アシュリー2
私は一般奴隷として売られた。というのも別にどうしようもなくて奴隷になったわけではない。人攫いに攫われたのだが、対抗しようと思えば対抗できたし、奴隷契約の時に契約書に細工をしたので、ここを抜け出そうと思えば抜け出せる。しかしなぜそれをしないのかといえば、お金が欲しいからである。
奴隷を買う人は多くの場合、お金を持っている。一旦私を買った人の家に奴隷として侵入し、契約書を破壊し、金品を全て盗むことで私はお金を手に入れることができるのである。
今回も一人の貴族がこの奴隷商に顔を出した。
「これはこれはグルンレイド辺境伯、ごゆっくりしていってください。」
ここの支配人がそう声をかける。この貴族はグルンレイド辺境伯という名前らしい。確かに金を持っていそうな顔をしている。
「貴族奴隷を見せろ。」
そう言って一般奴隷にはめもくれずに貴族奴隷の方へ向かっていく。確かに奴隷商の特色が出るのは貴族奴隷だが、そこに直行するのは金持しかしないだろう。しかしどれもお気にめさなかったようで、貴族奴隷を連れてくる気配はなかった。
「一般奴隷もなかなかのものを取り揃えております。」
「ふむ。」
仕方ないという表情で一般奴隷を見ていくようだ。次々におりの前を通り過ぎ、わたしの前で止まった。おっ、これはチャンスか!そう思った瞬間わたしの手足が震えだす。
「えっ……」
思わず声を出してしまう。今までそんなことは一度としてなかったが、今回は震えがとまらない。
「この娘を見せろ。」
「はいただいま。」
そう言ってわたしは檻から出される。震える足を無理やり立たせて、いつも通り相手の魔力密度を観測する。どれほどの実力なのかをあらかじめ頭に入れておくことで、スムーズに金品を盗めるようにするためだ。しかし、それを見た瞬間頭の中が大きく揺れる。
「ゔぉぇっ……!」
そして次の瞬間に吐いてしまった。な、なにが……。
「おや、どうしたのだ、わたしの顔を見て吐くとは。」
不敵に笑っている貴族がそういう。
「も、申し訳ありません。おい、何をしている!」
支配人は貴族に誤り、わたしを怒鳴りつける。しかし私はまだ頭が痛くて立ち上がることができなかった。
「ヒール・絶唱」
そんな声が聞こえた瞬間に私の頭痛は収まった。ま、まずいこの貴族は私では手も足も出ないほどに強い。逃げなければ、こ、殺される。
「動くな!」
支配人がそう叫ぶ。
「くっ!」
縛りの魔法が私の動きを止めるが、事前に細工をしていたおかげで効果を薄めることができている。そのまま私は走り続ける。
「な、なぜ動けるのだ!」
「動くな。」
心の底に響くようなそんな声が聞こえた。その瞬間私の足は一歩も動かなくなる。魔法の反応は一切なかった。
「あの娘はいくらだ。」
「だ、大金貨二枚です!」(銅貨:100円 銀貨:1000円 金貨:1万円 大金貨:100万円 聖金貨:1000万円)
「これでいいか。」
「あ、ありがとうございます。」
後ろからそのような会話が聞こえる。私はあの貴族の顔を見るのが恐ろしくて振り向くことができなかった。
「これであの娘の所有権は私にあるな。おい、こちらを向け。」
「……っ。」
振り向かないと殺される!だが私の体が思ったように動かない。
「あっ!」
自分の体重を支えられずに膝が折れてしまう。
「はっ、はっ……。」
呼吸もうまくできなくなっていく。頭から血が抜けていく感覚に襲われる。視界が黒くなっていき、周囲の音だけが鮮明に聞こえてくる。
「私の魔力を観測しすぎたか。仕方ない。」
そういって私を買った貴族がこちらに近づき、私を抱き上げる。その瞬間に私の意識は途切れた。




