コトアル・マリー・ローズ1
「はぁー疲れた!」
そのような声を出すのはマーク様、現在は私のご主人様である。
「どうぞ。」
そう言って水にレモンのエキスを入れた飲み物を渡す。ヴァイオレットさんと剣の訓練を行っている。
「マークさん、まだ踏み込みが弱いです。」
「お前の闘気が分厚すぎるんだよなぁ……」
そのような会話が繰り広げられる。ヴァイオレットさんは剣の達人でこのメイドの中でも頭ひとつ抜けている。しかしご主人様もそれに負けておらず、しっかりとくらい付いている。
「どう?コトアル、マークさんのメイドとして慣れてきた」
「はい、とてもよくしてもらっています。」
ご主人様はとても優しく、そしてとても強い。と言ってもジラルド様ほどではないけれど。
「夜は?」
「べ、別に何にもないです!」
「何もないぞ!」
「……怪しい。」
ご主人様とヴィオラさん、アイラちゃん、ディアナちゃん、ビクトリアちゃん、そして私の六人が同じ部屋で過ごしている。というか天界から帰って来た後に、新たな部屋をご主人様がこの屋敷内に増設してくれた。ベッドが6つあり、その中にキッチン、バス、トイレなど全ての設備が揃っていた。
「ご、ご主人様はヴィオラさんの隣で寝てますから!」
「おい!それは余計な……」
「す、すみません!」
私は頭を下げる。それをニヤニヤしながらヴァイオレットさんはみていた。本当に何もないのに……。しかし私が魂というものを持ってから、感情が渦のように体の中を駆け巡っている。前なら、ご主人様と一緒にいても何も感じなかったが、今は近くにいるだけで血の流れ早くなるのを感じる。いったいなんなのだろうか……。
「マークさんはどうですか?」
「なに?」
「コトアルはうまくやっていますか?」
私の前でそのようなことを話されるのは少し緊張する。
「いや、すげぇよコトアルは。ヴィオラはなんというか、怖いじゃん?それに比べてコトアルは優しいのなんの。俺の行動全てを気にしてくれて……」
「ちょ、ちょっと待ってください。それ以上は……」
私の顔がすごく熱ってくるのを感じる。またそれをみてヴァイオレットさんがニヤニヤしている。……助けて。
「このまま聞いていたらこっちまで恥ずかしくなるので、訓練を再開しましょう。」
「そ、そうか……」
ご主人様はまだ言い足りなそうな表情をして渋々訓練へと足を運んでいた。
きっとこれをヴィオラさんが聞いたらまたマークさんに突っかかるんだろうな、ということを考える。彼女はご主人様のこと大好きだから。アイラちゃんとディアナちゃんも私を歓迎してくれたが、ビクトリアちゃんだけは棘のある態度だった気がする。しかし、初めて模擬戦闘をした後くらいから大人しく私のいうことを聞くようになった。
「マーク、よくやっておるようじゃの!」
そんなことを考えていたら、ビクトリアちゃんが訓練場にやってきた。自分のことは終わったのだろうか。
「ビクトリア!お前訓練はどうした?」
「終わったのじゃ。」
ということはまだアイラとディアナは訓練を行なっているということだろう。やはりビクトリアちゃんは優秀らしい。
「ビクトリアちゃんも飲む?」
「そ、そうじゃ……です。飲むのじ……ます。」
私はとても仲良くなりたいのに、初めての模擬戦の後からちょっと怖がられている気がする。
「相変わらずだなお前ら。」
ご主人様がそのようなことを言う。
「違うのじゃ、こやつ……コトアルが……」
何かした?という意味を込めてビクトリアちゃんの方を見ると、怯えた表情をして言葉が止まってしまった。
「いや、コトアルは優しいんだぞ?」
「あれは悪魔じゃ……」
模擬戦のことを思い出しているようだった。本当にちょっと足とかを切断したり、脳を破壊したりしただけなんだけどな……。機械だった頃の癖がまだ抜けていないのかもしれない。
確かに人間になって初めて気づいたが、私が思っているより生命は痛みをより強く感じる。機械はダメージを受けたと言うときに痛みという信号を出して、戦闘をより効率よくできるようにしているだけだった。……確かに人の痛みを考えない攻撃だった気がする、なんか申し訳ない気持ちになってしまう。
「確かにあの時はごめんね。今度は人間らしい戦い方をするから、またやろう?」
「い、嫌じゃー!」
そう行って涙目になるビクトリアちゃんはちょっと可愛いと思ってしまった。




