人間界編:王国騎士団第五席
目の前にいるのは強大な魔族。まずは団長に知らせるべきなのだが、私のそばにはか弱い学生がいる。ここから離れるわけにはいかない!
「バルザ流・雨切り!」
「エアヴェール・絶唱」
そういって切りかかるが、いとも簡単に受け止められてしまう。……きっとこの魔族がグルンレイドの切り札ということだろう。俺も運がないな。しかし、騎士団となってからはそのような弱音を吐くという考えは捨てたのだ。
「負けるかぁぁ!バルザ流奥義・天切り!」
「華流・剪定」
ガギィンという音とともに、またもや受け止められてしまう。そして私の剣が少しはこぼれをしていた。
「奥義が……通用しない!」
「今のがあなたの最高の攻撃ですか。」
徐々に空中に浮かんでいくメイドは、この異様な姿と相まって人知を超えた悪魔のように思えてしまう。……俺は、ここで死ぬのだろうか。
「足が、震えてますよ?」
言われて気が付いたが、知らず知らずのうちに私の足が震えているようだった。しかし、私がここであきらめてしまったら、後ろにいるあの子はどうなるのだ。
「バルザ流……」
剣を振ろうとした瞬間、あのメイドは俺の視界から消えた。ど、どこだ!
「もう」
心臓が止まった……ように感じた。いつの間にかあのメイドが俺のすぐ横にいた。そして、うまく呼吸ができない。
「十分ではないでしょうか。」
そちらを振り向くことすら、恐怖でできなかった。全身を全力の闘気で覆っているのだが、瘴気の影響を受けているように感じる。
「そのまま地面に崩れ落ちれば、痛みなく意識を失うことができます。」
きっとこのまま言うとおりにすれば、痛みなく死ぬことができるといっているのだ。これほどの力の差を見せつけられてしまえば、それもいいかもしれないな……。俺は膝を折ろうと……いや、これで俺は胸を張って死ねるのか?守るべきものを一人残して、俺は『騎士』といえるのだろうか。……違う。
「俺は……王国、騎士団……第五席」
倒れるわけには、行かない。王のために、そして守るべき人々のために。
「レドリー・バトラーだ!」
俺は立ち上がる。
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てっきりこのまま倒れてしまうものだと思っていた。そしたら睡眠魔法で少しの時間眠らせてあげたのに。しかし、彼は立ち上がった。
「その心意気は、認めましょう。」
私は再び剣を抜く。このまま私の瘴気を極限まで高めれば、そのまま倒れてくれるだろうが、これでは仁義にかける。私の剣で、沈める必要がありそうだ。そう思っていると男が剣を構える。そして全ての闘気を剣へと込めていた。これだと、私の瘴気を直接浴びることになってしまう。が、構わずに剣へと闘気を込め続ける。
「バルザ流奥義・天翔ける星屑」
速い……!が、所詮速度がある状態だ。
「タイムスロウ」
時間の流れを遅くする。これも時間対策をしていれば、この魔法の影響を受けることがないのだが、彼は今闘気をまとってはいない。
「華流奥義・轟一線」
「……。」
静かに男は倒れた。男はうめき声ひとつあげなかった。そして時間の流れは元に戻る。
「エクストラヒール・絶唱。」
このままでは数分も持たずに死んでしまうので、私は回復魔法をかける。しかし後数時間は眠ったままだろう。
「骨のある人でしたわね。」
アナスタシアちゃんも地面に倒れている人を見ながらそういう。
「そうだね。王国騎士団って、そこら辺の貴族が雇っているような護衛と同じ感じだと思ってた。」
私はその男の人を魔法で浮かせて、安全な場所へと運んでいく。しかしこの程度の強さで五席であれば、おそらくほかのメンバーたちも問題ないとは思う。だが、油断をしてはいけない。いかなる時も本気で取り組むのがグルンレイドのメイドである。
「だけど、覚悟だけじゃ何も守れない。力が必要だよ。」
「確かにそうですが、力が必ずしも伴っていないとダメ、いうわけではないと思いますわ。」
確かに覚悟はある程度必要。しかしそれ以上にそれを可能にする“力“が必要だとご主人様も言っていたではないか。
「いや、いくら覚悟があっても強い方がそこに立ってるんだから、まず力でしょ?」
「いいえ、強い存在でも弱い存在でも覚悟が先ですわ。」
二人の視線が交差する。アナスタシアちゃんは昔からそんな節があったが、魔法学校に行ってからさらに甘さが増したと思う。
「昔から思ってるけど、アナスタシアちゃんって考え方が甘いよね。」
「リアさんはいつも野蛮な考え方をしますわ。」
鋭くなった視線がぶつかり合う。アナスタシアちゃんの闘気がより分厚くなっていくのを感じる。
『ハーヴェストさん、意見が食い違った時がどうしたらいいですか?』
『戦え。勝ったほうの意見が正しい。』
ハーヴェストさんもそう言っていた。話し合いの末、意見が食い違った時は……。
「戦うしかないようだね!」
私は時空の歪みから剣を取り出す。
「リアさん……あなたはいつもそうですわ。」
アナスタシアちゃんも隠していた短剣を引き抜く。
「カルメラさんのように話し合いで解決しようとは思いませんの?」
「私はどちらかというとハーヴェストさんから教えを受けているからね。」
確かにアナスタシアちゃんはよくカルメラさんから色々なことを教わっていた印象だ。
「仕方ないですわね……」
そうして私は地面を蹴った。




