ただがむしゃらに進んでいく。
「さっきまでの威勢はどこへいったんだ……」
そう言ってこちらへ近づいてくる。
「く、くるな!」
しかし、足が止まる様子はない。
「す、すみませんでした。も、もう何もしませんから……。た、助け」
ドス、そんな音が聞こえた。
「あっ」
体から熱が失われていく。痛みは不思議となかった。
「ご、めん、なさい……ご、め……」
涙が、流れ落ちた。
—
意識を失ってしまったようだ。このままだと確実に死んでしまうので、私は回復魔法をかける。
「エクストラヒール・絶唱」
切られた腕や足が、綺麗につながっていく。こいつは世間知らずではあったが、そこまで弱いという訳ではなかった。
「この子、どうしよう……」
このまま放っておくわけにもいかないので、一旦カルメラに相談することにした。カルメラの方へと移動する。
「カルメラ……」
そう声をかけようとすると、不思議な光景が広がっていた。第一席がカルメラの前で膝をついていたのだ。
「一体何をしたんだ、カルメラ……」
カルメラのことだから極悪非道のかぎりを尽くして相手を屈服させたのだろう。そういうところがあるからな。
「ハーヴェスト、何を考えているの。」
「うっ、な、なんでもない。」
こ、怖い。
「こ、この子はどうすればいいのかを聞きたくてな。」
私は抱きかかえている第四席をみせる。
「エリカ……!」
「大丈夫だ。死んではいない。」
第一席が心配そうな声をあげるが、そう答える。
「アシュリーさんに保護してもらうわ。私たちはそのまま先に進みましょう。」
そうしてカルメラは先に進もうとする。
「……そんなに心配なら、あなたはここで待ってなさい。」
そんなに顔に出ていただろうか。だが確かに心配なものは心配だ。王国は非道だと聞く。私との戦いに負けた第四席を始末しにくる可能性もある。
「ありがとう。誰か来るまでここで待ってる。」
「それじゃあ、先に行くわね。」
カルメラは城の方へと進んでいく。カルメラのその切り替えの早いところが、私は本当にすごいと思う。いや、そんな性格でもないと私たちのパーティのリーダにはなれなかったと言っていた気がする。カルメラがそんな性格になったのは私のせいだろうか?い、いや、そんなはずはないはずだ。ヴィオラのせいだ、きっと。




