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極悪辺境伯の華麗なるメイド  作者: かしわしろ
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スカーレット4

「今日からあなたは私と同じグルンレイドのメイドの一人です。」

私のご主人様はグルンレイド領を治めているらしい。身分は辺境伯。とりわけ高いというわけではない。しかしあの魔力の量からしてただの辺境伯というわけでもないようだった。


「やることは山ほどありますが……まずはここの生活に慣れてもらうことが最重要ですね。」

そんな話を聞きながらある部屋に案内された。


「ここが私と、あなたの部屋です。」

「あなたと一緒の部屋ですか⁉」


「……私の名はイザベラです。イザベラとよんでください。」

「イ、イザベラさんと同じ部屋でいいのですか?」

かまいません。そういいながら扉を開けた。中を見ると、ここはまるで貴族の部屋のようだった。


「……ご主人様の部屋でしょうか?」

「何度も言いますが、私とスカーレット、あなたの部屋です。」

メイドに与える部屋にしては立派すぎる。絨毯、カーテン、照明そのすべてが一級品のようだった。


「こちらに着替えてください。」

そういって渡されたのはメイド服だった。


「わ、私は奴隷です。」

「知ってます。」

メイドとは平民がやることであって、奴隷がつける職ではないはずだ。私は言われたとおりにメイド服を着ようとするが、このようなものを着たことがないのでうまくできない。


「……仕方ないですね。」

そういってイザベラさんが私に服を着させてくれた。


「あ、ありがとうございます。」

次に私は屋敷のすべてを案内してもらった。辺境伯という身分にしては大きすぎる屋敷だった。しかしその大きさに比べ、ここで働いている人を見ることはなかった。


「あの、イザベラさん以外のメイドは……。」

「いません。」

どういうことだろう。この広い屋敷はどこを見ても掃除が行き届いているようだったし、庭の手入れだって完璧だった。ほかに働いている人がいないなんてことはおかしい。


「掃除や洗濯はどうしているのですか?」

「すべて私が行っています。」

信じられない。が、この人ならできそうな気がする。根拠はないがそう思えてしまう。


「以上で案内は終わりです。何か聞きたいことは?」

「私はここで何をすればいいのでしょうか。」

「大きく分けて二つ、私の手伝いと、戦闘訓練です。」

「戦闘、訓練……。」

イザベラさんの手伝いというのは分かる。この広い屋敷の掃除や、食事、そのほかの雑務を手伝うということだろう。しかし戦闘訓練とは何だろうか。


「グルンレイドのメイドたるもの、常にご主人様を守らなければいけない立場にあります。」

……メイドとは本来そのような役目があっただろうか?まあ、私がどうこう言える立場ではない。


「あなたはもっと強くなれます。そしてご主人様を守る盾となりなさい。」

「は、はい。」

いいえ。とは言えなかった。すでに私はここの奴隷なのだ。貴族に粛清をするはずの私が、貴族を守る盾となるなんて、とんだ笑い話だ。貴族に殺されたあの子に顔向けできない。


「勘違いしないでください。あなたは貴族を守るのではなく、ご主人様を守るのです。」

私の浮かない表情を見たのか、イザベラさんはそういった。ご主人様は、貴族だと思うのだが。


「……まあ、徐々にご主人様を知るといいでしょう。」

そういって再び歩き出す。それについていくように私も歩き始めた。


--


「お風呂に入ります。」

「お風呂……とは何ですか?」

イザベラさんが急にそんなことを言った。私はその単語を聞いたことはない。


「湯につかることです。」

湯につかることが何だというのだ。体を洗うのであれば、水をかけてこすればいいのではないだろうか。


「こちらへ。」

後ろをついてくと、変な形の扉にたどり着いた。中に入ってみると……なんだここは、四角い箱がいくつも並んでいる。その中の一つ一つにかごが入っているようだった。


「服を脱いでください。」

そういうとイザベラさんは服を脱ぎ始める。


「な、何をしているのですか!」

別に一緒に水を浴びる必要なんてないのではないか。別々に浴びるのが普通だと思うのだが……。しかし私も命令には逆らうことはできないので、素直に従って服を脱ぐ。あまり人に見せたい肌ではないのだが。


「白い綺麗な肌ですね。」

「綺麗……ですか。」

そういわれたのは私が生きてきた中で初めてのことだった。私自身、蔑みの対象となっていたこの肌はあまり好きではなかった。それを綺麗だといってくれる人もいる。それを初めて知った。


「あ、ありがとう、ございます。」

「さあ、入りますよ。」

イザベラさんは脱いだ服をかごに入れていたので、私も真似をしてかごに入れる。そしてもう一つ奥の扉を開けて中に入る。


「なんですか、ここは……。」

広い空間が広がっていた。四角く区切られた場所には水……いやお湯が張られていた。


「こっちへ。」

そのお湯には向かわずに脇にある椅子へと向かっていき、そこへ座る。


「このつまみを上へ回してください。」

言われたとおりにしてみる。すると急に上から水が出てきた。


「きゃっ!」

余りのことに声が出てしまう。


「す、すみません。先に言っておけばよかったですね。」

イザベラさんの周りに魔力が集まってくる。


「ここに魔力を流す量を調節することで、温度を調節できます。」

するとイザベラさんは水の出る筒をもって私の足にかける。冷たい水かと構えていたが、それは温かいお湯だった。そして徐々に温度が上がっていき、そして下がっていく。


「こんな感じでしょうか。」

私はイザベラさんの使用していた魔力量を見て、それと同じ感じで調節をする。


「すごいですね。一目見ただけでできてしまうとは。」

体中にお湯をかけた後は、四角いものを手に取っていた。


「石鹸です。これをもってこすってみてください。」

言われたとおりにすると、泡が出てきた。そしていい香りもする。


「これで体の汚れを落とします。」

同じように動きをまねる。確かに水でこするよりも、すべすべになっている気がする。全身を石鹸というもので洗うと、再びお湯をかけて泡を落とす。次は液体が入った筒を上から押していた。


「このようにするとシャンプーが出てきます。」

これもまねてやってみる。するとピュッっと液体が出てきた。


「す、すみません。」

手で受け止めるはずが、筒を上から押すことだけを考えていたので中身を無駄にしてしまった。


「問題ありません。もう一度。」

「は、はい。」

手に取ったものを、イザベラさんは自身の黒髪につける。私も銀髪……というよりそれよりもさらに白い髪につける。髪をこすって泡を立てているようだ。しかし初めてのことなのでなかなかうまくできない。


「……仕方ないですね。」

そういうとイザベラさんは後ろにまわり、私の髪に触れる。


「な、なにを⁉」

「おとなしくしていてください。髪はこうやって洗うのです。」

するとシャカシャカと音を立てながら、泡が広がっていく。人に体を触られるのはいつぶりだろうか。イザベラさんの手はとても優しく、気持ちよかった。それが終わるとお湯がかけられる。


「次はコンディショナーというものを使います。」

そうしてさっきと同じように髪に液体をつけられ、お湯で流される。


「次は私が……。」

「いえ、大丈夫ですよ。」

イザベラさんは断る。……そうだ私は何を言っているのだ。こういうことをいうような性格ではなかったはずだ。しかし……。


「先ほどの動きは完璧に覚えました。……やらせてください。」

「そ、そうですか。」

イザベラさんは少し驚いたような顔をして、椅子に座る。そしてさっき私がやってもらったことと同じように、優しくそして丁寧に髪を洗っていく。私の手からさらりと髪がぬっていくのが感じられる。とてもきれいな黒髪だと思う。


「……綺麗ですね。」

「ありがとうございます。」

初めて、私に笑顔を見せてくれた気がした。


「それではタオルで体を拭いてから、お湯につかります。」

言われたとおりに体をふく。イザベラさんはタオルを脇に置いていたので、それをまねてからお湯につかろうとする。


「熱っ……。」

「最初だけですよ。」

思ったよりも温度が高かった。魔法で中和させようと考えたが、イザベラさんはそうやっていなかったので私もそのまま入ることにする。


「はぁ……。」

声が出てしまった。体の芯から温まるようなこの感覚は、初めて味わうものだった。


「気持ちいいですか?」

「はい……。」

私の中にあった氷が徐々に解けていくようだった。このまま私の体まで溶けてしまいそうになる。


「あなたが貴族を憎む気持ちは私も分かります。」

「それはどういう……。」

「私も奴隷ですから。」

「そ、そうなんですか!」

イザベラさんは貴族奴隷だった。しかし今でも奴隷であるとは思えなかった。立派な部屋があり、食事もしっかりととることができ、そして何よりこのようなお風呂というものまで自由に入ることができる。


「ご主人様は、そういう方なのです。」

これもすべてご主人様のはからいというものなのだろうか。だとしたら、私の知っている貴族とは全く違うものだ。


「私は、信じてもいいのでしょうか。」

ジラルド様は他の貴族と違うと、信じてもいいのだろうか。


「えぇ。」

その声は、本当にご主人様を想っているようなそんな優しい声だった。


「分かりました。……信じます。」

ということはきっとご主人様が言っていたあの言葉も嘘ではないのだろう。『私もそのような貴族は消えるべきだと思っている』この言葉も私は信じよう。そう思った。


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